
はじめに
卵子の極体形態評価は、生殖補助医療における重要な観察項目の一つです。通常、第一極体(PB1)は減数分裂における不等分裂により最小サイズで放出されますが、紡錘体形成や細胞極性化、不等分裂のいずれかに異常が生じると、大きなPB1が形成されることがあります。従来、過度に大きなPB1を有する卵子は受精率低下、胚質低下、胚盤胞形成率低下と関連するとされ、Istanbul consensus 2011では媒精を行うべきでないとされてきました。一方、近年ではPB1形態と妊娠率・着床率に明確な相関を認めないとする報告もあります。今回、80×40 µmという著明に大きなPB1を有する卵子から、ICSI後に胚盤胞を形成し凍結融解胚移植により生児を得たという稀有な症例報告をご紹介いたします。
ポイント
大きな第一極体を有する卵子からICSIにより胚盤胞が形成され、凍結融解胚移植で健康な生児が誕生した症例報告です。ISTANBUL consensus update 2025では、disproportionately large PBは異常な減数分裂紡錘体配置と関連する可能性があり「注意を要する」必要がありますが、臨床基準除外卵子には値しないとなっています。
引用文献
Liu Y, et al. Zygote. 2024 Apr;32(2):170-174. doi: 10.1017/S0967199424000054.
論文内容
生殖補助医療において稀に観察される、大きな第一極体(PB1)を有する卵子の臨床応用可能性を検討することを目的としています。著者らは、これまで報告のない極めて大きなPB1(80 µm × 40 µm)を有する卵子から、レスキューICSI(r-ICSI)、胚盤胞形成、凍結融解胚移植(FET)を経て生児を得た症例を報告しています。
症例は29歳女性、原発性不妊6年以上の既往があり、橋本病、BMI 28、月経周期37~45日、子宮卵管造影では卵管采癒着を認めました。胞状卵胞数は15、AMH 3.44 ng/mlで、核型は46,XXでした。夫の精液所見は精子濃度43.5×10⁶/ml、前進運動精子15.5%、正常形態精子2.5%で、軽度から中等度の男性不妊と判断されました。核型は46,XYでした。
2020年5月、GnRHアゴニスト(ジフェレリン3.75 mg筋注)によるロング法でhCG 10000 IUを投与し採卵を実施しました。
結果
採卵された卵子は6個でした。短時間媒精後、MII卵子3個のうち第二極体放出が認められたのは1個のみで、他の2個にはr-ICSIを施行しました。さらに未成熟卵子2個(GV期およびMI期)と、約80 µm長×40 µm幅の著明に大きなPB1を有し3つの球状部分に分裂した1個の卵子(Ebner分類でグレード4)が得られました。この大きなPB1を有する卵子にも、受精徴候(細胞質運動)が確認できず透明帯表面に精子が認められなかったためr-ICSIを施行しました。翌日、r-ICSIを施行した卵子のみで2前核が観察され、最終的にこの大きなPB1由来卵子のみがDay 5で胚盤胞(3BB)に発育しました。他の2胚はいずれもDay 3で発育停止しました。染色体分離異常の可能性を考慮しいったん周期はキャンセルされ、患者の同意を得て胚盤胞は凍結保存されました。
妊娠リスクを十分に説明したうえで、患者夫婦は経済的理由から本胚盤胞の移植を希望し、ホルモン調整周期によるFETを施行しました。移植後12日目の血清β-hCG 1019 IU/lで妊娠が確認され、5週(33日)に経腟超音波で臨床妊娠を確認しました。妊娠経過は順調で、妊娠37週5日に帝王切開で体重3100 g、身長48 cmの健康な男児が出生しました。周産期経過も問題なく、1年後のフォローアップで児の行動・精神発達も正常でした。夫婦は児の染色体核型および関連遺伝子変異検査を拒否しました。
私見
最新のISTANBUL consensus update 2025(Coticchio G, et al. Hum Reprod, 2025)では、PB1のfragmentationやlarge PBのみでは臨床使用の除外基準にはならないとされ、Day 2の胚発生にはやや影響するものの出生率への影響は確認されていないとされています。ただしdisproportionately large PBは異常な減数分裂紡錘体配置と関連する可能性があり「注意を要する」と位置づけられました。これは、2011年版の「過度に大きなPBを有する卵子には媒精を行うべきでない」という記載から、より柔軟な方向への変更といえます。
文献上、通常の第一極体径は20 µm以下を正常範囲とする報告が多く、20~30 µmで「large PB」と記録、30~40 µm超では明らかに異常、50 µm以上または卵子径の約1/3以上で「disproportionately large / very large」として慎重な扱いが望ましいと考えられます。本症例の80×40 µmは極端な例であり、本来であれば染色体異数性リスクが高いと推測されますが、結果的に正常発生に至ったことは興味深い点です。
機序的には、不適切な不等分裂、紡錘体形成異常、卵子核成熟と細胞質成熟の非同期性(Eichenlaub-Ritter U, et al. Hum Reprod, 1995)、TUBB8変異やMos、LRRK2、PATL2、RAB14、GM130などの母性効果遺伝子異常(Feng R, et al. N Engl J Med, 2016、Zhang YL, et al. Hum Reprod, 2022)が大きなPB1形成に関与すると考えられています。これらは染色体分離異常を介して異数性リスクを高める可能性が示唆されていますが、Verlinsky Y, et al. Reprod Biomed Online, 2003ではPB1形態と異数性の相関は認められていません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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