体外受精

2023.08.15

卵巣刺激中のSARS-CoV-2感染は胚質に影響する(JAMA Netw Open. 2023) 

はじめに

卵巣刺激中にSARS-CoV-2感染をしてしまい治療を継続した場合、胚質はどうなるのでしょうか。

ポイント

卵巣刺激中のSARS-CoV-2感染は男女どちらの感染も、胚質に影響する可能性があります。

引用文献

Fen Tian, et al. JAMA Netw Open. 2023 Jul 3;6(7):e2323219. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.23219.

論文内容

2022年10月1日から2022年12月31日に、中国4省7生殖医療施設で体外受精を実施したカップルを対象に卵巣刺激中のSARS-CoV-2感染が生殖医療結果に影響を与えるかどうか調査した多施設後ろ向き研究を実施しました。全てのカップルが卵巣刺激中にSARS-CoV-2核酸検査を実施しました。
女性・男性どちらかが検査陽性の場合に陽性群と定義しました。
評価項目は有効胚および胚盤胞到達率、最高グレードの胚および胚盤胞到達率としました。副次評価項目として、回収卵子数、成熟卵率、正常受精率、卵子変性率、分割率、胚盤胞到達率としました。

結果

585組の不妊症カップル(女性年齢中央値[IQR]:33[30-37]歳)が研究に参加し、SARS-CoV-2群は135組、SARS-CoV-2陰性群は450組でした。患者背景は類似していました。
SARS-CoV-2陽性群では、最高グレード胚到達率(OR、0.83;95%CI、0.71-0.96)、最高グレード胚盤胞到達率(OR、0.59;95%CI、0.45-0.77)、有効胚盤胞到達率(OR、0.70;95%CI、0.59-0.82)、胚盤胞到達率(OR、0.61;95%CI、0.52-0.71)は、SARS-CoV-2陰性群よりも低くなりました。感染した男女間の違いを解析した結果、女性陽性群は陰性群と比較して、成熟卵子率、分割率、最高グレード胚到達率、胚盤胞到達率、有効胚盤胞到達率、最高グレード胚盤胞到達率が低下していました。男性陽性群および男女ともに陽性群は、有効胚盤胞到達率、最高グレード胚盤胞到達率、胚盤胞到達率が低下していました。

私見

SARS-CoV-2感染はACE2とTMPRSS2の発現変化が影響を与えるとする考えもありますが、ウイルスが細胞に侵入し直接的な影響を与えている可能性もありますし、全身性の酸化ストレスと炎症に起因する可能性もあります。通常に考えると、SARS-CoV-2感染でなくても体調が悪ければ生殖医療結果に影響を与える気はしますね。今回の結果では、卵巣刺激中のSARS-CoV-2感染は、回収卵子数およびトリガー日のピークE2値には影響を与えていませんでした。

またSARS-CoV-2感染は体外受精結果に影響を与えないとする報告もあります。

  1. Boudry L, et al. Fertil Steril. 2022;117(4):771-780.
    採卵48時間以内にSARS-CoV-2検査陽性であった16名の検討で成績差なし
  2. Chen X, et al. Sci China Life Sci. 2023;66:1-4.
    採卵の7日以内、7〜14日、14日以上前にSARS-CoV-2感染であった206名と非感染の700名の生殖医療成績を検討。7日以内の場合は成績やや低下。

患者様に、起こり得る可能性を説明し、やってみないとわからないというのが答えになるのでしょうか。当院では、卵巣刺激中の発熱やSARS-CoV-2感染は治療をキャンセルさせていただいております。

COVID-19ワクチン接種後の月経不順(Fertil Steril. 2023) 

COVID-19(新型コロナワクチン)後の流産リスク(Hum Reprod. 2023) 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 卵巣刺激

# ワクチン、VPD

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

卵巣予備能低下女性に対する経皮的テストステロン治療のQOLへの影響(Hum Reprod. 2025)

2026.01.27

トリガーから採卵までの最適時間:GnRHアゴニストvs hCG(F S Rep. 2025)

2025.11.26

PP法とGnRHアンタゴニスト法比較:システマティックレビューとメタアナリシス(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.19

DYD-PPOS vs. MPA-PPOS vs. GnRHアンタゴニスト(J Assist Reprod Genet. 2025) 

2025.07.08

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

45歳以上の体外受精は生児を授かる治療としては「無益」・・・(Fertil Steril. 2022)

子宮内膜症女性における生殖補助医療の累積出生率(Hum Reprod. 2025)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25