男性不妊

2025.09.20

シンバイオティクスで精子の質改善 (Int J Reprod BioMed、2021)

研究の紹介

参考文献

日本語タイトル 

原因不明に男性不妊におけるシンバイオティクス(FamiLact)投与は、精子の質、精子DNA損傷およびクロマチンの状態を改善する:三重盲検ランダム化臨床試験 

英語タイトル 

Synbiotic (FamiLact) administration in idiopathic male infertility enhances sperm quality, DNA integrity, and chromatin status: A triple-blinded randomized clinical trial 

Abbasi B, 他. Int J Reprod Biomed. 2021 Mar 21;19(3):235-244. PMID: 33842820.

はじめに

欧州泌尿器科学会のMale Sexual and Reproductive Healthのガイドラインの中で男性不妊に関する部分のアップデートが行われたのですが(参考文献)、新たに設けられた項目にプロバイオティクスがあります。このガイドラインの中では、”プレバイオティクス/プロバイオティクスの補充は、ホルモン分泌に影響を与え、フリーラジカルの除去を促進し、前立腺の微小環境を改善することで、間接的に精子機能を高める可能性があります。”と紹介されています。 

今回はそこに引用された論文の一つをご紹介します。プレバイオティクス/プロバイオティクスについて、ランダム化比較試験により精液検査所見、精子の質が改善したことを示したものです。男性においても腸活が妊活につながる可能性があります。

# 用語

  • プロバイオティクス:直接「善玉菌」を体に取り入れるもの。乳酸菌やビフィズス菌、酵母。腸内細菌叢のバランスの改善、腸管免疫の調整、病原菌の定着の抑制、腸内環境改善の効果が期待できる。 
  • プレバイオティクス:もともと腸にいる「善玉菌」を元気にする栄養源。フルクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖など。善玉菌の選択的な栄養源となり、腸内細菌叢や腸内環境の改善、病原菌の増殖の抑制などの効果が期待できる。 
  • シンバイオティクス(Synbiotics): プロバイオティクスとプレバイオティクスを一緒に摂取する組み合わせ。

研究のポイント

シンバイオティクスの一つであるFamiLactの投与により、精液検査所見、精子DNA損傷が改善しました。酸化ストレスの軽減の関与が考えられます。

研究の要旨

背景

原因不明の男性不妊(idiopathic male infertility)の治療は経験的に行われることが多いです。近年、プロバイオティクス/プレバイオティクスの投与が精液パラメータの改善と関連することが示されてきています。

目的

原因不明の男性不妊患者に対する FamiLact(プロバイオティクス+プレバイオティクス)の効果を評価することを目的としました。

方法

原因不明の不妊男性56名を無作為に2群に分け、FamiLact 500 mgまたはプラセボを80日間投与しました。介入前後に精液検体を採取し、精液検査に加えて、精子DNA損傷(SCSA法)、酸化ストレス(BODIPY C11染色)、プロタミン欠損(クロモマイシンA3染色)を評価しました。

結果

介入前のベースライン値には両群で差はありませんでした。介入後、FamiLact群では精子濃度、精子運動率、精子正常形態率がプラセボ群に比べて有意に高値を示しました(p<0.05)。さらに、FamiLact群では精子濃度、精子運動率、精子形態異常率の改善に加えて、脂質過酸化およびDNA断片化の低下が認められました(p≤0.02)。一方、プラセボ群でもDNA断片化の平均値がわずかに低下しました(p=0.03)が、その他のパラメータには有意差は認められませんでした。

結論

FamiLactの投与により、精子濃度、精子運動率、精子形態異常率が改善し、精子DNA損傷が減少しました。これらの効果は、精液中の酸化ストレスの軽減を介している可能性があります。

