はじめに
Appellらは、20-37℃で精子の運動性と生存率が最も顕著に低下するのは、採取後3~6時間からであることを明らかにしています。どうしても院内採精を行えない場合は数多くあります。体外受精成績をとおして検証した報告をご紹介いたします。
ポイント
自宅での精液採取で処理時間を2時間まで延長しても、精子のパラメータや早期の体外受精/顕微授精の結果に悪影響を与えないことが示唆されました。
引用文献
Caitlin R Sacha, et al. J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02128-x.
論文内容
体外受精を受ける患者において、自宅採取による精液処理までの時間の増加が、精子のパラメータ、正常受精率、5日目の有効胚盤胞到達率、または妊娠率と関連するかどうかを評価することを目的としました。
COVID-19パンデミック以前に院内採精した群(n=119)とCOVID-19パンデミック後の自宅採精した群(n=125)にわけて体外受精成績を比較した後方視的コホート研究です。自宅採精後、精液処理は2時間以内に実施されました。患者の精子パラメータ、正常受精率(2PN/MII)、有効胚盤胞到達率(5日目の有効胚盤胞数/2PN)、新鮮移植周期における妊娠率を自宅採精群と院内採精群でt-検定により比較しました。処理までの時間と転帰との関連は、交絡因子を調整した回帰モデルで評価しました。
結果
男性平均年齢は、院内採精群37.9歳、自宅採精群37.2歳でした(p=0.380)。男性の平均禁欲期間は、院内採精群では3.0日(SD 1.7)、自宅採精群では4.1日(SD 5.4)でした(p=0.028)。精液処理までの平均時間は、院内採精群では35.7分(SD 9.4)、自宅採精群では82.6分(SD 33.8)でした(p<0.001)。精子のパラメータ(運動率、総運動精子数)、正常受精率、5日目の有効胚盤胞到達率、新鮮胚移植の妊娠率については、採取場所と処理時間の増加との間に関連はありませんでした。
私見
「自宅採精は2時間までは大丈夫」という論文です。精液所見がほぼ正常な患者が対象となります。
私の個人的な見解は以下の通りです。
① 精液所見の異常がなければ、2時間以内に持参できるなら自宅採精と院内採精はほぼ変わらない。
② 精液所見の異常がなければ、持参するのに3時間以上かかっても6時間未満なら凍結精子よりは当日の精子が好ましい。
③ 精液所見に異常がある場合はできる限り卵子の受精能への負担を減らすためにも院内採精もしくは自宅採精後早いタイミングでの持参が好ましい。
関連コラム
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。