
はじめに
黄体期刺激は刺激開始時期の柔軟性を高める一方、受容性のある子宮内膜が得られないため新鮮胚移植ができないという制約があります。採卵数や卵子の能力については卵胞期刺激と同等とされていますが、受精胚の倍数性や胚質への影響に関するデータは限られていました。今回、卵胞期刺激と黄体期刺激における正倍数性胚数と胚質を比較した大規模後方視的研究をご紹介いたします。
ポイント
黄体期に開始した卵巣刺激は、正倍数性胚の数や胚質に悪影響を及ぼさず、時間的制約のあるカップルにとって有用な選択肢となります。
引用文献
Lawrenz B, et al. Fertil Steril. 2026 Feb;125(2):298-307. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.08.032.
論文内容
黄体期卵巣刺激が受精胚の数、受精胚の倍数性、および胚質に与える影響を卵胞期刺激と比較することを目的とした後方視的コホート研究です。
2017年3月から2024年11月に、単一生殖医療施設においてGnRHアンタゴニストプロトコルを用いた卵巣刺激(卵胞期開始または黄体期開始)を受けた女性を対象としました。黄体期刺激は自然排卵後かつ次回の予想月経出血前に開始されたものと定義し、刺激開始日または前日の血清プロゲステロン値が1.5 ng/mL超であることを確認しました。DuoStim周期および外科的に採取した精子を使用した周期は除外し、少なくとも1個の胚盤胞が生検された周期のみを対象としました。年齢、BMI、AMH、AFC、精液の由来、刺激薬剤を用いた2:1の傾向スコアマッチング(PSM)を実施し、マッチされたコホートに対して二重ロバスト法による多変量混合効果負の二項回帰分析を行いました。
結果
初期コホートは卵胞期周期3,524周期、黄体期周期552周期でした。マッチング前には、黄体期群はBMI中央値が低く(26.4 vs. 27.3 kg/m²; P<.001)、AMH中央値が低く(1.5 vs. 1.8 ng/mL; P<.001)、AFC中央値が低い(10 vs. 12; P<.001)という特徴がありました。
2:1のPSM後、卵胞期周期1,058周期と黄体期周期550周期がマッチされました。マッチされたコホートにおいて、黄体期刺激は有意に長い刺激期間(中央値11.0 vs. 10日; P<.001)とより多いゴナドトロピン総投与量(中央値4,050 IU vs. 3,300 IU; P<.001)を要しました。COC数、MII数、受精胚数、胚盤胞数、生検胚盤胞数、正倍数性胚盤胞数の中央値は、回帰調整前には両群間で有意差を認めませんでした。
多変量回帰分析では、MII数の調整Incidence Rate Ratio(発生率比)は1.04(95%CI: 1.00–1.09; P=.062)、胚盤胞数は1.05(95%CI: 0.99–1.11; P=.116)、正倍数性胚盤胞数は1.04(95%CI: 0.94–1.14; P=.459)であり、いずれも有意差を認めませんでした。胚盤胞の質の分布も、卵胞期群(N=3,831: top 8.4%、good 49.5%、fair 22.1%、poor 20.0%)と黄体期群(N=2,110: top 9.4%、good 51.1%、fair 20.9%、poor 18.6%)で有意差はありませんでした(P=.231)。
1年以内に黄体期周期と卵胞期周期の両方を受けた147名の女性を対象としたペア分析でも、黄体期周期はより長い刺激期間(中央値11 vs. 10日; P<.001)とより多いゴナドトロピン投与量(中央値4,050 IU vs. 3,600 IU; P<.001)を要しましたが、COC数(9 vs. 8; P=.604)、MII数(6 vs. 7; P=.384)、受精胚数(4 vs. 5; P=.170)、胚盤胞数(両群とも3; P=.325)、生検胚盤胞数(両群とも2; P=.115)、正倍数性胚盤胞数(両群とも1; P=.352)に有意差は認められませんでした。
マッチされたコホートからの単一正倍数性胚移植478件の出生率は、卵胞期由来胚42.4%(134/316)、黄体期由来胚45.1%(73/162)であり、有意差はありませんでした(OR: 1.07; 95%CI: 0.73–1.58; P=.719)。
私見
大規模PSM分析および同一患者内ペア分析(147名)という二つのアプローチにより、黄体期卵巣刺激が正倍数性胚数・胚質に悪影響を及ぼさないことを示しました。
この結果は、DuoStimにおける黄体期刺激の有効性を報告したUbaldi FM, et al.(Fertil Steril. 2016)やCimadomo D, et al.(Hum Reprod. 2018)の知見と一致しています。また、PPOS周期でも倍数性への悪影響がないとする報告(Vidal MDM, et al. Hum Reprod. 2024)とも一致しています。黄体期は血清プロゲステロン高値が懸念されますが、卵胞液中プロゲステロン濃度は卵胞期・黄体期で大差なく(Lin PC, et al. Fertil Steril. 2002)、卵子の質への影響は限定的と考えられます。刺激期間やゴナドトロピン消費量の増加という既知のデメリットはあるものの、時間的制約のあるカップルに対して黄体期刺激は安心して提案できる選択肢であることを、過去の文献と合わせて改めて確認できる納得のいく結果です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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