はじめに
「ERA検査をいつ行うの?」「内膜のずれている名が一定数いるなら初回のルーチン検査にすればいいんじゃない?」と、患者様よりよく尋ねられます。
それを前向き試験として検証した論文をご紹介します。この論文はERA検査を行っている会社が主導となっていますので、少し論調はERAびいきになっているなと思って読んでもよいのかもしれません。2025年時点では、難治性反復着床不全患者にのみ検査を行うメリットがあるかもしれないという位置付けの検査となっています。
ポイント
ERA検査を用いた個別化胚移植(pET)は、従来の凍結融解胚移植や新鮮胚移植と比較して、累積妊娠率および初回胚移植での継続妊娠率が有意に改善することが前向き試験で示されました。
引用文献
Carlos Simón, et al. Reprod Biomed Online. 2020 DOI: 10.1016/j.rbmo.2020.06.002
論文内容
ERAを用いた個別化胚移植(pET: pはpersonalizedの略です)の臨床成績は凍結融解胚移植や新鮮胚移植とは異なるかどうかを調べるために行われた前向き試験です。初回、体外受精を受ける37歳以下の患者458名(世界16の体外受精施設)がERAによるpET、凍結融解胚移植、新鮮胚移植のいずれかに無作為に割り付けられ、臨床結果を調査しました。ITT解析(結果はどうあれ初めに割り付けた患者たちの結果)による臨床成績は同等でした。しかし、累積妊娠率はpET群(93.6%)が凍結融解胚移植群(79.7%)および新鮮胚移植群(80.7%)と比較して有意に高くなりました。
プロトコール分析(割り付け通り行った患者の結果)では、初回の胚移植による出生率はpETで56.2%、凍結融解胚移植で42.4%(P = 0.09)、新鮮胚移植群で45.7%(P = 0.17)でした。12ヵ月後の累積出生率は、pET群で71.2%、凍結融解胚移植群で55.4%(P = 0.04)、新鮮胚移植群で48.9%(P = 0.003)でした。初回胚移植時の妊娠率は72.5%(pET)、54.3%(凍結融解胚移植、P = 0.01)、58.5%(新鮮胚移植、P = 0.05)でした。初回胚移植時の着床率は、それぞれ57.3%(pET)、43.2%(凍結融解胚移植、P = 0.03)、38.6%(新鮮胚移植、P = 0.004)でした。産科転帰、分娩の種類、新生児転帰はすべての群で同様でした。
この臨床研究は前向き研究のため、これくらいの結果が出るだろうと想定して症例数を決めて開始します。当初30%程度の患者が割り付けから脱落するだろうとして症例数を決めたのですが、実際は50%の患者が脱落しました。しかし、プロトコール分析では、凍結融解胚移植・新鮮胚移植群と比較してpETの妊娠率、着床率、累積出生率が統計学的に有意に改善したことが示されました。胚移植前にERA検査を用いたpETの有用性が示唆されています。

私見
対象となった患者様は女性年齢33歳前後、採卵で10個前後卵が回収できる方です。にもかかわらず初回でERAを行った方が、「妊娠までの期間が短くなる」「1回の採卵あたりの出生率」が上がるという報告です。ERA検査を行うと通常の胚移植に比べて胚移植を行うのが2か月近く遅れます。また費用もお薬代も含めると20万程度多くかかります。色々な環境の患者様がいらっしゃいますので適切な情報提供そして選択を提示できるようにしていきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。