
はじめに
凍結融解胚盤胞移植周期では、凍結による胚構造の収縮と融解後の再拡張という過程を経るため、新鮮胚移植と異なり、形態評価のみでは着床能を予測しにくいという特徴があります。温め後にどの程度の時間培養してから移植するかは施設間でばらつきがあり、長時間培養と短時間培養のいずれが望ましいかは依然として議論があります。今回、温め後の培養時間(20~24時間 vs 2~4時間)が臨床予後に与える影響を、タイムラプスによる形態動態解析を加えて比較した後方視的研究をご紹介いたします。
ポイント
融解後の培養時間(長時間 vs 短時間)で臨床予後に差はなく、融解後3~4時間の胚盤胞再拡張速度が胚選択の重要な指標となります。
引用文献
Hwang JY, et al. Clin Exp Reprod Med. 2020 Dec;47(4):312-318. doi: 10.5653/cerm.2020.03832.
論文内容
凍結融解単一胚盤胞移植において、融解後の培養時間が胚の臨床予後と相関するかを検討することを目的とした後方視的研究です。2017年3月から2018年12月に韓国生殖医療センターで凍結融解単一胚盤胞移植を受けた患者を対象とし、温め後の培養期間が長時間(20~24時間)か短時間(2~4時間)かで2群に分類しました。融解胚数にかかわらず単一胚盤胞移植が行われた周期を解析対象とし、多胚移植、手技困難例、内膜厚 < 8 mmの周期は除外されました。傾向スコアマッチング(2:1最近傍マッチング、置換なし)により、女性年齢、男性年齢、BMI、AMH、不妊期間、過去のIVF回数、ICSIの有無、採卵数、移植時内膜厚などの交絡因子を調整しました。胚の形態はタイムラプス観察装置(Embryoscope)で解析し、再拡張開始時間(tRE)と再拡張完了時間(tCRE)を記録しました。胚盤胞は改変Gardner分類により評価しました。
結果
傾向スコアマッチング後、長時間培養群112周期、短時間培養群56周期が解析されました。患者背景および採卵周期パラメータに有意差は認められませんでした。凍結時の胚盤胞グレード、ICMグレード、TEグレードに両群間で差はなく、凍結胚の77.7% vs 80.0%が5日目凍結、cryo-survival rateは96.5±12.7% vs 96.1±14.2%(p=0.884)でした。融解時点の胚評価では胚盤胞グレード、ICM、TEに差はみられませんでしたが、拡張度において、孵化胚盤胞の割合は長時間培養群で有意に高値(83.9% vs 57.1%、p<0.001)でした。臨床予後では、着床率(56.3% vs 67.9%、p=0.182)、臨床妊娠率(53.6% vs 60.7%、p=0.413)、継続妊娠率(47.3% vs 53.6%、p=0.513)、流産率(7.1% vs 5.3%、p=0.627)のいずれも両群間に有意差を認めませんでした。
タイムラプス解析(長時間群58胚、短時間群31胚)では、培養時間にかかわらず、継続妊娠した症例の胚は、妊娠不成立例に比し再拡張開始(tRE)が有意に早く(長時間群:0.56±0.18 vs 1.57±0.41 時間、p=0.021;短時間群:0.37±0.09 vs 0.81±0.18 時間、p=0.041)、再拡張完了(tCRE)も有意に早値でした(長時間群:2.19±0.63 vs 4.11±0.81 時間、p=0.003;短時間群:1.17±0.29 vs 1.94±0.76 時間、p=0.018)。継続妊娠例におけるtCREの分布は長時間群で0.4~4.7時間、短時間群で0.6~2.7時間であり、いずれも4時間以内に再拡張が完了していました。
私見
再拡張速度を予後マーカーとする見解は複数の先行研究と整合的です。Ahlstrom A, et al. Hum Reprod. 2013では、融解後2時間で胚盤胞評価が可能であり、それ以降は再拡張度に大きな変化がないとされています。Shu Y, et al. Fertil Steril. 2009では融解胚盤胞の75.9%が3~4時間で再拡張すると報告され、Lin R, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2017では再拡張時間が培養総時間とは無関係に臨床妊娠予後の有意な指標となることが示されています。Ebner T, et al. J Assist Reprod Genet. 2017のタイムラプス解析でも、再拡張完了に平均2.70±1.20時間を要するとされ、本論文の結果と一致しています。
胚盤胞の再拡張は、栄養外胚葉細胞が能動的にイオンを汲み出して腔内に水を引き込むことで生じる現象であり、細胞膜のポンプ機能(Na+/K+-ATPase)と細胞同士の密着性が保たれていて初めて成立します。したがって、凍結融解による細胞ダメージが少ない胚ほど速やかに再拡張するため、再拡張速度は胚のviability(生存能)の指標になると考えられています(Houghton FD, et al. Dev Biol. 2003;Offenberg H, et al. Mol Reprod Dev. 2005)。凍結保護剤の毒性や凍結損傷を受けた胚では、これらの機能が低下し再拡張が緩徐となるため、再拡張速度は細胞生存能・発生能の有用なマーカーとなり得ると考察されています。
臨床応用の観点では、温め後3~4時間での再拡張度評価により、孵化段階まで待たずに移植胚の選択が可能となる点は、各施設のラボワークフロー最適化に寄与すると思われます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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