
はじめに
慢性子宮内膜炎は不妊症、反復流産、反復着床不全などの妊娠予後不良と関連し、治療により妊娠予後が改善することが知られています。主要な病原菌はStreptococci、Enterococcus faecalis、Escherichia coli、Staphylococci、Ureaplasma urealyticum、Chlamydiaとされています。自然治癒率は低く、従来の細菌培養だと検出が難しいことから広域スペクトル抗菌薬による経験的治療が主流となっています。現在、ドキシサイクリン単独療法とレボフロキサシン・チニダゾール併用療法が最も広く使用されていますが、どちらが優れているかのコンセンサスがありません。本研究では、これら2つの抗菌薬療法の有効性と安全性を直接比較したランダム化比較試験をご紹介いたします。
ポイント
ドキシサイクリン単独療法とレボフロキサシン・チニダゾール併用療法は慢性子宮内膜炎に対して同等の有効性を示しましたが、副作用の発生率が低いドキシサイクリン単独療法が第一選択として推奨されます。
引用文献
Liu Y, et al. Am J Obstet Gynecol. 2026 Jan;236(1):141-148. doi: 10.1016/j.ajog.2025.07.045.
論文内容
慢性子宮内膜炎に対する2つの抗菌薬療法を比較するランダム化比較試験です。2022年12月から2024年1月まで中国単一施設で実施されました。対象は20-45歳の妊娠希望女性で、月経増殖期の子宮内膜生検でCD138陽性(≥1/10 HPFs、最低50 HPFs検鏡)により慢性子宮内膜炎と診断された患者です。無作為割付を行い172名を登録しました。治療新規群にはレボフロキサシン500mg・チニダゾール1000mgを、治療従来群にはドキシサイクリン200mgを、それぞれ経口で1日1回14日間投与しました。抗菌薬治療後の最初の月経増殖期に子宮鏡検査と子宮内膜生検を繰り返し実施し、CD138発現が陽性から陰性に転換することを治癒と定義しました。慢性子宮内膜炎の重症度はCD138陽性形質細胞数により、Mild CE(1-4個/10 HPFs)とSevere CE(≥5個/10 HPFs)に分類しました。主要評価項目は1コース治療後の治癒率、副次評価項目は副作用発生率です。研究者、臨床医、病理医、統計解析者は群割付と治療内容について盲検化されました。
結果
160名の患者がPer-Protocol解析に組み入れられ、治療群79名、対照群81名でした。12名が脱落し、その内訳は子宮鏡再検査・子宮内膜生検未実施9名、副作用による中断3名でした。両群の患者背景に有意差はありませんでした。年齢中央値は両群とも33歳、BMI中央値は22.3 vs 22.0 kg/m²でした。臨床診断の内訳は、内膜ポリープ51.9% vs 58.0%、粘膜下筋腫15.2% vs 8.6%、反復流産11.4% vs 12.3%、子宮腔内癒着12.7% vs 9.9%、不妊症8.9% vs 11.1%でした(P=.694)。初回サンプリング方法は、外来子宮鏡が64.6% vs 67.9%、子宮鏡下切除術が35.4% vs 32.1%でした(P=.655)。慢性子宮内膜炎の重症度は、Mild CEが57.0% vs 60.5%、Severe CEが43.0% vs 39.5%でした(P=.065)。1コースの抗菌薬治療後、慢性子宮内膜炎の治癒率は治療新規群84.8%(67/79)、治療従来群77.8%(63/81)で、群間に有意差はありませんでした(P=.255)。全体の治癒率は81.3%(130/160)でした。ITT解析(n=172)では、治療新規群77.9%(67/86)、治療従来群73.3%(63/86)で、全体の治癒率は75.6%(130/172)、群間に有意差はありませんでした(P=.595)。慢性子宮内膜炎の重症度に基づくサブグループ解析では、治療新規群のMild CEは88.9%(40/45)、Severe CEは79.4%(27/34)で、群内比較ではP=.245でした。治療従来群のMild CEは83.7%(41/49)、Severe CEは68.8%(22/32)で、群内比較ではP=.114でした。両レジメンともMild CEで治癒率が高い傾向がありましたが、統計学的有意差はありませんでした。群間比較では、Mild CEで88.9% vs 83.7%(P=.464)、Severe CEで79.4% vs 68.8%(P=.322)と、いずれの重症度でも有意差はありませんでした。Per-Protocol解析において、治療新規群では7名(8.9%)が副作用を経験し、その内訳は消化器不快感5名、めまい2名でした。治療従来群では2名(2.5%)が軽度悪心を経験しました。群間比較ではP=.096で有意差はありませんでした。安全性解析セット(n=172)では、治療新規群でさらに3名が薬剤不耐性により脱落しました(悪心・嘔吐・食欲低下2名、高度のめまい1名)。治療新規群の副作用発生率は11.6%(10/86)、治療従来群は2.3%(2/86)で、治療群新規で有意に高くなりました(P=.032)。
私見
臨床診断別(内膜ポリープ、粘膜下筋腫、反復流産、子宮腔内癒着、不妊症)やサンプリング方法別(外来子宮鏡 vs 子宮鏡下切除術)のサブグループ解析は実施されていないため、器質的病変の有無や処置の有無が治癒率に与える影響は不明です。また、妊娠予後への影響も評価されていません。本研究により、ドキシサイクリン単独療法は有効性が同等で副作用が少ないため、慢性子宮内膜炎の第一選択として推奨されます。子宮内膜マイクロバイオーム解析と慢性子宮内膜炎の関連がもう少し明確になると抗菌薬使用を減らせると考えられるため、今後も関連性を注視していきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。