治療予後・その他

2025.05.20

45歳以上女性の出産転帰(BMC Pregnancy Childbirth. 2025)

はじめに

様々な社会的背景から妊娠・出産を希望する高年女性がいらっしゃいます。加齢に伴う妊孕性の低下も認められるため、正しい情報提供が必要となります。高齢出産は周産期・母体の罹患率や死亡率を含む妊娠合併症リスクの上昇と強く関連していることが知られていますが、45歳以上に限定した出産転帰を調査した報告をご紹介いたします。

ポイント

45歳以上女性の妊娠は胎児トリソミーのリスクを高め、基礎疾患のない症例でも早産、低出生体重児、胎児発育不全リスクが著しく上昇します。

引用文献

Usama Chonnak, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2025 Apr 25;25(1):493. doi: 10.1186/s12884-025-07593-1.

論文内容

45歳以上女性における妊娠転帰を調査することを目的としたタイの三次医療機関で1992-2022年出産女性を対象とした後ろ向きコホート研究です。45歳以上女性と20-34歳女性の妊娠転帰が比較しました。67,301妊娠のうち、45歳以上女性群121妊娠と、20-34歳女性群51,315例が比較対象となりました。

結果

45歳以上女性群では、胎児トリソミー(9.1% vs. 0.1%)および内科的疾患の有病率(30.6% vs. 16.4%)が著しく高く、特に慢性高血圧(6.6% vs. 1.7%)と妊娠前糖尿病(2.9% vs. 0.5%)が目立ちました。
流産と先天異常を除外した後の解析では、研究グループで以下の有害転帰の発生率が高くなりました。
早産(39.6% vs. 14.5%;相対リスク2.73、95% CI:2.14-3.47)
低出生体重(41.2% vs. 14.5%、相対リスク2.85、95% CI:2.26-3.59)
胎児発育不全(17.5% vs. 7.5%、相対リスク2.34、95% CI:1.53-3.66)
妊娠高血圧症候群(17.5% vs. 6.6%、相対リスク2.66、95% CI:1.75-4.06)
妊娠糖尿病(19.0% vs. 8.5%、相対リスク2.23、95% CI:1.49-3.34)
帝王切開(38.8% vs. 16.9%、相対リスク2.30、95% CI:1.81-2.94)
低アプガースコア(5分値<7)(14.6% vs. 4.0%、相対リスク3.64、95% CI:2.27-5.82)
周産期死亡(6.8% vs. 2.6%、相対リスク2.62、95% CI:1.28-5.37)
基礎疾患のある症例を除外した後も、これらの有害転帰は依然として高いままでした。45歳以上女性妊娠・出産は、他の潜在的リスク因子を調整した後も、妊娠高血圧症候群、早産、胎児発育不全、低出生体重の独立したリスク因子であることが示されました。

私見

この研究では妊娠方法(自然妊娠か生殖補助医療か)についての詳細な情報が提供されていませんが、これらの結果は、高齢妊娠を計画している女性に対する妊娠前カウンセリングの重要性を感じています。なお、当研究施設はタイ三次医療施設ですが、45歳以上女性妊娠の割合は全妊娠・出産の0.2%に留まっています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 周産期合併症

# ハイリスク妊娠

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

FGRに対する低分子量ヘパリン治療は妊娠期間を延長しない(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.06.25

慢性高血圧女性におけるアスピリンによる妊娠高血圧症候群発症遅延効果(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.06.17

アスピリンは妊娠高血圧症候群の発症を遅延させる(Am J Obstet Gynecol. 2019)

2025.06.02

HRT周期凍結融解胚移植における妊娠初期子宮動脈拍動指数は低値(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.05.30

日本人妊婦におけるFMFモデルを用いた妊娠高血圧症候群予測精度(Hypertens Res. 2021)

2025.05.27

治療予後・その他の人気記事

FGRに対する低分子量ヘパリン治療は妊娠期間を延長しない(Am J Obstet Gynecol. 2025)

前置胎盤と低位臍帯付着部位は母体血圧と関連(BJOG 2011)

子宮体がん初期の妊孕性温存治療についてのメタアナリシス(Am J Obstet Gynecol. 2024)

流産手術(吸引法 vs. 子宮鏡手術)の無作為化試験(JAMA. 2023)

甲状腺がん治療が生殖補助医療成績に及ぼす影響(J Assist Reprod Genet. 2021)

筋腫核出術後の分娩予後:開腹と腹腔鏡の比較 (Fertil Steril. 2025)

今月の人気記事

NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド比較研究(当院関連論文)

2025.07.01

不育症に対する免疫グロブリン投与の有効性(J Reprod Immunol. 2025)

2025.07.02

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

妊活男性のストレスと精巣機能(Fertil Steril 2025) 

2025.07.05

FGRに対する低分子量ヘパリン治療は妊娠期間を延長しない(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.06.25

抗酸化サプリメント高用量摂取のマウス精子を用いたリスク検証(F S Sci. 2025)

2025.07.04