はじめに
「ERA検査をして着床前診断で正倍数性胚を戻すと妊娠率が高いと思っているなら何故最初からしないんですか?最初から選択肢として提示してほしい」という声を多く耳にします。正倍数性胚のERA調整胚移植の成績は100%になるのでしょうか。
ポイント
正倍数性胚をERA調整して移植しても、継続妊娠率は63.2%であり100%には至りません。正倍数性胚でも着床しない患者の約20%に子宮内膜のずれが診断され、ERA調整により妊娠率改善の可能性が示唆されました。
引用文献
Tan J, et al. J Assist Reprod Genet. 2018;35(4):683-692.


論文内容
2014年から2017年の間にERA検査を受けた88名の患者を対象に後方視的に検討し、標準的なプロトコールを用いて凍結融解胚移植(FET)を受けた患者群と、ERA検査調整プロトコールに従って個別化胚移植(pET)を受けた患者群の着床・妊娠・分娩成績を比較しました。
結果
過去に1回以上の正倍数性胚を移植し着床しなかった患者のうち、22.5%はERAで内膜のずれが診断されました。個別化胚移植後の着床率と継続妊娠率は、統計的には有意ではありませんでしたが、個別化胚移植なしの患者と比較して高いことが示されています(着床率:73.7% vs. 54.2%、継続妊娠率:63.2% vs. 41.7%)。正倍数性胚を移植して着床しなかった患者の中には、内膜のずれがある患者が一定数あり、ERA調整個別化胚移植を行うことで妊娠率改善に寄与する可能性があります。今回は症例数が少なかったため、統計的に本当に意味があるかどうかは、より大きな無作為化試験が必要です。
私見
私自身、正倍数性胚のERA調整後胚移植はERA検査をしないより妊娠までの期間は短縮するだろうと思っていますが、何よりこの論文でショックだったのは正倍数性胚のERA調整胚移植で12週までの継続妊娠率が64.7%(反復着床不全に限ると58.3%)しか上がらなかった点です。もちろん着床前診断での胚のダメージもあるでしょうし、着床不全のその他の介入検査を行っているかどうか不明ですが、100%に至らなくても80-90%位はいかないかなと思っていたので、少し残念な気持ちがしました。この結果から「ERA検査をして着床前診断で正倍数性胚を戻すと妊娠率が高いと思っているなら何故最初からしないんですか?最初から選択肢として提示してほしい」に関しては、ERA検査は万能ではないですし反復着床不全患者の一部の患者のみに有効な検査であると考えられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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