
はじめに
肥満は排卵の有無を問わず妊孕性を低下させ、BMIが30〜35の間で1 kg/m²増えるごとに妊娠率が約4%低下すると報告されています。また妊娠前肥満は妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの周産期合併症リスクを高めます。各種ガイドラインは挙児希望の肥満女性に妊娠前の5〜10%減量を推奨していますが、生活習慣介入の有効性を検証したRCTは乏しく、特に不妊治療中も介入を継続した研究はありませんでした。今回、肥満(PCOS合併では過体重を含む)不妊女性を対象に、不妊治療前から治療中まで継続する生活習慣介入の効果を検討したカナダのRCTをご紹介いたします。
ポイント
6か月間の生活習慣介入(その後、一般不妊治療中心との併用)は18か月時点の出生率を有意には高めませんでしたが、自然妊娠率を有意に増加させ、生殖補助医療の必要性を減らせる可能性があります。
引用文献
Belan M, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2026;111(6):e1643-e1652. doi: 10.1210/clinem/dgaf660.
論文内容
肥満を伴う不妊女性において、生活習慣介入が通常診療と比較して妊娠予後を改善するかを評価することを目的としています。
カナダの大学附属不妊クリニックで実施されたRCT(Obesity-Fertility試験)です。18〜40歳、不妊かつ肥満(BMI≧30 kg/m²、PCOS合併では≧27 kg/m²)の女性127人を対象とし、自然妊娠が不可能または極めて困難な女性は除外しました。介入群は、まず6か月間の生活習慣介入単独(管理栄養士と運動指導士による個別フォローアップおよび集団セッション)を受け、その後に不妊治療を追加しました。すなわち最初の6か月は治療を行わず減量に専念し、7か月目以降は生活習慣介入を継続したまま不妊治療を併用する設計です。対照群は通常の不妊診療を直ちに開始しました。主要評価項目は、無作為化後18か月以内に成立した妊娠による出生率としました。
結果
6か月時点で、介入群は対照群より体重(−3.21%±4.73% vs −0.40%±3.66%, P=.003)およびウエスト周囲径(−2.62±4.46 cm vs −0.23±3.81 cm, P=.01)がより減少しました。出生率は介入群44.4%(n=63)、対照群35.9%(n=64)でした(RR=1.24 [95% CI 0.81–1.90])。臨床妊娠率は介入群52.4% vs 対照群37.5%(RR=1.40 [0.94–2.07])、自然妊娠率は27.0% vs 12.5%(RR=2.16 [1.01–4.64])でした。生殖補助医療を実施した女性は介入群6.4%・対照群6.3%と少数で、生殖補助医療で臨床妊娠に至ったのは介入群1人(1.6%)・対照群4人(6.3%)にとどまりました。不妊治療の実施割合と1人あたりの治療周期数は両群で同等であり、流産率にも差はありませんでした。通常診療と比較して、6か月間の生活習慣介入単独とその後の不妊治療との併用は、18か月時点の出生に至る妊娠率を増加させませんでしたが、自然妊娠率を有意に増加させ、この集団における生殖補助医療の必要性を減らす可能性があります。
私見
類似デザインのMutsaerts試験(N Engl J Med. 2016)では、介入群(n=280)の24か月出生率がむしろ低く(43.9% vs 53.9%)、自然妊娠率は高い(26.1% vs 16.2%)と報告されました。著者は出生率低下の主因を「介入中止」とは断定せず、相違点として①介入を治療中も継続したか(本試験=継続)、②本試験集団がより高度肥満(BMI 39.7 vs 36.0 kg/m²)で経産婦が多い(40.2% vs 23.2%)、③無排卵性不妊の割合が高い(76.4% vs 46.9%)、を挙げています。特に重視されているのは不妊治療の実施割合で、Mutsaerts試験では介入群で有意に低かった(63.2% vs 81.3%)のに対し、本試験では両群同等(66.7% vs 64.1%)でした。なお別系統の報告として、12週間の集中介入で12か月妊娠率が向上したSim KA, et al.(Clin Obes. 2014)、薬物併用減量が運動介入に対し妊娠予後を改善しなかったLegro RS, et al.(FIT-PLESE, PLoS Med. 2022)がありますが、いずれも対照群の設定が本試験と異なり単純比較は困難です。
機序として著者は減量(特に中心性肥満の改善)によるホルモン異常・インスリン抵抗性・炎症の是正を挙げるにとどめており、「無排卵の是正で自然妊娠が増えた」とは明言していません。ただし本試験集団は無排卵性が76.4%と多く、増えたのが排卵誘発でも生殖補助医療でもなく自然妊娠であった点を踏まえると、減量による排卵機能の回復が自然妊娠増加に寄与したとの解釈は生物学的に整合的です。
BMI区分別のアウトカムサブグループ解析は行われていません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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