男性不妊

2026.05.23

「良かれと思って」が精子を傷つける?過剰な抗酸化サプリが招く「還元ストレス」の落とし穴 (F&S science、2025)

研究の紹介

参考文献

日本語タイトル
生殖における微量栄養素(サプリメント)の二面性:良すぎることも仇となるのか?

英語タイトル
The dual nature of micronutrients on fertility: too much of a good thing?

PubMedよりCITAtion, PMIDも.
Moazamian A,他. F S Sci. 2025;6(3):293-302. doi: 10.1016/j.xfss.2025.02.004. PMID: 40015627.

はじめに

不妊治療中の男性にとって「酸化ストレス」対策は一般的ですが、最新の研究は過剰な対策が招く「還元ストレス」の危険性を指摘しています。酸化を抑えれば良いという単純な考え方ではなく、生殖細胞内の精密な酸化還元バランスを維持することが重要です。良かれと思って摂取しているサプリメントが、かえって精子の質を損なっていないか見直す時期に来ています。

研究のポイント

  • 健康状態でのリスク: 酸化ストレスのない健康な個体が抗酸化物質を過剰摂取すると、細胞内のバランスが「還元状態」に偏り、逆に精子DNAを損傷させ不妊を誘発する。 
  • 不妊状態での保護作用: 一方で、酸化ストレスが確認される不妊モデルでは、高用量サプリメントが精子DNAを酸化から守る保護的な役割を果たすという対照的な結果が得られた。 
  • 個別化の必要性: 一律の摂取ではなく、事前に個々の酸化還元状態を測定し、必要な人にのみ必要な量を投与する「パーソナライズされた設計」が不可欠である。 

研究の要旨

目的

一般に安全とされる用量の抗酸化微量栄養素の補給が、精液パラメータ、全身の酸化還元バランス、精子DNAの完全性、および不妊に及ぼす影響を調査することがこの研究の目的です。 

方法

ヒトでの研究には倫理的制約があるため、マウスを用いた用量漸増試験を実施しました。健常な雄マウス(CD1)に、一般的な水溶性抗酸化物質(ビタミンC、亜鉛、葉酸、カルニチン)を1精子形成サイクルにわたって投与しました。また、高用量カルニチン投与時の妊娠転帰を調べるとともに、酸化ストレス下にある不妊マウス(gpx5-/-)との比較評価を行いました。 

結果

健常なマウスにおいて、高用量の各栄養素は血漿中の酸化還元バランスを乱し、成分特有の様式で精子DNAの完全性を損なわせました。特に高用量カルニチン群では深刻なDNA断片化が確認され、交配試験では妊娠率が低下傾向(P=0.07)を示したほか、総出生子数が対照群の140匹に対し72匹へと減少しました。一方で葉酸は、高用量でも精子核の凝集性を改善するという独自の保護的側面を示しました。対照的に、酸化ストレス状態にあるマウスでは、高用量カルニチンが精子DNAの完全性を改善するという逆の保護効果を発揮しました。 

結論

高用量の抗酸化サプリメントは、還元ストレスを誘発し、精子DNAなどの重要な分子構造を損傷する可能性があります。プレコンセプション(妊娠前)ケアとしての抗酸化サプリメントの有用性は支持されるが、医療従事者は可能な限り酸化ストレスレベルを評価した上で、還元ストレスを避け悪影響を防ぐために、個別の適切な投与量を推奨すべきです。 

図.研究結果のまとめ

私見

サプリメントの盲目的な摂取には注意が必要です。本来、活性酸素を含む反応性代謝種(RMS:Reactive Metabolic Species)は単なる老廃物ではなく、細胞のシグナル伝達に不可欠な役割を担っています。微量の活性酸素種(ROS)は、精子の受精能獲得に不可欠であり、特に精子capacitation(受精能獲得)、過運動性(hyperactivation)、先体反応(acrosome reaction)、精子-卵子融合という4つの重要な機能に必要です。抗酸化サプリメントの過剰摂取でこれらが過度に消去されると、細胞内が極端な還元状態に傾く「還元ストレス」が生じ、皮肉にも精子DNAの断片化を招きます。例えばビタミンCが金属イオンと反応して活性酸素を生む「フェントン反応」や、カルニチンがミトコンドリア活性を過剰に高めてDNA損傷を誘発する機序が考えられます。
ただし、葉酸のように高用量でもDNAの凝集を助ける例外的な成分もあり、一概に全てが悪ではありません。重要なのは、同じサプリメントでも酸化ストレスがある個体には「薬」となり、ない個体には「毒」となり得る点です。この論文中では、男性妊活用のサプリメントの97%に還元リスクがあることも明らかにしています。
臨床現場では、まずDFI(DNA断片化指数)検査や酸化ストレスマーカーの測定によって患者さんの状態を客観的に評価し、その結果に基づいた「個別化された投与」を行うことが、安全で効果的な妊活の鍵となります。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# サプリメント

# 精子DNA損傷検査

# ビタミン

# 葉酸

# 基礎研究

亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

micro-TESE不成功・無精子症の男性が、イソトレチノイン内服で自然妊娠——世界初の報告(Cureus、2025)

2026.05.16

無精子症・極少精子症に新たな光 ― イソトレチノインによる精子形成誘導の可能性 (J Assist Reprod Genet、2025)

2026.04.25

無精子症に新たな可能性 ― イソトレチノインによる精子形成誘導の試み (Asian J Andrology、2021)

2026.04.18

イソトレチノインは男性不妊を改善するのか?―乏精子・精子無力症に対する治療の可能性(Andrology、2017)

2026.04.04

ニキビ治療薬が精液所見を変える?―イソトレチノインと男性不妊治療の可能性(Annals of Medicine、2023)

2026.03.28

男性不妊の人気記事

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

micro-TESE不成功・無精子症の男性が、イソトレチノイン内服で自然妊娠——世界初の報告(Cureus、2025)

勃起障害と不妊症の保険診療について①

2024.02.10

射精から時間が経つと精液検査所見は悪化する?

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

2024.03.14

2020.10.26

夫婦の体重(BMI)は妊娠しやすさ(不妊)に影響する?(Fertil Steril. 2020)

2020.10.26

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

非前置胎盤性癒着胎盤のリスク因子(Reprod Med Biol. 2024)

2024.07.29