図表

表 I. FamiLact介入前後の精液所見

パラメータFamiLact群
(n=22)
プラセボ群
(n=25)
群間の比較のp値
精液量(mL)前: 2.75 ± 1.46
後: 2.97 ± 2.22
前: 2.54 ± 1.18
後: 2.54 ± 1.86
治療前の比較 0.59
治療後の比較 0.23
p=0.47p=0.97
精子濃度(×10⁶/mL)前: 28.85 ± 17.1
後: 44.1 ± 24.97
前: 21.54 ± 15.48
後: 27.98 ± 17.42
治療前の比較 0.13
治療後の比較 0.01*
p=0.004*p=0.06
精子運動率(%)前: 38.4 ± 25.08
後: 50.81 ± 34.94
前: 33.54 ± 20.3
後: 34.44 ± 30.31
治療前の比較 0.46
治療後の比較 0.04*
p=0.03*p=0.39
精子奇形率(%)前: 86.62 ± 11.61
後: 79.5 ± 5.54
前: 85.25 ± 9.61
後: 83.5 ± 8.21
治療前の比較 0.66
治療後の比較 0.03*
p=0.01*p=0.25

表 II. FamiLact介入前後の酸化ストレス指標とDNA損傷

パラメータFamiLact群
(n=22)
プラセボ群
(n=25)
群間の比較のp値
精子脂質過酸化(%)前: 29.53 ± 19.4
後: 26.0 ± 18.82
前: 26.32 ± 15.35
後: 24.72 ± 15.91
治療前の比較 0.53
治療後の比較 0.8
前: 26.32 ± 15.35
後: 24.72 ± 15.91
p=0.02*p=0.09
CMA3陽性率(%)
(プロタミン欠損)
前: 39.97 ± 12.83
後: 34.33 ± 3.24
前: 37.97 ± 10.18
後: 33.67 ± 9.69
治療前の比較 0.27
治療後の比較 0.76
p=0.11p=0.14
DNA断片化指数(%)
[SCSA]
前: 28.81 ± 13.27
後: 25.19 ± 7.22
前: 26.75 ± 10.54
後: 25.32 ± 6.66
治療前の比較 0.55
治療後の比較 0.47
p=0.005*p=0.03*

私見

最近の研究では、「腸内環境」と「精子の質」に関係がある可能性が示されてきています。 腸にすむ善玉菌(プロバイオティクス)は、免疫を整えたり、ビタミンや短鎖脂肪酸をつくったりして健康を支えています。ところが腸内バランスが乱れると(腸内フローラの“乱れ”=ディスバイオシス)、こうした良い作用が弱まり、体全体に影響を及ぼしてしまうのです。 

また、男性不妊の原因のひとつとして、酸化ストレス が注目されています。酸化ストレスとは、体内で発生する活性酸素が多くなりすぎて、抗酸化力で抑えきれなくなる状態です。このとき精子のDNAが傷ついたり、精子の機能が悪化して、受精能力や妊娠率に悪影響を与えることがあります。 

この研究では、FamiLact(シンバイオティクス:善玉菌+そのエサとなる成分) を80日間摂取してもらったところ、精子の濃度・運動率・形態が改善し、さらにDNAの損傷や脂質の酸化が減ることが分かりました。つまり、腸内細菌を整えることが、間接的に精子の質を守る可能性があるということです。健康状態が改善した可能性がありますが、その詳しい機序については不明です。 

もちろん、まだ研究は始まったばかりで、妊娠率や出産に結びつくかどうかは今後の検証が必要です。しかし、日常生活の中で「腸活」を意識することが、男性の妊活サポートや健康維持につながるかもしれません。

参考文献

Minhas S, Boeri L, Capogrosso P, Cocci A, Corona G, Dinkelman-Smit M, Falcone M, Jensen CF, Gül M, Kalkanli A, Kadioğlu A, Martinez-Salamanca JI, Morgado LA, Russo GI, Serefoğlu EC, Verze P, Salonia A. European Association of Urology Guidelines on Male Sexual and Reproductive Health: 2025 Update on Male Infertility. Eur Urol. 2025 May;87(5):601-616. doi: 10.1016/j.eururo.2025.02.026. PMID: 40118737.

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 精子DNA損傷検査

# 精液検査

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