治療予後・その他

2025.01.08

流産後の子宮鏡手術併用の有効性について(Fertil Steril. 2024)

はじめに

流産は全妊娠の約15%にします。流産処置として吸引法による子宮内容除去術が行われてきましたが、ブラインドで行われており、直接観察できる子宮鏡手術がよいのではないかと考えてきています。ただ、過去の報告(HY-PER trial)では良好な結果に至っていません。今回は体外受精における吸引手術に子宮鏡手術を併用すると予後が改善するかどうか調査した報告をご紹介いたします。

ポイント

子宮鏡手術を併用した吸引法は、吸引法単独と比較して、その後の凍結融解胚移植での生産率が低下する可能性があります。

引用文献

Hu KL, et al. Fertil Steril. 2024. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.07.027

論文内容

流産初期管理において、吸引法に子宮鏡手術を追加することが、その後の凍結胚移植の成功率を効果的に向上させるかどうかを調査した傾向スコアマッチングコホート研究です。
2015年から2022年に北京大学第三病院で体外受精治療にて妊娠5-16週で流産した女性を対象としました。子宮鏡手術(ベトキ子宮鏡)プラス吸引法を受けた347名と従来の吸引法を受けた2,562名を分析対象とし、傾向スコアマッチング(1:1)後、各群325名を比較しました。

結果

吸引法を受けた女性と比較して、子宮鏡手術プラス吸引法を受けた女性は、マッチングコホートにおいて生産率が低くなりました(22% vs 30%;aOR 0.68 [0.47-0.97])。生化学的妊娠率、臨床的妊娠率、多胎妊娠率、流産率に有意差はありませんでした。

私見

子宮鏡手術の併用により、子宮内の観察が可能となり、残存組織の確実な除去が期待できますが、その後の胚移植成績が低下しています。術後がホルモン療法を実施し、その後2回月経がきてからの凍結融解胚移植となっています。成績低下するメカニズムとして、直接的な内膜障害メカニズム、子宮内環境の変化、手技複雑性による影響があげられていますが、どれもしっくりきません。少なからず、流産術後の子宮鏡手術併用は現段階ではよくないことは確かそうですね。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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