男性不妊

2026.10.03

パートナー男性の「年齢」ではなく「男性因子による不妊」が移植できる胚の数を左右する(Fertility and Sterility 誌 2026年)

研究の紹介

参考文献

日本語タイトル

男性因子による不妊の診断は、男性の年齢とは異なり、卵子提供(ドナー卵子)周期における移植可能胚の獲得数に有意な影響を及ぼす

英語タイトル

Male factor infertility diagnoses, but not male age, significantly affect the yield of usable embryos in donor oocyte cycles

Chemerinski A, 他. Male factor infertility diagnoses, but not male age, significantly affect the yield of usable embryos in donor oocyte cycles. Fertil Steril. 2026. doi: 10.1016/j.fertnstert.2026.06.023.(in press) 

はじめに

体外受精において、胚の染色体異常(異数性)のおもな原因は、女性側(卵子)の加齢であることが知られています。それでは、男性側の要因、すなわち男性の年齢や男性因子による不妊は、胚の質にどの程度影響するのでしょうか。今回は、卵子側の影響を取り除いて男性側の影響だけを検討した最新の研究をご紹介します。 

研究のポイント

  • 米国の大規模データベース(SART CORS、2017〜2022年)を用い、ドナー卵子による体外受精・PGT-A(着床前異数性検査)周期 9,732 件を解析した研究です。
  • 男性の年齢(30歳未満〜50歳以上)は、生検された胚数・移植可能胚数のいずれにも有意な影響を与えませんでした。
  • 一方、男性因子による不妊の診断がある場合には移植可能胚数の中央値が1個少なくなり(4個→3個)、統計学的に有意な差が認められました。

研究の要旨

目的

女性因子を一定にした体外受精周期において、男性の年齢と男性因子による不妊が移植に適した胚(移植可能胚)に与える影響を評価することです。

研究デザイン

全米の生殖補助医療の臨床成績報告システム(SART CORS)の周期データを用い、非血縁のドナー卵子を用いた周期における、男性の年齢および男性因子による不妊の診断が移植可能胚に及ぼす影響を評価しました。男性の年齢は、おもにカテゴリー変数(30歳未満、30〜39歳、40〜49歳、50歳以上)として解析しました。

対象

2017〜2022年に実施された、非血縁ドナー卵子を用い着床前異数性検査(PGT-A)を行った、すべての体外受精周期です。

曝露因子

男性の年齢、および男性因子の診断です。

主要評価項目

PGT-A のために生検された胚数、および移植に適した胚数です。

結果

1周期あたりの生検胚数の中央値と移植可能胚数の中央値は、男性の年齢群間で差を認めませんでした。年齢を問わず男性因子による不妊の有無で全周期を比較すると、生検胚数は同等(5個[3, 8]対 5個[3, 8])でしたが、移植可能胚数の中央値は男性因子の診断がない周期のほうが多い結果でした(4個[2, 6]対 3個[2, 5])。個別の男性因子診断ごとに検討しても、生検胚数・移植可能胚数のいずれにも差は認められませんでした。 

結論

これらの結果は、男性の年齢は移植可能胚に有意な影響を及ぼさない一方で、なんらかの男性因子の診断が存在すると、移植可能な胚数が減少することを示唆しています。

結果のまとめ(図) 

図 移植可能胚数の比較。男性の年齢では差がなく(左)、男性因子による不妊の有無では有意な差が認められました(右)。エラーバーは四分位範囲(IQR)を示します。

私見と解説

本研究の最大の強みは、卵子を若年の第三者提供(ドナー、原則33歳以下)に限定することで、女性側の加齢の影響をなるべく取り除き、もっぱら男性側の影響だけを評価できた点にあります。その結果、男性の年齢は移植可能胚数にほとんど影響しないことが示されました。統計モデル上はごくわずかな差が認められますが、著者自身も「臨床的に意味のある差ではないだろう」と述べています。一方で、なんらかの男性因子による不妊の診断があると移植可能胚数が中央値で1個減少しており、これは費用が高く、妊娠率・生児獲得率も高いドナー卵子周期においては、臨床的に無視できない差といえます。ただし、注意も必要です。本研究の「移植可能胚」は、正倍数体(正常な染色体数)が確認された胚ではなく、あくまで各施設が移植に適すると判断した胚であり、データベースの制約による代替的な指標です。また、男性因子は「卵巣機能低下」など女性側の診断が優先されて過小報告されている可能性が高く、診断基準も施設ごとにばらつきがあります。さらに、症例数が非常に大きいため、統計学的な有意差が必ずしも臨床的な意義に直結しない点にも留意が必要です。とはいえ、精子の質(たとえば精子 DNA 断片化など)が胚の発育や染色体の安定性に関与しうることは以前から指摘されており、本研究はその臨床的な裏づけの一つと考えられます。患者様へのメッセージとしては、男性の年齢だけを過度に心配する必要はない一方で、男性因子による不妊はきちんと評価・治療する価値があり、日頃からの精子の質を意識したプレコンセプションケア(妊娠前の体づくり)が大切である、ということになります。 

補足:本研究における男性因子による不妊の判定について 

本研究の「男性因子による不妊」は、統一した精液検査基準で新たに判定したものではなく、SART CORS データベースに各施設が登録した診断名を抽出して用いています。この点は結果を解釈するうえで重要ですので、判定の枠組みと限界を補足します。 

収集された診断カテゴリー

乏精子症(中等度)、乏精子症(高度)、精子運動率低下、精子正常形態率低下、閉塞性無精子症、非閉塞性無精子症、きわめて高度の男性因子、その他の男性因子(内容の記載あり・なし)が収集されました。解析では、これらが1つ以上登録されていれば「男性因子あり」、まったくなければ「男性因子なし」として二分しています。重症度別の解析では、中等度乏精子症・形態率低下を「軽症群」、きわめて高度の男性因子・高度乏精子症を「重症群」とする複合指標も用いられました。 

診断基準の幅

それぞれの診断は数値基準が統一されているわけではなく、論文中には例として「運動率低下は40%未満のいずれの値も含む」「中等度乏精子症は500万〜1,500万/mL を指す」と記載されています。すなわち、精液所見の実数値ではなく、登録された診断ラベルを用いた解析です。

データの性質と限界

どのカテゴリーを付けるかは各施設の入力担当者の裁量に委ねられており、SART は年齢や診断の正確性を検証していません。そのため施設間でばらつきが生じうる、自己申告に基づくデータです。さらに、本研究では大多数の周期が「男性因子なし」と登録されていましたが、著者らはこれをドナー卵子周期という性質上、施設が卵巣機能低下など女性側の診断を優先して記載しがちなための過小報告と解釈しています。したがって、実際には男性因子があっても「なし」に分類されている症例が含まれ、男性因子の影響はむしろ過小評価されている可能性があります。

除外された症例

データの整合性の観点から、パートナーが精管切除後の周期、閉塞性無精子症で外科的精子採取の記載がない周期、中等度と高度の乏精子症が同時に登録されているような矛盾例などは、あらかじめ除外されています。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 顕微授精(ICSI)

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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