はじめに
アメリカ生殖医学会では現在、妊孕性温存目的の卵子凍結保存は思春期以降の女児に選択的に行うべきであると推奨していますが、現状では思春期以降の女児における妊孕性温存の一般的な方法として卵巣組織凍結が行われています。18歳未満の思春期以降の女児における卵巣刺激と卵子凍結保存の有用性は報告がまだ乏しいこと、同年齢の女児では視床下部‐下垂体‐卵巣軸が未熟でゴナドトロピンに対する卵巣反応が低下している可能性が否定できないと考えられているためです。今回は、18歳未満の思春期以降の女児15名を対象とした、妊孕性温存目的の卵子凍結に関する報告をご紹介します。
ポイント
卵子凍結保存は、POIリスクのある12歳の女児において実行可能で安全であると考えられます。
引用文献
Sonia Gayete-Lafuente, et al. J Assist Reprod Genet. 2023 Dec;40(12):2777-2785. doi: 10.1007/s10815-023-02932-7.
論文内容
卵巣刺激はGnRHアンタゴニスト法またはPPOS法で実施し、超音波モニタリングは経腹的に行いました。採卵は静脈麻酔鎮静下に経膣的に卵子を回収しました。未熟卵子は最大36時間、体外培養を行いました。主要評価項目は、凍結可能な成熟卵子数および体外培養後の成熟卵子数の増加割合です。
対象は初経を迎えている若年POI女児15例で、平均年齢・胞状卵胞数(AFC)・AMHはそれぞれ14.2±1.4歳、8±5.2、1.3±1.3 ng/mLでした。モザイク型ターナー症候群の女児では、同年代に比べ卵巣予備能が低い傾向にありました(AFC 7.4±4.7個、AMH 1.4±1.6 ng/mL)。15例全員で卵巣刺激後の採卵が可能で、回収成熟卵子数は1~27個でした。化学療法既往のある女児や卵巣予備能の低い女児でも実施上の問題は認めませんでした。体外培養後、成熟卵子数の中央値は7.5個から10.5個へ有意に増加しました(p=0.001)。
私見
本報告は症例数は少ないものの、12歳以降での採卵実施が有効である可能性を示しています。卵巣組織凍結に抵抗のある女児に対して、妊孕性温存の一選択肢として提示し得ると考えます。
今回の症例は、モザイク型ターナー症候群(45,Xモザイク14~90%)10名、胚細胞腫瘍、急性リンパ芽球性白血病、非ホジキンリンパ腫、POI家族歴、POIの女児が計5名でした。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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