治療予後・その他

2026.09.11

がん既往女性における生殖補助医療出生児予後(Fertil Steril. 2026)

はじめに

一部のがん治療は不妊リスクを高めうるため、各種ガイドラインはがん治療開始前の妊孕性に関するカウンセリングを推奨しています。治療前に卵子・受精胚を凍結保存する妊孕性温存、あるいは治療後に採卵を行う選択肢があります。がん既往女性に特化したIVF後の出生児予後は米国で検討されておらず、本研究は9州の連結データを用いてこれを評価しました。

ポイント

がん治療後による生殖補助医療による出生児はLGAリスクが約30%低い以外、周産期予後は非がん患者による生殖補助医療と同等で、一般生殖補助医療のデータを用いたカウンセリングを支持する内容でした。

引用文献

Jama Brookes, et al. Fertil Steril. 2026. doi: 10.1016/j.fertnstert.2026.01.021

論文内容

がん治療前後に生殖補助医療のため採卵を行ったがん患者が、がん既往のない他の生殖補助医療患者と比較して有害な出生児転帰のリスクが高まるかを明らかにすることを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。対象は2004〜2018年に9州(California, Colorado, Massachusetts, Maryland, Michigan, North Carolina, New Jersey, New York, Virginia)でがん既往の有無を問わず行われた単胎の生殖補助医療出生児です。曝露は生殖補助医療前にがん既往をもつ女性のうち、がん治療前に採卵した群(妊孕性温存)またはがん治療後に採卵した群です。主要評価項目は妊娠高血圧、LBW(<2,500 g)、PTB(<37週)、SGA、LGA、帝王切開分娩に対する多変量RRおよび95% CIです。調整変数は母体の人種、教育歴、児の性別、新鮮/凍結受精胚の別などで、National Society for Assisted Reproductive Technology Clinic Outcomes Reporting System(SART CORS)と州がん登録・出生証明を確率的に連結し、多変量修正Poisson回帰(GEE法)でARRを算出しました。

結果

135,274件の生殖補助医療出生児のうち、648件ががん患者によるもので、がん治療前採卵(妊孕性温存、n=112)または治療後採卵(n=536)でした。比較対象の非がん患者による生殖補助医療出生児は男性因子不妊(n=33,284)、卵管結紮(n=1,258)、その他すべての適応(n=100,084)でした。妊孕性温存群におけるPTB(13%)、LBW(10%)、SGA(12%)、LGA(10%)は非がん対照群とおおむね同等でしたが、帝王切開(55% vs. 44〜49%)はより高頻度でした。母体人種・教育歴・児の性別・受精胚の状態を調整したモデルでは、がん治療後採卵による生殖補助医療出生児は妊娠高血圧(6%)、PTB(13%)、LBW(9%)、SGA(9%)、帝王切開(53%)について非がん患者による生殖補助医療と一貫した差を認めませんでした。一方でLGA(8%)のリスクは、男性因子不妊(10%、RR=0.69、95% CI=0.51–0.93)、卵管結紮(13%、RR=0.56、95% CI=0.40–0.78)、その他すべての非がん患者の適応(10%、RR=0.71、95% CI=0.53–0.96)と比較していずれも低値でした。なおPTBはがん治療後採卵群で男性因子不妊群に対してのみ上昇(RR=1.33、95% CI=1.05–1.68)しましたが、他の対照群では有意ではありませんでした(卵管結紮 RR=1.12、95% CI=0.85–1.46;その他 RR=1.15、95% CI=0.92–1.45)。妊孕性温存群は出生児数が少なく(PTB・LBW・SGA・LGA・高血圧で各≦15件)多変量解析は実施できませんでした。

私見

同じように肯定的(出生予後に差なし)とする先行研究は少数報告のものしかありませんでした。一方、否定的(リスク上昇)とする報告として、デンマークのEverhøj C, et al. EClinicalMedicine 2022があり、がん既往女性の生殖補助医療出生児はPTB(RR=2.51)・LBW(RR=2.65)が2倍以上高いとしています。しかしこれは比較対象が「非がん女性の非生殖補助医療出生」であり、生殖補助医療自体がPTB(RR=1.15–1.60)・LBW(RR=1.12–1.72)・LGA(RR=1.26)と関連すること(Yu H, et al. Sci Rep 2022;McDonald SD, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2009)を踏まえると、上昇ががん既往によるのか生殖補助医療によるのか分離できないと考えられます。実際、交絡因子を調整するとLGAは上昇が残存(RR=1.23、95% CI=1.14–1.33)したのに対し、PTB・LBWは減弱したと報告されています(Yu H, et al. Sci Rep 2022)。
本研究の限界として、妊孕性温存群は症例数不足で多変量解析が行えず、化学療法の薬剤・レジメンや放射線の照射野・線量の情報も欠いていた点が挙げられます。
そうはいっても、がん治療後採卵が周産期予後を大きく悪化させる根拠は乏しく、一般IVFの知見をカウンセリングに援用できるという臨床的に安心材料となる報告と考えます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 周産期合併症

# 出生児予後

# がんと生殖医療

# 妊孕性温存

# 媒精(IVF)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

レトロゾール持続投与はin vitro培養マウス卵胞の排卵応答性を低下させる(Reprod Med Biol. 2026)

2026.06.24

大腸がん女性の妊娠中期中絶後における緊急妊孕性温存(J Assist Reprod Genet. 2026)

2026.03.20

子宮体癌初期・子宮内膜異型増殖症に対するLNG-IUS併用COSの腫瘍学的安全性と生殖結果(F S Rep 2025)

2025.11.04

がん患者の妊孕性保存 ASCOガイドラインアップデート2025(J Clin Oncol. 2025)

2025.07.21

治療予後・その他の人気記事

帝王切開既往と出産回数が子宮破裂リスクに与える影響(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2026.01.06

2026.09.02

不妊治療(卵巣刺激・人工授精・ART)と女性がん罹患リスク(JAMA Netw Open. 2026)

2026.09.02

卵子提供を受けた45歳以上女性の妊娠転機(Reprod Biomed Online 2024)

2024.07.12

帝王切開における術後ケアの最適化:ERAS Society 2025年版ガイドライン(Part 3)(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.04.20

妊娠高血圧症候群予防の低用量アスピリン療法に就寝前内服を勧める理由(Chronobiol Int. 2013)

2021.11.02

妊娠中期頚管短縮に対するプロゲステロン腟剤の周産期予後改善効果(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.08.18

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

卵子の大きさ

2025.03.08

妊娠できるカップルはほぼ6ヶ月以内に妊娠する。(論文紹介)

2021.11.11