治療予後・その他

2025.06.02

アスピリンは妊娠高血圧症候群の発症を遅延させる(Am J Obstet Gynecol. 2019)

はじめに

妊娠高血圧症候群(PE)の予防において、アスピリン投与は重要な介入の一つとされています。Combined Multimarker Screening and Randomized Patient Treatment with Aspirin for Evidence-Based Preeclampsia Prevention(ASPRE)試験では、アスピリンが早期PEに対して強い予防効果を示す一方で、正期PEに対する効果は限定的でした。この相違する効果について、アスピリンが妊娠高血圧腎症の発症時期を遅延させることで、早産型から正期産型への転換を引き起こすという仮説が提唱されています。ASPRE試験にて、遅延説を検証した報告をご紹介いたします。

ポイント

アスピリンの効果はPE発症を遅延させることで、早期termination症例を正期terminationに転換させる可能性があります。

引用文献

David Wright, et al. Am J Obstet Gynecol. 2019 Jun;220(6):580.e1-580.e6. doi: 10.1016/j.ajog.2019.02.034.

論文内容

ASPRE試験の二次解析で、PE高リスク女性におけるアスピリンの効果が分娩時期の遅延であるという仮説を検証することを目的としました。ASPRE試験では、妊娠11-13週時点での複合的スクリーニングにより高リスクと判定された単胎妊娠を対象に、アスピリン150mg/日またはプラセボを妊娠36週まで投与しました。早期PEのリスクに基づいて層別化解析を行い、リスクカットオフを1/50として高リスク群と低リスク群を定義しました。

結果

低リスク群(1/50未満)では正期PE発生率が減少しました(OR 0.62、95%CI 0.29-1.30)。対照的に、高リスク群(1/50以上)では正期PE発生率がわずかに増加しました(OR 1.11、95%CI 0.71-1.75)。これらの効果は統計学的有意な結果ではありませんでしたが、遅延仮説と一致していました。アスピリン遅延仮説の枠組みでは、プラセボ群で妊娠24週にterminationとなる症例に対して、アスピリンはtermination時期を推定4.4週(95%CI 1.4-7.1週)遅延させる効果があり、この効果は妊娠週数1週につき推定0.23週(95%CI 0.021-0.40週)ずつ減少し、妊娠40週0日時点では推定0.8週(95%CI -0.03 -1.7週)の遅延となりました。

私見

アスピリンが単に早産型妊娠高血圧腎症のみを予防するのではなく、発症そのものを遅延させることで正期産型への転換を引き起こすという機序は臨床的に重要な示唆を与えます。
この論文に出てくるfig1はとてもわかりやすいグラフだと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

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# アスピリン、ヘパリン

# 妊娠高血圧症候群

# 予防介入

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