はじめに
男性用サプリメント市場は世界的に急拡大しており、不妊治療中のカップルにおいても男性パートナーがサプリメントを使用することは珍しくありません。男性不妊症の原因の多くは特発性であるため、精子形成に関与するとされる葉酸や亜鉛への期待は根強く、市販の男性向け妊活サプリメントにはこれらが広く配合されています。亜鉛は精子形成における酵素や受容体の構成成分として、また酸化ストレスからの防御として重要視され、葉酸はDNA合成・メチル化に関与するとされています。しかし、これまでの臨床試験はサンプル数が少なく、出生率を主要評価項目とした大規模RCTは存在しませんでした。今回は、2370組のカップルを対象に男性パートナーへの葉酸・亜鉛補充の効果を検証した大規模RCTであるFAZST(Folic Acid and Zinc Supplementation Trial)をご紹介いたします。
ポイント
不妊治療中のカップルにおいて、男性パートナーへの葉酸・亜鉛サプリメント補充は精液パラメータや出生率を改善せず、むしろ精子DNA断片化率を有意に上昇させ、消化器系副作用も増加したため、検査などをしない無作為な使用は積極的には推奨する段階ではなさそうです。
引用文献
Schisterman EF, et al. JAMA. 2020 Jan 7;323(1):35-48. doi: 10.1001/jama.2019.18714.
論文内容
男性パートナーへの葉酸・亜鉛サプリメント補充が精液の質および出生率に与える影響を検討した多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験(FAZST)です。米国内4施設(ソルトレイクシティ、アイオワシティ、シカゴ、ミネアポリス)の生殖内分泌・不妊専門クリニックにおいて、2013年6月から2017年12月にかけて不妊治療を計画中のカップル2370組(男性:18歳以上、女性:18〜45歳)を登録しました。男性を施設および治療法(体外受精・施設内その他治療・施設外その他治療)でブロック無作為化し、葉酸5mg+亜鉛30mg群(n=1185)またはプラセボ群(n=1185)に1:1で割り付け、6ヶ月間毎日服用させました。共同主要評価項目は、無作為化後9ヶ月以内の妊娠に基づく出生率、および無作為化後6ヶ月時点の精液パラメータ(精子濃度・運動性・形態・精液量・DNA断片化指数・総運動精子数)としました。
結果
出生率は葉酸・亜鉛群34%(404/1185)、プラセボ群35%(416/1185)であり、両群間に有意差は認められませんでした(RD、−0.9%;95%CI、−4.7%〜2.8%)。体外受精層、施設内その他治療層、施設外その他治療層のいずれのサブグループにおいても同様に有意差は認められませんでした。
精液パラメータについては、精子濃度(平均差:−4.3 million/mL;95%CI、−12.5〜3.9)、運動性(平均差:−0.5%;95%CI、−2.5〜1.5)、形態(平均差:−0.4%;95%CI、−0.8〜0.1)、精液量(平均差:0 mL;95%CI、−0.2〜0.2)、総運動精子数(平均差:1.4 million;95%CI、−19.7〜22.5)のいずれも両群間で有意差は認められませんでした。一方、DNA断片化指数は葉酸・亜鉛群で有意に高値を示しました(29.7% vs. 27.2%;平均差、2.4%;95%CI、0.5%〜4.4%)。精子濃度・運動性・形態・DNA断片化指数を含む総合的な精液質パーミュテーション検定では、葉酸・亜鉛群で有意に低い精液質が示されましたが(tsum4=−6.06;P=.03)、これはDNA断片化指数の寄与が大きく、DNA断片化指数を除いた3パラメータのみの検定では有意差は認められませんでした(tsum3=−3.76;P=.10)。
副次評価項目として、hCG検出妊娠率、臨床的子宮内妊娠率、異所性妊娠、多胎妊娠、早期妊娠損失、帝王切開率、子癇前症または妊娠高血圧、妊娠糖尿病、出生体重、在胎不当過小児(SGA)などにはいずれも有意差は認められませんでした。しかし、早産(37週未満)は葉酸・亜鉛群で有意に高頻度でした(67例 [6%] vs. プラセボ群45例 [4%];RD、1.9%;95%CI、0.2%〜3.6%;RR、1.49;95%CI、1.04〜2.16)。感度分析として36週・38週をカットポイントとした場合には有意差は認められませんでした(36週:RD、0.68%;95%CI、−0.70%〜2.08%、38週:RD、0.87%;95%CI、−1.33%〜3.07%)。体外受精層における胚発育パラメータ(受精率、胚の細胞数・形態、良好胚数、凍結受精胚数など)は両群間で有意差は認められませんでした。
有害事象については、葉酸・亜鉛群でプラセボ群に比べ消化器症状が有意に多く認められました。腹部不快感・疼痛(6% vs. 3%;RR、1.62;95%CI、1.12〜2.34)、悪心(4% vs. 2%;RR、2.06;95%CI、1.29〜3.29)、嘔吐(3% vs. 1%;RR、1.88;95%CI、1.06〜3.34)、および紅斑(2% vs. <1%;RR、2.88;95%CI、1.29〜6.41)が有意に増加していました。重篤な有害事象は両群合計12例(葉酸・亜鉛群7例、プラセボ群5例)であり、介入との関連は認められませんでした。
私見
本試験は不妊治療中のカップルを対象とした過去最大規模のRCTであり、男性パートナーへの葉酸・亜鉛補充が精液パラメータおよび出生率のいずれにも有益な効果を示さなかったという点で、臨床的意義の大きい報告です。
この結果は先行研究との間で以下のような対比が見られます。
肯定派(葉酸・亜鉛の有用性を示唆する報告):
- Wong WY, et al. Fertil Steril. 2002;77(3):491-498.
葉酸5,000μg+亜鉛66mgの補充により、亜性不妊男性において精子濃度の有意な増加を報告。本試験と異なりサンプル数は少なく(n=108)、無精子症男性を除外していた点に注意が必要です。 - Irani M, et al. Urol J. 2017;14(5):4069-4078.
葉酸単独および葉酸+亜鉛の補充が精子濃度を改善すると報告したメタアナリシス。ただし著者らは試験間の不均一性に言及しており、大規模試験の必要性を訴えていました。
否定派(本試験と整合する報告):
- Steiner A, et al. Hum Reprod. 2018;33(suppl_1):i30.
複合抗酸化サプリメント(葉酸・亜鉛を低用量含む)による精液パラメータへの有益な効果を認めなかったことを報告。本試験の知見と一致します。 - Stenqvist A, et al. Andrology. 2018;6(6):811-816.
DNA断片化指数が高値の男性における抗酸化剤補充試験で、無精子・低精子濃度検体を欠損値として処理した場合にDNA断片化指数への影響が消失したと報告。本試験でも同様の感度分析で同一の結果が得られています。
臨床的には、亜鉛欠乏が明確な症例に対しては低亜鉛血症治療薬(酢酸亜鉛水和物)の投与を検討する余地はありますが、根拠のない一般的なサプリメント使用を積極的に推奨することは、現時点では支持されなさそうです。まず男性不妊専門外来での精査を行い、個々の病態に応じた介入を検討することが良いと思われます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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