体外受精

2024.08.16

レトロゾール併用卵巣刺激は効果的?(Reprod Biomed Online. 2022)

はじめに

ESHRE2019卵巣刺激ガイドラインではレトロゾール併用卵巣刺激の推奨は以下のようになっています(Hum Reprod Open. 2020 DOI: 10.1093/hropen/hoaa009.)。

  • Poor responderゴナドトロピン刺激へのレトロゾール追加は、おそらく推奨されない。(Bechtejew ら. 2017) (Conditional)
  • Normal responderゴナドトロピン刺激へのレトロゾール添加は、おそらく推奨されない。(Verpoest ら. 2006; Mukherjee ら. 2012) (Conditional)
  • High responderゴナドトロピン刺激へのレトロゾール追加を推奨する十分なエビデンスはない。(Chenら. 2018) (Conditional)

ただし、これらは2018年11月までの文献検索によるデータのため、2022年に出たレビューをご紹介いたします。

ポイント

レトロゾール併用卵巣刺激周期では大きな差はなさそうですが、症例ごとに上手く利用すると成績改善する可能性がありそうです。

引用文献

Nathalie Søderhamn Bülow, et al. Reprod Biomed Online. 2022 Apr;44(4):717-736. doi: 10.1016/j.rbmo.2021.12.006.

論文内容

医療データベースを2021年8月まで体系的に検索し、31件の研究(16件のランダム化比較試験、15件の観察研究)を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシスです。Poor responderにおける生児出生率は、レトロゾール併用療法により7%(95%CI、1%~13%、P=0.03)増加しました。ゴナドトロピン使用量は減少しましたが、回収卵子数は変化しませんでした。Normal responderでは、レトロゾール併用により回収卵子数は1.8個(95%CI 0.35〜3.27、P = 0.01)増加しました。生児出生率、臨床的妊娠率、OHSS発症率に差は認めませんでした。High responderについて報告した研究は2件のみであり、方向性を検討することはできませんでした。
全体として、子宮内膜の厚さはわずかに薄くなる影響がありそうでしたが、流産率と周期中止率は差がありませんでした。エビデンスの質は、RCTでは高または中程度、観察研究では低でした。

私見

最近の別報告でもアンタゴニスト群211名、レトロゾール2.5mg併用群109名、レトロゾール5mg併用群102名で比較したところ、レトロゾール併用療法は投与量依存性に、刺激5日目以降のエストラジオールとFSH濃度を抑制し、刺激5日目とトリガー日のLH濃度を上昇させました。回収卵子数や胚パラメータは影響を受けず、ゴナドトロピン投与量を減少させるとした報告もあります。この報告では累積出生率はレトロゾール5mg群で29.4%、レトロゾール2.5mg群で27.5%、対照群で33.6%でした(P > 0.05)。

Jing Lin, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2023 Nov 10:14:1289595. doi: 10.3389/fendo.2023.1289595.

この結果だけみると、やはり成績への向上は内膜に与える影響なのでしょうか。卵質の改善という切り口はあまり見当たらない印象をうけます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# クロミフェン、AIなど

# 卵巣刺激

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

PP法とGnRHアンタゴニスト法比較:システマティックレビューとメタアナリシス(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.19

DYD-PPOS vs. MPA-PPOS vs. GnRHアンタゴニスト(J Assist Reprod Genet. 2025) 

2025.07.08

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

フォリトロピンデルタを用いたPPOS法 vs. アンタゴニスト法(Cureus 2025)

2025.06.05

ロング法(レコベル®皮下注ペン)にrhCGを追加するとよい?( Hum Reprod. 2022)

2025.05.28

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

修正排卵周期凍結融解胚移植におけるトリガー時卵胞径と生殖医療成績(Hum Reprod Open. 2025)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

40歳以上ドナー卵子による妊娠転帰(Hum Reprod. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

2025.10.29

妊活における 痩せ薬(GLP-1受容体作動薬)(Fertil Steril. 2024)

2025.10.29

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

修正排卵周期凍結融解胚移植におけるトリガー時卵胞径と生殖医療成績(Hum Reprod Open. 2025)

2025.08.20