研究の紹介
参考文献
日本語タイトル
イソトレチノイン治療は非閉塞性無精子症および極少精子症における新規精子産生を改善する可能性がある
英語タイトル
Treatment with isotretinoin can improve de novo sperm production in nonobstructive azoospermia or cryptozoospermia.
Jessup CM, Amory JK, Turek PJ. J Assist Reprod Genet. 2025 Aug;42(8):2793-2799. doi: 10.1007/s10815-025-03567-6. PMID: 40681858.
はじめに
男性不妊、とくに無精子症や極少精子症に対する治療は現在でも限られており、精巣内精子採取術などの外科的手技に依存しているのが現状です。新たな治療戦略の開発が求められています。
今回の研究で取り上げられているイソトレチノインは、ニキビ治療薬として広く使用されている薬剤であり、日本でも自費診療で使用される機会があります。ビタミンA誘導体であるレチノイン酸が精子形成に重要な役割を果たすことに着目し、ホルモン療法とは異なる新たなアプローチとして注目されています。
これまでにも少数例での有効性が報告されていましたが、本研究はそれよりも多くの症例を対象としており、非閉塞性無精子症や極少精子症に対する治療として、その臨床的有用性をより明確に示そうとしたものです。
研究のポイント
イソトレチノインにより約37%で射出精子の出現が認められました。
特に極少精子症では高い反応率が示されました。
外科的精子採取を回避できる可能性が示された点が重要です。
研究の要旨
本研究の目的は、ビタミンA代謝産物であるレチノイン酸が精子形成に重要であることを踏まえ、経口イソトレチノインが非閉塞性無精子症および極少精子症男性の精子産生を改善するかを検討することでした。
方法として、非閉塞性無精子症または極少精子症の不妊男性に対し、イソトレチノイン(20 mgを1日2回)を投与し、3~9か月間にわたり精液検査および代謝評価を行いました。主要評価項目は、IVF-ICSIに使用可能な運動精子を射出精液中に安定して得られるかどうか(*)としました。
結果として、30例中11例(37%)で運動性のある射出精子の出現が認められました(表)。無精子症では26例中7例(27%)、クリプト精子症では4例中4例(100%)が反応を示しました。また、精巣組織所見ではMaturation Arrest例において比較的高い反応率が認められました。
副作用としては、全例で皮膚乾燥や口唇乾燥を認めたほか、易刺激性、脂質異常、皮疹などがみられました。
結論として、イソトレチノインは一部の非閉塞性無精子症および極少精子症男性において精子産生を促進し、外科的精子採取を回避できる可能性が示唆されました。
*評価項目の説明
本研究の主要評価項目は、イソトレチノインが、精巣内精子採取術を行うことなくIVF-ICSIへ進むことが可能となる程度の、十分量の運動性を有する射出精子を産生できるかどうかを評価することでした。ここでいう「十分量」とは、ICSIにおいて卵子1個あたり形態的に正常な精子が1個以上存在すること、「信頼性」とは、少なくとも連続する2回の精液検査で精子が確認されることを指します。この状態を「完全奏効(complete response)」と定義しました。
副次評価項目として、イソトレチノイン治療後も射出精液中に精子が認められなかった場合に、精巣内精子採取術によって十分な精子が得られるかどうかを評価し、これを「部分奏効(partial response)」と定義しました。
**生殖予後:
イソトレチノイン治療によっても射出精液中に精子が出現しなかった無精子症患者のうち、その後に再度micro-TESEを施行した症例では、7例中6例(86%)において、IVF-ICSIで使用するすべての卵子に対応できる十分量の精子が回収されました。さらに、7例中5例(71%)では、将来のIVFに備えて凍結保存が可能な量の精子も得られました。
これまでに、完全奏効例6例において、射出精子を用いたIVF-ICSIが9周期実施され、正常倍数体(euploid)胚が13個得られ、現在までに1例の出生が報告されています。また、部分奏効例において再度の精子回収を行った症例では、6周期のIVF-ICSIが実施され、そのうち1例で妊娠が成立しました。なお、本治療による自然妊娠は現時点では認められていません。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 対象 | 30例(無精子症26例、極少精子症4例) |
| 治療 | イソトレチノイン内服(20 mg×2/日) |
| 射出精子出現 | 11/30(37%) |
| 無精子症での反応 | 7/26(27%) |
| 極少精子症での反応 | 4/4(100%) |
| 主な副作用 | 皮膚乾燥100%、易刺激性(精神的なもの)47%、脂質異常17% |
| 臨床的意義 | TESE回避の可能性 |
私見と解説
男性不妊に対する薬物治療は依然として限られており、特に無精子症や極少精子症に対しては有効な内科的治療が乏しいのが現状です。そのような中で、本研究は精子形成そのものを誘導し得る可能性を示しており、非常に興味深く、今後が期待される治療といえます。
実際に、この研究では一定割合の症例で射出精子の出現が認められ、外科的な精子採取を回避できる可能性が示されています。さらに、射出精子あるいは回収精子を用いたICSIにより妊娠例が複数認められ、少なくとも1例で出生に至っている点は、単なる精子出現にとどまらず、臨床的に意義のある成果と考えられます。この点は、患者負担の軽減のみならず、実際の生児獲得につながる可能性を示した点で重要です。
一方で、この治療はまだ確立された標準治療ではなく、日本では男性不妊治療として保険適用が認められていません。そのため、臨床での使用にあたっては慎重な判断が必要です。また、本剤は催奇形性を有する薬剤であり、脂質異常や精神症状などの副作用も報告されています。したがって、使用に際しては十分な説明と適切な管理が不可欠です。
現時点ではエビデンスは限定的ではありますが、無精子症や極少精子症に対する新たな治療選択肢となり得る可能性があり、今後のさらなる研究の進展が期待されます。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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