
はじめに
ガラス化融解後の胚盤胞生存性の評価には、胚盤胞腔の再膨張がしばしば指標として用いられ、再膨張しない胚盤胞は移植対象から除外されることもあります。しかしながら、胚盤胞は融解後に収縮と膨張を繰り返す動的なプロセスを示すため、単一時点での観察では生存性を誤って判断する可能性が指摘されています。今回、融解後2〜4時間で再膨張しなかった胚盤胞(完全収縮胚盤胞、CSB)の臨床成績を評価した中国からのレトロスペクティブコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
融解後2〜4時間で再膨張しない胚盤胞でも着床能は保持されており、特にDay5由来胚盤胞ではDay6胚盤胞と比較して有意に高い妊娠成績が得られています。
引用文献
Zhu J, et al. Sci Rep. 2025 Aug 29;15:31882. doi: 10.1038/s41598-025-17526-9.
論文内容
ガラス化融解後2〜4時間で再膨張しなかった胚盤胞が移植に値する胚であるかを評価し、完全収縮胚盤胞移植(CSBT)周期における臨床妊娠に影響する因子を解析することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。中国生殖医療センターにおいて2015年1月から2023年12月までに実施された単一胚盤胞移植2276周期を対象としました。融解後2〜4時間における胚盤胞腔の再膨張の有無に基づき、完全収縮胚盤胞移植(CSBT)104周期と再膨張胚盤胞移植(REBT)2172周期に分類しました。両群間の交絡因子を傾向スコアマッチング(PSM)により1:1で調整しました。主要評価項目は臨床妊娠率(CPR)、継続妊娠率(OPR)、出生率(LBR)としました。さらにCSBT周期内において妊娠群と非妊娠群の患者背景を比較しました。
ガラス化保存にはKitazato社のプロトコルが用いられ、ガラス化前にレーザーによる人為的収縮(AS)を施行し、平衡化液(7.5%エチレングリコール+7.5%DMSO)に8〜10分浸漬後、ガラス化液(15%EG+15%DMSO+0.5Mショ糖)に1分間浸漬してCryotopに搭載しました。融解後の胚盤胞は移植前に少なくとも2時間(最大4時間まで)培養し、再膨張スコアを記録しました。完全収縮胚盤胞は胚盤胞腔がほぼ完全に消失している状態と定義しました。
結果
PSMマッチング前後(平均31歳前後)ともに、CSBT群はREBT群と比較してCPR(マッチング前28.8% vs. 59.3%、P<0.001;マッチング後28.8% vs. 61.5%、P<0.001)、OPR(22.1% vs. 50.4%、P<0.001;22.1% vs. 52.9%、P<0.001)、LBR(20.2% vs. 48.5%、P<0.001;20.2% vs. 50.0%、P<0.001)のいずれも有意に低値でした。一方で流産率、出生時妊娠週数、早産率、過期産率には有意差は認められませんでした。CSBT周期内の解析(妊娠群30周期 vs. 非妊娠群74周期)では、妊娠群は非妊娠群と比較して母体年齢(29.4±4.5 vs. 32.4±6.0歳、P=0.007)、基礎FSH値(6.8±2.0 vs. 8.0±3.7 mIU/mL、P=0.029)が有意に低く、Day3良好胚由来の胚盤胞割合(63.3% vs. 32.4%、P=0.004)、およびDay5胚盤胞割合(80.0% vs. 50.0%、P=0.005)が有意に高い結果でした。二項ロジスティック回帰分析では、Day5胚盤胞であることが妊娠成立の有意な決定因子として同定され、CSBT周期においてDay5胚盤胞はDay6胚盤胞と比較して臨床妊娠率が3.062倍高いという結果でした(調整OR 3.062、95%CI 1.077–8.704、P=0.036)。母体年齢、基礎FSH値、Day3胚質はロジスティック回帰では有意な関連を示しませんでした。
私見
本研究は融解後2〜4時間で再膨張しない胚盤胞でも臨床妊娠および出生に至り得ることを示した点で意義深いです。再膨張を生存指標とすべきかについては従来から議論があります。
臨床的には、融解後に再膨張が認められない胚盤胞であっても、明らかな壊死や変性所見がなければ廃棄せず移植候補とする選択肢を患者に提示し、十分なカウンセリングのうえで意思決定を行う方針が支持されると考えます。ただし臨床妊娠率および出生率が再膨張胚盤胞と比較して有意に低下することは事前に説明されるべきです。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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