
はじめに
ヒト卵子の直径は通常約110μmとされ、これより大きな細胞質直径をもつ卵子は巨大卵子(giant oocyte:GO)と呼ばれます。GOの発生頻度は0.12〜0.3%と報告されていますが、明確な診断基準が存在せず、一見すると正常卵子と見分けがつかないため、臨床現場で誤って治療に用いられる可能性があります。GOは染色体倍数異常(digynic triploidyへの寄与)が示唆されており、媒精やICSIに用いた場合、異常受精、胚発生停止、流産の原因となり得ます。今回、ヒト卵子の細胞質直径から巨大卵子を判別する基準を明確に示し、紡錘体およびセントロメア解析からその染色体異常を裏付けた大規模研究をご紹介いたします。
ポイント
ヒト卵子の細胞質直径≧130μmをGOの判別基準とでき、1紡錘体・2紡錘体いずれのGOもセントロメア数から二倍体相当の染色体倍数異常をもつことが示されました。
引用文献
Hiroya Kitasaka, et al. Fertil Steril Sci. 2022 Feb;3(1):10-17. doi: 10.1016/j.xfss.2021.11.004.
論文内容
細胞質直径≧130μmという単一形態指標がヒト巨大卵子(GO)の判別基準として有用かを明らかにし、加えて紡錘体長およびセントロメア数の評価からGOの染色体異常の有無を確認することを目的としたケースコントロール研究です。
対象は2014年1月から2020年12月にかけて卵巣刺激後に採卵を受けた20〜49歳の女性であり、合計254,337個の卵子(26,940周期)が解析対象となりました。卵巣刺激法は年齢、AMH、月経周期2〜3日目のFSH・LH・E2に基づき、クロミフェン併用低刺激、FSH/hMG+GnRHアゴニスト併用short法、フレキシブルGnRHアンタゴニスト法のいずれかが選択されました。まず無作為に大型卵子50個と正常サイズMII卵子50個を抽出し、画像解析ソフト(Cronus 3またはEmbryoScope)を用いて透明帯を含む全体径と細胞質直径を計測しました。次に無作為抽出されたGO 47個およびMII卵子について免疫蛍光染色を行い、抗α-tubulin抗体で紡錘体、抗H3K9me3抗体で女性染色体、CENP抗体でセントロメアを可視化し、共焦点顕微鏡(CV1000)で観察しました。紡錘体の極間距離(pole-to-pole distance)と赤道面径(equatorial plane)を計測し、セントロメアシグナル数は3次元解析により3回測定の平均値を採用しました。統計解析にはMann-Whitney U検定およびSteel-Dwass多重比較検定を用い、P<.05を有意としました。
結果
正常サイズMII群の細胞質直径は103.0〜119.0μm(中央値112.25μm)、大型卵子群は132.3〜175.9μm(中央値143.95μm)の範囲に分布し、120〜130μmの範囲に該当する卵子は1個も認められませんでした。この明確なギャップに基づき、細胞質直径≧130μmをGOと定義しました。254,337個の卵子のうち561個(0.22%)がGO基準に該当しました。紡錘体評価が可能であった47個のGOのうち、25個が1紡錘体(GO1)、22個が2紡錘体(GO2)を有していました。紡錘体径の正確な計測が可能であったのはGO1で6個、GO2で10個、MII群で16個でした。紡錘体赤道面径はGO1群18.0±3.3μm、GO2群11.7±2.2μm、MII群12.3±1.3μmであり、極間距離はGO1群19.1±2.2μm、GO2群14.5±3.2μm、MII群13.2±2.0μmでした。GO1群の赤道面径および極間距離はGO2群およびMII群と比較していずれも有意に大きい結果でした(P<.05)。GO2群とMII群の紡錘体サイズには有意差は認められませんでした。セントロメア数解析対象16個のうち、1紡錘体GO 11個ではセントロメア数中央値は86、2紡錘体GO 5個では各紡錘体内のセントロメア数中央値は42でした。すなわち、紡錘体数によらずGO全体として二倍体相当(約46×2)のセントロメアを有しており、GOには染色体倍数異常が存在することが示唆されました。
私見
Coticchioらが取りまとめたESHRE/ALPHAイスタンブール・コンセンサスのアップデート(The Working Group on the update of the ESHRE/ALPHA Istanbul Consensus, et al. Hum Reprod, 2025)です。本コンセンサスは2011年版の卵子・受精胚評価基準を時系列観察(time-lapse technology:TLT)データを統合して改訂したもので、卵子サイズに関する記載において、透明帯厚を考慮しない場合、細胞質直径<100μmの小型卵子および≧125μmの大型卵子はいずれも発生能が低い可能性があるとし(Bassil et al, Reprod Sci, 2021を引用)、明確に「giant oocyte(例:直径>180μm)は四倍体由来である可能性があるため、すべてのIVF/ICSI治療プログラムから除外することが推奨される」と記載しています。引用されているのはRosenbuschら(Hum Reprod, 2002)と本論文(Kitasakaら, Fertil Steril Sci, 2022)の2文献であり、本論文がGO除外推奨の国際基準形成に直接寄与したことが分かります。コンセンサス内のTable 2でも、giant oocyteは赤色カテゴリ(臨床使用不適)に分類されており、これは小型卵子・IVM救出卵子の黄色カテゴリ(慎重考慮)よりも厳格な扱いとなっています。また同コンセンサスは、Machtingerら(Fertil Steril, 2011)やLehnerら(Arch Gynecol Obstet, 2015)の報告を引いて「GOと同じ採卵周期で得られたサイズ正常な同胞卵子(sibling oocyte)の発生能は通常通り保たれる」とも記載しており、GO個別を除外しつつ周期全体を中止する必要はないという臨床判断の根拠を提供しています。さらにコンセンサスのRecommendation欄では、「小型・大型卵子およびIVM救出卵子の使用については、発生能低下の可能性があるため予後評価と追跡可能性確保の目的で記録すべき」とされており、本論文の≧130μm基準はこの記録運用の閾値設定に直接活用可能と考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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