
はじめに
従来の融解プロトコルは凍結保護剤濃度(CPA)を段階的に低下させる溶液に10~15分かけて順次曝露する多段階法(multi-step warming)が標準でしたが、近年、凍結胚を高浸透圧溶液に約1分間曝露した後に培養液へ直接移行するone-step warming法が報告されています。今回、3,167例の凍結融解胚盤胞移植において、one-step warming法と従来法の臨床成績および新生児予後を比較した大規模後方視的研究をご紹介いたします。
ポイント
ガラス化保存胚盤胞のワンステップ融解プロトコルは従来の多段階法と比較し、臨床的妊娠率、継続妊娠率、出生率がいずれも有意に改善し、特に35歳未満および正倍数性胚移植で効果が顕著です。
引用文献
Hakan K. Yelke, et al. Reprod Biomed Online. 2026. doi: 10.1016/j.rbmo.2026.105543.
論文内容
ガラス化保存胚盤胞に対するone-step warming法が、従来の多段階融解法と比較して融解後の回復、臨床成績、新生児安全性を改善するかを検証することを目的とした、単一施設(トルコ・イスタンブール)おける後方視的研究です。
2023年1月から2025年5月までの間にKitazatoプロトコルでガラス化保存された3,361個の胚盤胞を対象とし、one-step warming群(n=1,900)と従来の多段階warming群(n=1,461)に分けて比較しました。one-step法ではManns ら(2022)およびLiebermann(2024)のプロトコルに準じ、1Mショ糖溶液(300µL)に1分間浸漬した後、中間希釈ステップを介さずに直接培養液へ移行する方法が用いられました。サブグループ解析として、PGT-A検査済み正倍数性胚(n=1,886、one-step:1,069、多段階:817)、SART年齢区分別の解析が行われました。胚盤胞は3BB以上の良好形態胚のみガラス化対象とされ、融解後30分で生存性、2時間および4時間で再拡張が評価されました。胚移植は融解後4時間で実施され、子宮内膜調整は修正自然周期(mNC-FET)またはホルモン調整周期(HRT-FET)にて行われました。
結果
融解後の生存率は両群とも99%を超え同等でした(99.7% vs. 99.6%, P=0.285)。再拡張率は0時間(88.8% vs. 92.5%, P<0.001)および2時間(91.9% vs. 94.7%, P=0.002)では多段階法が高率でしたが、4時間では逆転しone-step法がわずかに優位となりました(96.6% vs. 95.2%, P=0.048)。全体コホートにおいて、one-step法は多段階法と比較しβ-hCG陽性率(77.7% vs. 73.5%, P=0.005)、臨床的妊娠率(72.1% vs. 67.2%, P=0.002)、継続妊娠率(66.5% vs. 61.2%, P=0.001)、出生率(63.7% vs. 57.0%, P<0.001)がいずれも有意に高率でした。流産率および着床率には有意差を認めませんでした。PGT-A検査済み正倍数性胚のサブグループでも同様の傾向を示し、臨床的妊娠率(76.8% vs. 72.2%, P=0.024)、継続妊娠率(71.4% vs. 66.1%, P=0.011)、着床率(77.0% vs. 72.3%, P=0.024)、出生率(67.6% vs. 63.2%, P=0.046)がone-step法で有意に高値となりました。SART年齢区分別解析では、35歳未満群でone-step法の出生率が有意に高く(65.5% vs. 59.1%, P=0.010)、38~40歳群ではβ-hCG陽性率が有意に高くなりました(79.7% vs. 69.5%, P=0.009)。PGT-A正倍数性胚における年齢別解析では、35歳未満で臨床的妊娠率がone-step法で有意に高率(78.8% vs. 72.6%, P=0.037)であり、各年齢層で出生率は数値的に高い傾向を示しました。新生児予後(在胎週数および出生体重)は両群間で同等でした。
私見
ガラス化保存胚の融解プロトコル簡略化に関する報告は、近年急速に蓄積しています。
融解後の再拡張の動きについて
著者らは融解後の胚の「膨らみ戻り(再拡張)」のパターンに興味深い違いを報告しています。融解直後から2時間までは多段階法の方が再拡張が早く進みますが、4時間後にはone-step法の方が再拡張率で逆転しました。
これは、多段階法では凍結保護剤を段階的に薄めていくため、胚が浸透圧バランスを取り戻すのが早く、初期の膨らみ戻りがスムーズに進むためと考えられます。一方、one-step法では一気に高浸透圧溶液から培養液に移すため、最初はゆっくりですが、最終的にはより安定して完全な再拡張に至ると推測されます。臨床成績はone-step法の方が良好だったため、融解直後の見た目の回復だけで胚の発生能を判断すると過小評価につながる可能性があると著者らは指摘しています。
自施設でも導入を検討する際には、自施設の検証研究を先行させ、慎重に評価する必要があると考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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