
はじめに
融解後の受精胚は、凍結融解による浸透圧変化からの回復を目的として一定時間培養されますが、培養液中での酸化ストレスにより着床率が低下する可能性も指摘されています。融解後培養時間と臨床成績との関連については、これまでの報告で結果が一致しておらず、特に胚盤胞期受精胚に関する検討は限られていました。今回、初期胚および胚盤胞の双方を対象に、融解後培養時間がFET後の出生率に与える影響を評価したベトナムからの多施設後方視的コホート研究をご紹介いたします。
ポイント
融解後培養時間(0.07~6.1時間)は、初期胚・胚盤胞いずれのFETにおいても出生率に影響しませんでした。
引用文献
Pham HH, et al. Reprod Med Biol. 2022;21:e12465. doi: 10.1002/rmb2.12465.
論文内容
Day3またはDay5の凍結融解胚移植において、融解から胚移植までの培養時間が出生率に与える影響を検討することを目的とした多施設後方視的コホート研究です。2019年10月から2020年10月にベトナムのMy Duc病院およびMy Duc Phu Nhuan病院で実施された、2個以下のDay3またはDay5受精胚を用いたFET周期を対象としました。39歳未満、IVF周期4回未満、胚移植4回未満の女性を組み入れ、IVM周期、卵子提供周期、PGT周期、子宮形態異常を有する症例、融解後の細胞生存率が50%未満の症例は除外しました。凍結・融解ともにCryotech社(北里コーポレーション系のCryotec/Cryotech)の製品が使用されています。融解から胚移植までの時間(融解後培養時間)に基づいて4分位群(quartile)に分け、主要評価項目を出生率としました。卵巣刺激はGnRHアンタゴニスト法で実施し、子宮内膜調整はエストラジオール吉草酸塩8mg/日とプロゲステロン腟剤を用いたホルモン調整周期で行いました。
結果
6759周期から、2009名・2548周期(Day3:885周期、Day5:1663周期)が解析対象となりました。融解後培養時間は0.07~6.1時間の範囲で、4分位はQ1:0.07~1.39時間、Q2:1.4~2.29時間、Q3:2.3~3.29時間、Q4:3.3~6.1時間でした。各分位間で年齢、BMI、AMH、AFCに有意差はなく、融解胚数、移植胚数、良好胚移植数も同等でした。生存率はDay3で98.6~100%、Day5で99.4~99.6%といずれも高値で群間差はありませんでした。Day3胚移植における出生率はQ1:26.8%、Q2:31.2%、Q3:32.5%、Q4:34.6%(P=0.345)、Day5胚移植ではQ1:52.8%、Q2:50.2%、Q3:50.5%、Q4:56.7%(P=0.216)と、融解後培養時間の各分位間に有意差を認めませんでした。hCG陽性率、臨床妊娠率、着床率、流産率、異所性妊娠率、継続妊娠率も全て群間で有意差はありませんでした。多変量ロジスティック回帰解析では、出生率に有意に関連する独立因子は年齢(OR 0.95;95%CI 0.92–0.97、P<0.001)と移植胚の発育段階(Day5 vs Day3:OR 2.59;95%CI 2.05–3.27、P<0.001)のみで、融解後培養時間は有意な予測因子ではありませんでした(Q4 vs Q1:OR 1.18;95%CI 0.90–1.55、P=0.232)。
私見
胚盤胞については、Sordia-Hernandezらのシステマティックレビュー・メタアナリシス(Sordia-Hernandez LH, et al. J Reprod Infertil. 2021)で、短時間培養(≤2時間)と一晩培養(≥16時間)の間で臨床妊娠率に差を認めなかったと報告されています(RR 1.09、95%CI 0.95-1.26)。ただし組み入れられた5研究のうち胚盤胞を対象としたのは1研究のみで残り4研究はDay3初期胚が対象であり、また著者ら自身が研究の質と数の限界から結果の慎重な解釈を求めている点には留意が必要です。
またHaasらの報告(Haas J, et al. J Assist Reprod Genet. 2018)は、Day5凍結胚盤胞を20~22時間培養してから移植する新しいプロトコルにおいて、培養中の発育動態を予後予測ツールとして活用する意義を検証した研究です。Good胚盤胞では培養中の追加発育の有無で妊娠率に差はなかった一方、Fair胚盤胞では培養中にグレードが向上した群で臨床妊娠率が有意に高く(25.4% vs 9%、P=0.05)、移植胚数決定の判断材料になり得ると結論されています。完全拡張胚盤胞をルーチンに長時間培養することの是非を直接検証した研究ではない点に注意が必要です。
本研究の融解後培養時間の上限は6.1時間であり、これらの先行研究で議論される「一晩培養」とは時間軸が異なります。したがって本研究の結論は、6時間以内の範囲では融解後培養時間の幅を持たせても臨床成績に影響しない、という実臨床上有用な知見として限定的に解釈するのが妥当と考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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