治療予後・その他

2025.05.27

日本人妊婦におけるFMFモデルを用いた妊娠高血圧症候群予測精度(Hypertens Res. 2021)

はじめに

妊娠14-16週前に低用量アスピリンの予防的使用をすることで、妊娠高血圧症候群有病率を50%削減できることが示唆されています。そのため、妊娠高血圧症候群高リスク妊婦を早期にスクリーニングし、特定することが重要です。従来の母体特性と既往歴のみを用いたスクリーニング方法では、全妊婦の10%を高リスクと判定した場合に、実際に妊娠37週未満で分娩する早期妊娠高血圧症候群になる妊婦の40%しか事前に見つけることができませんでした。今回、日本人集団における妊娠11-13週でのFetal Medicine Foundation(FMF)ベイズ定理ベースモデルの子癇前症予測精度を検討した前向きコホート研究をご紹介いたします。

ポイント

日本人集団において、FMFベイズ定理ベースモデルを用いた早期PE予測は実行可能であり、高い検出率を示しました。

引用文献

Minako Goto, et al. Hypertens Res. 2021 Jun;44(6):685-691. doi: 10.1038/s41440-020-00571-4.

論文内容

日本人集団における妊娠11-13週でのFetal Medicine Foundation(FMF)ベイズ定理ベースモデルによる妊娠高血圧症候群(PE)予測の診断精度を調査することを目的とした前向きコホート研究です。妊娠11-13週の単胎妊娠日本人女性2,655名を対象とし、1,036名が研究参加、すべての測定値と周産期転帰が得られた913名の女性を研究に含めました。母体特性と既往歴に関するデータを記録し、平均動脈圧(MAP)、子宮動脈拍動指数、PlGFを測定しました。患者は2017年6月から2019年12月の間に昭和大学病院で出産しました。参加者はFMFベイズ定理ベースモデルに従って高リスク群と低リスク群に分類され、群間でPEの頻度を比較しました。モデルのスクリーニング性能はAUROCを用いて検証されました。

結果

26名の女性(2.8%)がPEを発症し、そのうち11名(1.2%)が早期PE(妊娠37週未満での分娩)でした。早産型PEの頻度は高リスク群で低リスク群よりも有意に高くなりました(3.8% vs. 0.2%、p<0.05)。この集団モデルは、母体特性、平均動脈圧(MAP)、PlGFの組み合わせにより、検査を受けた妊婦全体の10%が「高リスク」と判定され、早期PEとなった女性のうち91%が事前に「高リスク」として正しく識別されていたこと早期PE予測のAUROC曲線は0.962(0.927-0.981)でした。

私見

日本人集団では子宮動脈拍動指数(UtA-PI)の測定が早期PE予測にあまり寄与せず、母体特性、平均動脈圧(MAP)、PlGFの組み合わせで十分な予測精度が得られることが示されました。一方、正期PE予測については従来の報告と同様に早期PEより性能が劣ることが確認されました。なお、この研究ではアスピリンについての記載はされていません。

過去にも妊娠初期PEスクリーニングはブログでも取り上げていて、ハイリスク患者様には検査が実施できる施設にご紹介しています。
妊娠初期PEスクリーニングの早産との関連(Am J Obstet Gynecol. 2024)

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 妊娠高血圧症候群

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

男性不妊と女性不妊におけるART妊娠の周産期予後の違い(Fertil Steril. 2025)

2025.09.08

妊娠前メトホルミンによる重症妊娠悪阻リスクの低下(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.08.19

妊娠中期頚管短縮に対するプロゲステロン腟剤の周産期予後改善効果(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2025.08.18

ART妊娠親子の心理的転帰:システマティックレビュー・メタアナリシス(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.29

高齢化における生殖補助医療の倫理的考慮:Ethics Committee opinion(Fertil Steril. 2025)

2025.07.25

治療予後・その他の人気記事

がん患者の妊孕性保存 ASCOガイドラインアップデート2025(J Clin Oncol. 2025)

凍結卵子を使用しない場合の対応に伴う意思決定(Fertil Steril. 2023) 

2023.05.26

妊娠高血圧腎症予防にアスピリンの使用方法は?(Am J Obstet Gynecol. 2023)

2023.08.10

妊娠糖尿病既往ぽっちゃり女性は減量が再発予防に効果的(Am J Obstet Gynecol. 2023)

2023.05.23

社会的卵子凍結の実施有無に対する後悔リスク(J Assist Reprod Genet. 2023)

自然妊娠・体外受精妊娠では、妊娠中の不安は同程度?(Hum Reprod. 2023)

今月の人気記事

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

肥満PCOS女性における単一正倍数性胚盤胞移植の妊娠転帰(Fertil Steril. 2025)

2025.10.01

子宮内膜厚と出生率の関連:米国SARTレジストリ研究(Fertil Steril. 2025)

2025.10.03

男性不妊症とExome sequencing (Eur Urol. 2025)

2025.10.04

ICSI周期における未熟卵割合と胚発生・出生率の関連(Hum Reprod. 2025)

2025.09.30