
はじめに
ホルモン調整周期(HRT)凍結融解胚移植(FET)時には外因性プロゲステロン(P4)補充が不可欠です。腟用P4製剤は子宮への初回通過効果により標的臓器である子宮内膜へ効率的に移行する利点があり、自己投与の簡便性から広く用いられています。本邦では筋注P4製剤が製造中止となり、現在は腟用および経口製剤のみが利用可能です。今回、腟用P4製剤の1日投与量と胚移植日血中P4値がART成績に及ぼす影響を検討した日本の単施設後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
HRT-FETでは腟用P4製剤の1日投与量と胚移植日血中P4値(カットオフ13.1 ng/mL)の双方が着床率・臨床妊娠率・継続妊娠率・出生率に正の影響を及ぼします。
引用文献
Mami Sekiguchi, et al. Reprod Med Biol. 2026 Jan;25(1):e70039. doi: 10.1002/rmb2.70039.
論文内容
HRT-FET周期において腟用P4製剤の1日投与量と胚移植日血中P4値の双方を組み合わせて分類し、ART成績への影響を評価することを目的とした単施設後方視的コホート研究です。
2017年1月から2022年12月までに日本の生殖センターで実施された単一良好胚盤胞移植1137周期(596名)を解析対象としました。患者はOneCrinone 90 mg/日(1日1回投与)のP(90)群520周期、Lutinus 300 mg/日(1日3回投与)のP(300)群202周期、Luteum 800 mg/日(1日2回投与)のP(800)群415周期に分類されました。Gardner分類で3BB以上を良好胚盤胞と定義し、複数胚移植、PGT-A実施例、ERA結果に基づく移植、PRP併用例は除外しました。HRTは月経3日目より経皮E2パッチで開始し、内膜厚8.0 mm以上達成後にP4補充を開始、P4投与開始5日後に胚移植を施行しました。胚移植日の採血時刻は固定され、OneCrinone・Luteum投与6時間後、Lutinus投与直後の値を測定しました。臨床妊娠予測のためのROC解析により胚移植日血中P4のカットオフ値を算出し、用量と血中P4値で4群(LL:低用量・低P4、LH:低用量・高P4、HL:高用量・低P4、HH:高用量・高P4)に分類して比較しました。
結果
P(90)、P(300)、P(800)群の胚移植日血中P4値はそれぞれ11.7±4.7、14.1±7.2、14.8±5.8 ng/mLであり、用量増加に伴い有意に上昇しました(P(90) vs P(300)、P(90) vs P(800)ともにp<0.01)。
ART成績は、着床率がP(90) 46.7%(243/520)、P(300) 51.0%(103/202)、P(800) 59.3%(246/415)、臨床妊娠率がそれぞれ32.7%(170/520)、40.6%(82/202)、49.2%(204/415)、継続妊娠率が21.9%(114/520)、26.7%(54/202)、34.7%(144/415)、出生率が21.3%(111/520)、25.2%(51/202)、34.0%(141/415)であり、いずれの指標もP4 1日投与量の増加に伴い段階的に上昇し、P(90)群とP(800)群間で有意差を認めました(いずれもp<0.01)。流産率は32.9%、32.9%、27.5%で3群間に有意差はありませんでした。
臨床妊娠予測のための胚移植日血中P4カットオフ値は13.1 ng/mL(ROC-AUC 0.54、95% CI 0.51–0.58)と算出されました。カットオフ値以上群では着床率56.6% vs 48.7%、臨床妊娠率46.1% vs 35.6%、継続妊娠率32.4% vs 23.7%、出生率30.7% vs 23.6%といずれもカットオフ値未満群より有意に高値でした(いずれもp<0.01)。カットオフ値達成割合はP(90) 29.8%、P(300) 51.0%、P(800) 55.4%で、P(90) vs P(300)、P(90) vs P(800)で有意差を認めました(いずれもp<0.01)。
4群比較では、着床率はLL 43.3%、LH 54.8%、HL 56%、HH 57%、臨床妊娠率はLL 29.8%、LH 39.5%、HL 43.3%、HH 49%、継続妊娠率はLL 21.5%、LH 22.9%、HL 27%、HH 36.4%、出生率はLL 21.5%、LH 21%、HL 26%、HH 34.9%、流産率はLL 27.8%、LH 46.8%、HL 38.5%、HH 28.7%でした。LH群は着床率・臨床妊娠率は比較的高いものの流産率が46.8%と高く、継続妊娠率・出生率はLL群とほぼ同等でした。多変量ロジスティック回帰分析では、女性年齢が全てのART成績に対する有意な負の予測因子(着床率:aOR 0.907、95% CI 0.873–0.943)、用量・血中P4併合群(LL/LH/HL/HH)は着床(aOR 1.266、95% CI 1.117–1.434)、臨床妊娠(aOR 1.412、95% CI 1.241–1.608)、継続妊娠(aOR 1.393、95% CI 1.209–1.605)、出生(aOR 1.349、95% CI 1.171–1.555)の有意な正の予測因子であることが示されました。各患者の初回FET周期のみ(594周期)を対象とした感度分析でも主解析と概ね一致した結果が得られました。
私見
腟用P4導入当初は子宮への初回通過効果により血中P4モニタリングは不要と考えられていました(Shibaら Int J Fertil Steril, 2021、Fujiwaraら Fertil Reprod, 2022)。しかし近年は腟用P4使用周期でも血中P4モニタリングの重要性が認識されつつあります(Ranisavljevicら Front Endocrinol, 2022、de Zieglerら Fertil Steril, 2025、Labartaら Hum Reprod, 2021)。これは、P4が着床・胎盤形成への直接的役割に加え、母体免疫寛容を促す免疫調節作用を担い、この作用は局所子宮内膜P4濃度のみでは代償されず血中P4濃度に依存するためと推察されています。
本研究で特に興味深いのは4群解析の結果で、LH群(低用量だが血中P4高値)は着床率・臨床妊娠率は比較的良好であったものの流産率46.8%と高値で、結果的に継続妊娠率・出生率がLL群と同等にとどまった点です。一方HL群(高用量だが血中P4低値)も流産率38.5%とHH群(28.7%)より高く、継続妊娠率・出生率はHH群より低値でした。これは用量と血中P4値の双方が独立してART成績に寄与する可能性を示唆しており、特に妊娠維持・出生に至る後期過程では血中P4濃度の十分な維持が重要である可能性が考えられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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