研究の紹介
参考文献
日本語タイトル
azoospermia factor c(AZFc)完全欠失を伴う非閉塞性無精子症における micro-TESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)成功の臨床的予測因子
英語タイトル
Clinical Predictors of Micro-Testicular Sperm Extraction Success in Nonobstructive Azoospermia With Complete Azoospermia Factor c Microdeletion
Emre Bakircioglu M, 他. Clinical Predictors of Micro-Testicular Sperm Extraction Success in Nonobstructive Azoospermia With Complete Azoospermia Factor c Microdeletion. Urology. 2025;198:49-54. PMID: 39922233.
はじめに
Y染色体のAZFc領域の欠失は、精子がうまくつくられない「非閉塞性無精子症」の代表的な遺伝的原因の一つです。この領域が完全に欠失している場合でも、顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)によって精子を採取できる可能性があります。今回は、こうした患者様において、どのような要因が精子採取の成否に関わるのかを調べた研究をご紹介します。
研究のポイント
- AZFc完全欠失を伴う非閉塞性無精子症の患者様54名のうち、28名(51.8%)で micro-TESE により精子を採取できました。
- 両親に近親婚(血族結婚)の既往がある場合、精子回収が不成功となるリスクが約4.4倍高くなりました。
- 年齢・FSH(卵胞刺激ホルモン)・テストステロン・精巣容積などの一般的な指標では、精子回収の成否を予測できませんでした。
研究の要旨
目的
文献上、この患者様グループの治療成績に関する報告は限られており、また非閉塞性無精子症(NOA)患者様における micro-TESE 成功に影響する因子についても結果が一定していません。そこで本研究では、AZFc(azoospermia factor c)完全欠失を伴うNOAにおいて、micro-TESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)による精子採取の成否に関わる臨床的および組織病理学的な因子を評価することを目的としました。
方法
2014年から2022年までの間に2施設で micro-TESE を受けたNOA 1308症例のデータを後ろ向きに解析しました。AZFc完全欠失を有する男性を対象に、精子採取の成否に応じて臨床データと組織病理学的データを比較検討しました。
結果
1308名のうち54名(4.1%)にAZFc完全欠失を認めました。micro-TESE により、AZFc欠失を有する28名(51.8%)から精子を回収できました。年齢、FSH(卵胞刺激ホルモン)と総テストステロン値、不妊期間、精巣体積は、精子採取の陽性群と陰性群の間で統計学的に有意な差を認めませんでした(P > .05)。一方、両親の近親婚は両群間で有意な差を認めました(P = .032)。精子採取の成否に応じた精巣生検の結果では、組織病理学的パターンの分布に統計学的に有意な差は認めませんでした。
結論
AZFc欠失を伴って受診したNOA患者様において、micro-TESE の成功に負の影響を及ぼした因子は、両親の近親婚のみでした。年齢、FSH、総テストステロン値、精巣体積といった臨床指標は、本患者集団における micro-TESE の精子採取成功に対する予測的価値を示しませんでした。
図:結果のまとめ

図 AZFc完全欠失を伴う非閉塞性無精子症における micro-TESE 精子回収率。
全体では51.8%、両親の近親婚がない群では59.5%、ある群では25.0%でした(文献データより作図)。
表. これまで公表されたAZFc欠失症例での外科的精子採取での精子採取率
| 精子採取あり(n) | 精子採取なし(n) | 精子採取率 | ||
| TESE | 39 | 38 | 50.6% | 5つの研究からのデータ |
| micro-TESE | 159 | 119 | 57.2% | 5つの研究からのデータ |
私見と解説
AZFc領域は、精子形成に関わる遺伝子が集中するY染色体上の部分で、その完全欠失は非閉塞性無精子症(精子がつくられにくい状態)の代表的な遺伝的原因の一つです。「遺伝子の異常があると精子は決して見つからない」と考えられがちですが、本研究では約半数(51.8%)の患者様で精子を採取できており、これは過去のメタ解析の結果ともよく一致します。AZFc完全欠失は、AZFaやAZFbの欠失、あるいはこれらを含む複合欠失に比べて予後が良好であることが知られています。本研究の意義は、極少精子症(クリプトゾースペルミア)や高度乏精子症を厳密に除外し、純粋な無精子症でAZFc完全欠失のみをもつ患者様に対象を絞った点にあります。その結果、年齢・FSH・テストステロン・精巣体積といった通常の指標では精子採取の成否を予測できないことが改めて示されました。これは「数値が思わしくないから手術をしても無駄」とは言い切れないことを意味し、経験豊富な施設で丁寧に micro-TESE を行うことの重要性を示しています。一方で、両親が血縁関係にある近親婚の場合には精子採取率が低下し、失敗リスクが約4.4倍高いという結果でした。これは、まだ解明されていない別の遺伝的要因が精子形成障害を重ねて引き起こしている可能性を示唆します。日本では近親婚は多くありませんが(かつては比較的多かったものの、現在は数%以下と少なくなっています)、ご家族の病歴を丁寧にうかがうことの大切さを示す知見といえます。なお、AZFc欠失をもつ精子で男児を授かった場合、その欠失は息子さんにも受け継がれるため、あらかじめ遺伝カウンセリングを受けておかれることをおすすめします。本研究は後ろ向きで対象数も限られるため、今後さらに大規模な検討が期待されます。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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