体外受精

2026.02.23

卵巣反応不良高リスク症例へのGnRHアンタゴニスト法の有用性(Fertil Steril. 2025)

はじめに

PPOSとGnRHアンタゴニスト法はほぼ同等の生殖医療成績であるとされています。ただ、症例によって向き不向きがあるのでは?と以前から様々な検討がされています。
卵巣反応不良高リスクが予測される若年女性に対して、GnRHアンタゴニスト法とPPOS法の有効性を比較検討しました報告をご紹介いたします。

ポイント

卵巣反応不良高リスクが予測される若年女性において、GnRHアンタゴニスト法はPPOS法と比較して採卵数を増加させました。

引用文献

Yili Teng, et al. Fertil Steril. 2025 Dec;124(6):1255-64. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.07.018.

論文内容

卵巣反応不良高リスクが予測される若年女性において、GnRHアンタゴニスト法がPPOS法と比較して採卵転帰を改善するかを検討することです。
2023年1月から2025年4月の間に初回IVF/ICSI治療を受けた35歳以下の女性2,068名を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。年齢、AMH値、胞状卵胞数、基礎FSH値、FSH/LH比を含む検証済みノモグラムを用いて、卵巣反応不良高リスク(予測スコア≧0.41)と判定された症例を対象としました。主要評価項目は採卵数低値率(10個未満)と採卵数としました。
刺激プロトコルは以下の通りです。
GnRHアンタゴニスト法では、遺伝子組み換えFSH(Gonal-F, Merck Serono)またはhMG(Livzon)を150-250 IU/日で投与し、年齢、BMI、卵巣予備能に応じて個別化したflexibleGnRHアンタゴニストプロトコルです。PPOS法では、遺伝子組み換えFSHまたはhMG(150-250 IU/日)と経口メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(10 mg/日、Livzon)を刺激開始日から同時投与しています。

結果

採卵数低下高リスクの若年女性2,068名において、GnRHアンタゴニスト法はPPOS法と比較して有意に良好な卵巣刺激転帰をもたらしました。
傾向スコアマッチング後の各群494症例の比較では、予測スコアは両群間で均衡しました(0.68 vs. 0.68、BF10 = 0.1)。しかし、PPOS群ではAMH値(1.3 vs. 1.7 ng/mL、BF10 >10^10)、胞状卵胞数(7.2個 vs. 9.4個、BF10 >10^19)、FSH値(9.1 vs. 11.0 IU/L、BF10 >10^19)が依然として低値でした。アンタゴニスト群ではFSH/LH比がやや高値(2.8 vs. 2.5、BF10 = 27.9)で、年齢もわずかに高齢でした(32.2歳 vs. 31.6歳、BF10 = 25.4)。
PSM後の卵巣刺激転帰では、アンタゴニスト群はhCG日の≧12mm卵胞数(9.3個 vs. 6.3個、BF10 >10^19)、採卵数(8.3個 vs. 5.3個、BF10 >10^28)、採卵率(88.2% vs. 81.2%、BF10 >10^3)が高値であり、採卵数低値率は低値でした(65.2% vs. 86.0%、BF10 >10^19)。受精方法の分布、ゴナドトロピン投与期間、総投与量、MII卵子率、正常受精率、分割率、D3良好胚率、胚盤胞形成率は両群間で有意差を認めませんでした。
多変量調整ベイズ解析では、PSM後もアンタゴニスト群で採卵数が多く(平均差1.8個、95% HDI 1.6-2.0、効果サイズ0.47、BF10 >10^14)、採卵率も高値でした(平均差4.8%、95% HDI 3.2-6.4、効果サイズ0.19、BF10 = 7.7)。採卵数低値率は低値でした(平均差-10.8%、95% HDI -13.5 to -8.1、効果サイズ0.55、BF10 >10^3)。D3良好胚率および胚盤胞形成率に有意差はありませんでした。

私見

PSM後もPPOS群でAMH値、胞状卵胞数、FSH値が低値であった点はひっかかりますが、重要な結果だと思っています。
高齢女性や卵巣予備能低下症例ではGnRHアンタゴニスト法とPPOS法の比較が行われてきましたが、結果は一定していませんでした。35歳以上の卵巣予備能低下女性を対象とした報告では、PPOS法で受精胚の質や妊娠転帰が不良であったとする報告がある一方(Huong NTL, et al. J Formos Med Assoc, 2025)、採卵数に有意差がなかったとする報告も存在します(Wang M, et al. Int J Gynaecol Obstet, 2024)。
GnRHアンタゴニスト法の優位性は、より柔軟な投与スケジュールと内因性ゴナドトロピンへの抑制作用が少ないことに起因するのでしょうか。

BF10(ベイズファクター)は「対立仮説が帰無仮説より何倍もっともらしいか」を直接示す指標で、従来のP値より直感的に解釈できます。P値は二値的な「有意/非有意」判断ですが、BF10は証拠の強さを連続的に評価し、BF10>3で中等度、>10で強い、>100で決定的証拠と判断します。また、BF10<1は「差がない」ことへの積極的証拠となります。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# GnRHアンタゴニスト

# PP(PPOS)

# 卵巣刺激

# 卵巣予備能、AMH

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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