体外受精

2021.11.05

黄体期卵巣刺激は先天異常を上昇しない(Fertil Steril. 2015)

はじめに

黄体期卵巣刺激は、がん・生殖の分野では2013年にCakmakらが論文投稿してからメジャーな刺激になりました。最近では卵巣予備能低下の女性に応用されています。従来の月経中からはじめる卵巣刺激と黄体期卵巣刺激の間で出産児に差がなかったという比較的大きい数での報告をご紹介いたします。 

ポイント

黄体期卵巣刺激、ショート法、マイルド刺激の3群間で、妊娠週数、出生時体重・身長、多胎分娩、早期新生児死亡、先天性疾患の発生率に統計的な差は認められませんでした。黄体期卵巣刺激は出生児予後に影響を与えない安全な卵巣刺激法と考えられます。 

引用文献

Hong Chen, et al. Fertil Steril. 2015. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2015.02.020 

論文内容

2013年1月1日から2014年5月1日に、黄体期卵巣刺激(n = 587)、ショート法(n = 1,257)、マイルド刺激(n = 1,216)後、ICSIを実施し出産に至った生児(n = 2,060名)を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。評価項目は妊娠週数、出生時体重と身長、多胎分娩、早期新生児死亡、先天性疾患とし、交絡因子を調整したロジスティック回帰を用いて検討しました。 

結果

2,060名の生児は黄体期卵巣刺激による生児587名(凍結融解胚移植 458回)、ショート法による生児1,257名(凍結融解胚移植984回)、マイルド刺激な卵巣刺激による生児216名(凍結融解胚移植 180回)でした。妊娠週数、出生時体重と身長、多胎分娩、早期新生児死亡は3群で同等でした。黄体期卵巣刺激(1.02%)とショート法(0.64%)の先天性疾患の発生率は、マイルド刺激(0.46%)よりもわずかに高くなりましたが統計的な差は認められませんでした。先天性疾患については、不妊期間(調整オッズ比 1.161 95%CI:1.009~1.335)および多胎妊娠(調整オッズ比 3.899 95%CI:1.179~12.896)でリスクが上昇しました。 
プロトコールは以下のとおりです。 

黄体期卵巣刺激 
hMG 225単位(AI併用) MPA10mg併用のPPOS法、トリガーはGnRHa 

ショート法 
hMG 150-225単位 トリガーはhCG5000単位 

マイルド刺激 
クロミッド+hMG隔日 150単位(AI併用 4日併用)、トリガーはGnRHa 

私見

私たちは月経周期1-3日目からの従来の卵巣刺激を主に行なっていますが、月経中に早期卵胞発育が始まっていたりする症例では、黄体期卵巣刺激も行うことがあります。 
月に2回行うdouble stimulationは、患者様のコスト負担の観点から現在のところ積極的に行っておりませんが、適応ある症例があれば検討していきたいと思っています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# PP(PPOS)

# 卵巣刺激

# 出生児予後

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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