培養

2021.01.28

凍結した胚盤胞移植で透明帯がある場合とない場合があるのはなぜ?

凍結した胚盤胞を解凍して、お腹に戻す胚移植前、下の図のように胚盤胞に透明帯がある場合とない場合があります。およそ8割の胚盤胞は透明帯があって、1-2割の胚盤胞は透明帯がない状況なので、今回は主に透明帯がない理由を解説したいと思います。

胚移植前、胚盤胞の透明帯がない理由は2つあります。

  1. 凍結する前から透明帯がなかった
  2. 凍結する前に透明帯はあったが、解凍した時点で透明帯が外れてなくなった

先ずは

  1. 凍結する前から透明帯がなかった

から説明したいと思います。 下の図のように、胚盤胞と呼ばれる時期の発育過程は様々です。基本的には透明帯に覆われている「拡張胚盤胞」の時期に凍結をことにしていますが、稀に、成長の早い受精胚は凍結時、既に自ら透明帯を出てしまって「孵化胚盤胞」となっている場合があります。当然ながら、この状態では既に透明帯がない状態なので、解凍後も胚移植前も透明帯がない状態となります。

次に、

  1. 凍結する前に透明帯はあったが、解凍した時点で透明帯が外れてなくなった

について解説を進めていきます。以前の記事で胚盤胞を凍結する前にはレーザーで小さな穴を開けて、胚盤胞を縮めてから凍結するということを説明いたしました。この縮み方は胚盤胞毎に異なり、ある胚盤胞は水が抜けて完全に縮んだ様になったり、ある胚盤胞は水が完全に抜けず元の大きさよりも若干小さくなったりと千差万別です。因みに、この縮み方のバリエーションは凍結・融解後の生存率、胚移植後の妊娠率には影響しません。

解凍した時に透明帯が外れてしまう胚盤胞に大きく関与しているのが、この胚盤胞の縮み方と透明帯孵化補助になります。以前の記事で、当クリニックでは凍結・融解した胚盤胞をお腹に戻す前に全例、透明帯外周の半分に穴を開ける透明帯孵化補助を実施していると紹介いたしました。

傾向として、解凍操作の工程の中で、凍結時により縮んだ胚盤胞は透明帯孵化補助により開けた穴から出やすくなります。つまり透明帯が外れて無くなっている状態になり易くなります。あまり縮んでいない胚盤胞は透明帯孵化補助により開けた穴から出にくくなります。つまり透明帯がある状態になり易くなります。

以上、凍結した胚盤胞を解凍して、お腹に戻す胚移植前、胚盤胞に透明帯がある場合とない場合の違いについて解説致しました。恐らく、次に出てくる疑問は、透明帯がある状態、ない状態、どちらの方の妊娠率が高いのか?だと思います。以前の記事でも触れましたが、再度、解説させて頂きます。過去の比較試験の結果、胚盤胞の透明帯の一部(35-40 ㎛)に穴を開けた時の妊娠率は42%でしたが、透明帯を完全に外した時の妊娠率は67%となり有意に高い値を示しました。以上のことから、透明帯の一部に穴を開けるよりは、透明帯を完全に除去した方が有効と考えられました。Hiraoka K, Fuchiwaki M, Hiraoka K, Horiuchi T, Murakami T, Kinutani M, Kinutani K. Zona pellucida removal and vitrified blastocyst transfer outcome: a preliminary study. Reprod Biomed Online. 2007 Jul;15(1):68-75. doi: 10.1016/s1472-6483(10)60694-3.

また、別の比較試験の結果、胚盤胞の透明帯の一部(40㎛)に穴を開けた時の妊娠率は43%でしたが、透明帯全周の半分に穴を開けた時の妊娠率は74%となり有意に高い値を示しました。以上のことから透明帯の一部に穴を開けるよりも透明帯外周の半分に穴を開けた方が有効と考えられました。Hiraoka K, Fuchiwaki M, Hiraoka K, Horiuchi T, Murakami T, Kinutani M, Kinutani K. Effect of the size of zona pellucida opening by laser assisted hatching on clinical outcome of frozen cleaved embryos that were cultured to blastocyst after thawing in women with multiple implantation failures of embryo transfer: a retrospective study. J Assist Reprod Genet. 2008 Apr;25(4):129-35. doi: 10.1007/s10815-008-9214-5.

ここで透明帯を完全に除去する点と透明帯全周の半分に穴を開ける点どちらが有効なのかという疑問が出てきます。比較対象と対象期間は異なりますが、それぞれの妊娠率は67% と 74%と同等であることから、透明帯を完全に除去しても、透明帯半分に穴を開けても、どちらでも妊娠率は変わりません。

大事なことは透明帯が「ある」か「ない」のかではなく、透明帯全周の「半分以上」に穴が開いているかどうか、ということになります。

以上、胚盤胞の移植前に透明帯がある場合とない場合の理由について解説いたしました。

文責:平岡謙一郎(亀田IVFクリニック幕張 生殖補助医療管理胚培養士)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 凍結受精卵

# 透明帯孵化補助(AHA)

# 凍結融解胚移植

亀田IVFクリニック幕張 生殖医療事業管理部 培養管理室 管理胚培養士

平岡 謙一郎

亀田IVFクリニック幕張 生殖補助医療管理胚培養士。広島県立大学大学院修了(博士)。体外受精の中心となる受精・培養・凍結について専門知見に基づき紹介している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

受精胚の凍結を成功させるために_融解時

2025.11.08

受精胚の凍結を成功させるために_凍結時

2025.10.11

卵子の保管場所について(その三)

2024.11.02

卵子の保管場所について(その二)

2024.10.05

卵子の保管場所について(その一)

2024.10.04

培養の人気記事

卵子の大きさ

2025.03.08

精子の大きさ

2025.04.19

動画で見る受精現象の不思議(flare現象)(動画)

2023.02.04

光顕微鏡で見える卵子の紡錘体──角度で白と黒が入れ替わる小さな構造

2026.10.10

ヒト巨大卵子(giant oocyte)の判別基準としての細胞質直径は?(Fertil Steril Sci. 2022)

2026.07.22

大きな第一極体を有する卵子から得られた生児症例(Zygote. 2024)

2026.07.27

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

千葉県「早期不妊検査費助成事業」が2026年10月1日から始まりました―夫婦ふたりで不妊検査を受けると、1組につき上限3万円まで助成―

2026.10.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

卵子の大きさ

2025.03.08