はじめに
肥満はBMI>30kg/m²、過体重はBMI 25.0〜29.9kg/m²と定義されています。
女性の場合、肥満が月経不順、無月経、不妊、妊娠中の合併症につながる可能性があります。太りすぎや肥満の女性は、正常なBMIの女性と比較すると、月経不順がなくても妊娠する力が低下し、流産や反復流産を増加させます。私たちは妊娠中の合併症の観点からBMI>30kg/m²の方は体重をコントロールしてから治療するようにご説明しておりますが、一般不妊治療の成績はどうなのでしょうか。比較的古い論文が多かったため、新しい報告を取り上げさせていただきます。
ポイント
BMIが25kg/m²以上でも人工授精後の出生率は正常BMIと同等です。ただし、BMI≧30kg/m²では生化学的流産のリスクが増加する可能性があり、妊娠後のホルモンサポートの検討が今後の課題。
引用文献
Rachel M Whynott, et al. Fertil Steril. 2020. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.07.003
論文内容
体格指数(BMI)が人工授精の成績に影響するかどうかを判断するために、単一施設で2009年7月から2018年12月まで実施した人工授精の成績を後方視的に検討したコホート研究です。1,306症例(3,217回)の人工授精を対象とし、BMIによる出生率、心拍が確認された妊娠、多胎妊娠、生化学的妊娠、切迫流産、子宮外妊娠、流産を検証しました。今回の研究ではBMI<18.5 kg/m²は症例が少なかったため除外されています。女性平均年齢は32歳前後、人工授精で用いた全運動精子数は2000万前後です。正常BMIは18.5〜24.99kg/m²と定義しています。人工授精中の卵巣刺激の種類は自然・内服・注射の3群ともに実施しています。
結果
BMIが25〜29.99kg/m²または≧30kg/m²の女性は、正常なBMIの女性と同様に出産していました。BMIが≧30kg/m²の女性は、正常なBMIの女性よりも生化学的流産が増加しました。BMIが25〜29.99kg/m²または≧30kg/m²の女性は、人工授精後の出生にマイナスの影響を与えないようです。肥満は、子宮内人工授精後の生化学的流産リスクの増加と関連している可能性があります。
私見
肥満が強く影響を与えるのは妊娠した後と考えられます。妊娠した後は流産を含めて赤ちゃんに影響を与える可能性が高いので、意識をしながら妊娠を迎える必要がありそうですね。
正常なBMIの方と比較して肥満の方の分布量の増加は、様々な薬物の薬物動態、β-hCG、プロゲステロンを含む内因性および外因性ホルモンに影響を与えることが報告されています。今後、ホルモン状態を外からサポートしてあげると生化学妊娠・流産の減少につながるのか、報告を待ちたいと思います。
また、彼らの解析では出産予測因子も母体年齢、無排卵因子、原因不明不妊、BMI、経産の有無で検討しています。母体年齢の上昇が出生率を低下させるのはイメージがわきやすいのですが、無排卵で排卵を誘発し人工授精した群、原因不明で人工授精した群は出産しやすい傾向にありました。ただ、今回のデータは多胎率が6-8%もあるので複数排卵での人工授精のデータであることから、もしかすると無排卵・原因不明には卵巣刺激をしっかり行うことによる交絡因子で妊娠しやすい傾向が出たのかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。