
はじめに
一部のがん治療は不妊リスクを高めうるため、各種ガイドラインはがん治療開始前の妊孕性に関するカウンセリングを推奨しています。治療前に卵子・受精胚を凍結保存する妊孕性温存、あるいは治療後に採卵を行う選択肢があります。がん既往女性に特化したIVF後の出生児予後は米国で検討されておらず、本研究は9州の連結データを用いてこれを評価しました。
ポイント
がん治療後による生殖補助医療による出生児はLGAリスクが約30%低い以外、周産期予後は非がん患者による生殖補助医療と同等で、一般生殖補助医療のデータを用いたカウンセリングを支持する内容でした。
引用文献
Jama Brookes, et al. Fertil Steril. 2026. doi: 10.1016/j.fertnstert.2026.01.021
論文内容
がん治療前後に生殖補助医療のため採卵を行ったがん患者が、がん既往のない他の生殖補助医療患者と比較して有害な出生児転帰のリスクが高まるかを明らかにすることを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。対象は2004〜2018年に9州(California, Colorado, Massachusetts, Maryland, Michigan, North Carolina, New Jersey, New York, Virginia)でがん既往の有無を問わず行われた単胎の生殖補助医療出生児です。曝露は生殖補助医療前にがん既往をもつ女性のうち、がん治療前に採卵した群(妊孕性温存)またはがん治療後に採卵した群です。主要評価項目は妊娠高血圧、LBW(<2,500 g)、PTB(<37週)、SGA、LGA、帝王切開分娩に対する多変量RRおよび95% CIです。調整変数は母体の人種、教育歴、児の性別、新鮮/凍結受精胚の別などで、National Society for Assisted Reproductive Technology Clinic Outcomes Reporting System(SART CORS)と州がん登録・出生証明を確率的に連結し、多変量修正Poisson回帰(GEE法)でARRを算出しました。
結果
135,274件の生殖補助医療出生児のうち、648件ががん患者によるもので、がん治療前採卵(妊孕性温存、n=112)または治療後採卵(n=536)でした。比較対象の非がん患者による生殖補助医療出生児は男性因子不妊(n=33,284)、卵管結紮(n=1,258)、その他すべての適応(n=100,084)でした。妊孕性温存群におけるPTB(13%)、LBW(10%)、SGA(12%)、LGA(10%)は非がん対照群とおおむね同等でしたが、帝王切開(55% vs. 44〜49%)はより高頻度でした。母体人種・教育歴・児の性別・受精胚の状態を調整したモデルでは、がん治療後採卵による生殖補助医療出生児は妊娠高血圧(6%)、PTB(13%)、LBW(9%)、SGA(9%)、帝王切開(53%)について非がん患者による生殖補助医療と一貫した差を認めませんでした。一方でLGA(8%)のリスクは、男性因子不妊(10%、RR=0.69、95% CI=0.51–0.93)、卵管結紮(13%、RR=0.56、95% CI=0.40–0.78)、その他すべての非がん患者の適応(10%、RR=0.71、95% CI=0.53–0.96)と比較していずれも低値でした。なおPTBはがん治療後採卵群で男性因子不妊群に対してのみ上昇(RR=1.33、95% CI=1.05–1.68)しましたが、他の対照群では有意ではありませんでした(卵管結紮 RR=1.12、95% CI=0.85–1.46;その他 RR=1.15、95% CI=0.92–1.45)。妊孕性温存群は出生児数が少なく(PTB・LBW・SGA・LGA・高血圧で各≦15件)多変量解析は実施できませんでした。
私見
同じように肯定的(出生予後に差なし)とする先行研究は少数報告のものしかありませんでした。一方、否定的(リスク上昇)とする報告として、デンマークのEverhøj C, et al. EClinicalMedicine 2022があり、がん既往女性の生殖補助医療出生児はPTB(RR=2.51)・LBW(RR=2.65)が2倍以上高いとしています。しかしこれは比較対象が「非がん女性の非生殖補助医療出生」であり、生殖補助医療自体がPTB(RR=1.15–1.60)・LBW(RR=1.12–1.72)・LGA(RR=1.26)と関連すること(Yu H, et al. Sci Rep 2022;McDonald SD, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2009)を踏まえると、上昇ががん既往によるのか生殖補助医療によるのか分離できないと考えられます。実際、交絡因子を調整するとLGAは上昇が残存(RR=1.23、95% CI=1.14–1.33)したのに対し、PTB・LBWは減弱したと報告されています(Yu H, et al. Sci Rep 2022)。
本研究の限界として、妊孕性温存群は症例数不足で多変量解析が行えず、化学療法の薬剤・レジメンや放射線の照射野・線量の情報も欠いていた点が挙げられます。
そうはいっても、がん治療後採卵が周産期予後を大きく悪化させる根拠は乏しく、一般IVFの知見をカウンセリングに援用できるという臨床的に安心材料となる報告と考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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