
はじめに
体外受精の予後を予測するうえで、女性年齢と卵巣予備能検査(ORT)が広く用いられています。ASRMは卵巣予備能を「卵子の量」と定義し、「質」は受精・着床・出生に至る能力として明確に区別しています。臨床現場では、AMH低値の若年女性に対して「数は少ないが質は保たれているのか、それとも質も低下しているのか」という問いに直面することが少なくありません。今回、AMHをはじめとするORTが卵子の質を予測しうるかという問いに焦点を当てた総説をご紹介いたします。
ポイント
AMHは卵子の量を反映する指標として確立されているのみならず、流産率、胚aneuploidy率、累積出生率から判断するに、年齢非依存的に卵子の質も部分的に反映しうる可能性が示されています。
引用文献
Frankfurter D, et al. J Assist Reprod Genet. 2026 Mar 28. doi: 10.1007/s10815-026-03864-8.
論文内容
卵巣予備能検査(ORT)、特にAMHが卵子の量のみならず質を予測しうるかという臨床的に重要な問いについて、卵巣加齢のメカニズム、現行ORTの特性、そして近年のエビデンスを統合的にレビューした総説です。
ASRMおよびESHREはORTを生殖能の予測因子として限定的にしか評価しておらず、IVF時の採卵数予測を超える使用には慎重であるべきとしています。ORTが顆粒膜細胞の動態を反映する指標であり、卵子そのものの質を直接評価するものではないことが、その慎重姿勢の背景にあります。一方で、PGT-Aの普及により胚aneuploidyを「卵子の質」のマーカーとして用いた解析が可能となり、ORTと卵子の質の関係を再検討する動きが活発化しています。
AMHと卵子の質に関しては研究結果が分かれています。
著者らは結論として、ORTは年齢非依存的に卵子の量を予測する指標として確立されており、AMHは流産率、胚aneuploidy率、CLBRから判断するに、年齢非依存的な卵子の質のマーカーともなりうると述べています。
私見
AMHが卵子の質を予測するか否かは、生殖医療における長年の議論の一つです。本総説でも示されている通り、研究結果は一致していません。
肯定派の代表的報告:
- Nelson SM, et al. Hum Reprod. 2009:
前向きコホート研究にてAMH低値が母体年齢非依存的に妊娠率低下と関連することを示し、極めて低いAMHでは年齢にかかわらずIVFでの臨床妊娠の見込みが著しく減少すると報告しています。 - Katz-Jaffe MG, et al. Obstet Gynecol. 2013:
TE生検+PGT-Aを用いてAMHとaneuploidyを評価し、AMH≤1 ng/mLおよび/またはFSH≥10 IU/Lで胚盤胞のaneuploidy率が増加することを示しました。両者が異常な場合に最も強い関連が認められました。 - La Marca A, et al. Fertil Steril. 2017:
578名の不妊女性から得た1,814個の胚盤胞を後方視的に解析し、AMHと正倍数性胚盤胞率に年齢非依存的な強い相関を認めました。AMH低値は卵胞プールの量的・質的低下を反映するとしています。 - Tarasconi B, et al. Fertil Steril. 2017:
IVFを受けた1,060名の女性で、34歳以上の集団においてAMH低値群では中・高値群と比較して流産率が高いことを示し、AMHは卵子の量と質双方のマーカーであると結論づけました。 - Tal R, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2021:
SART-CORSデータベース34,500周期超を解析し、AMHが年齢非依存的にDOR女性のCLBRと相関することを示し、AMHと卵子の質の関連を強く支持しました。 - Jaswa EG, et al. Fertil Steril. 2021:
42歳以下のBologna基準該当患者を対象とし、DOR群の正倍数性率がnon-DOR群より低い(29.0% vs. 44.9%)ことを示し、卵子の量と質は連動するとしました。 - La Marca A, et al. Hum Reprod. 2022:
初回IVF/ICSI/PGT-A周期を受ける847名の前向き研究で、AMH、次いで年齢が正倍数性胚盤胞獲得の最も強い予測因子であることを示しました。胚盤胞が得られず周期キャンセルとなった症例も解析に含めた点が強みです。 - Li HJ, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2023:
SART-CORSデータベース解析で、AMHが年齢および生検胚数非依存的に正倍数性胚1個以上の獲得を予測しました。38歳未満ではAMHが、38歳以上では年齢がaneuploidyのより強い予測因子でした。
否定派の代表的報告:
- Ficicioglu C, et al. Fertil Steril. 2006:
小規模前向き研究でROC解析を行い、AMHは採卵数の感度・特異度の高い指標であるものの、妊娠成立を予測する指標ではないと報告しました。 - Smeenk JM, et al. Fertil Steril. 2007:
AMHは卵巣反応性を予測するが、胚質や妊娠成立を予測する指標ではないとしました。 - Broer SL, et al. Fertil Steril. 2009:
システマティックレビューでAMHが妊娠を予測するという所見を得られませんでした。ただし単変量解析の限界があり、年齢の影響を十分に評価できていないことを著者自身も認めています。 - Hsu A, et al. Fertil Steril. 2011:
大規模後方視的研究にて、AFCと妊娠率・流産率・出生率のいずれにも有意な関連を認めませんでした。 - Morin SJ, et al. Hum Reprod. 2018:
38歳未満のDOR/POR患者を対象とし、年齢一致対照群と比較して胚盤胞形成率、正倍数性率、出生率いずれにも差なく、卵子の量と質は独立した因子であるとしました。ただしDOR群では受精率低下が認められた点には注意が必要です。 - Fouks Y, et al. Fertil Steril. 2022:
40歳未満のBologna基準該当患者(AMH≤1.1 ng/mL)でPGT-Aを実施し、aneuploidy率および正倍数性胚移植後の出生率に有意差を認めませんでした。ただしDOR群では「移植可能な正倍数性胚が得られない」割合が高い結果でした。
ORTを「卵子の質を全般的に評価する指標」として用いるには現時点で限界があると考えられます。本総説でも強調されている通り、ORTはあくまでスクリーニング検査であるべきです。
35歳未満の卵巣予備能低下女性であっても自己卵子によるARTを断念するべきではなく、数は少なくとも質の良い卵子が残存している可能性が高いことを丁寧に説明することが、shared decision-makingの観点からも重要と考えます。一方で、高度な卵巣予備能低下を呈する症例では、量的・質的双方の低下を念頭に置いた現実的なカウンセリングも必要です。ORTの結果単独で治療を断念させることは推奨されず、実際のARTサイクルの結果(採卵数、受精率、胚発生、正倍数性率)と統合して個別化された予後評価を行うことが、現時点での最善のアプローチと考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。