プレコンセプションケア

2022.03.22

妊娠前の痩せ女性は生殖成績に影響する?(BMC Pregnancy Childbirth. 2021)

はじめに

妊娠前の体格と妊娠予後について、肥満に関しては話題にあがりますが、痩せ女性に対しては中々議論される機会が少ないような気がします。 
産婦人科診療ガイドライン2023では、日本肥満学会とWHO基準から妊娠前BMI 18.5未満を「やせ」と定義しています。国内の報告(97,157名:Enomoto K, et al. PLos One. 2016)では、「やせ」の場合、「標準体重:BMI 18.5-25」に対してSGA児(OR, 1.66)、早産(OR, 1.24)のリスクが高く、帝王切除(OR, 0.86)のリスクが低くなりました。 
海外の報告でも、「やせ」女性は低出生体重児分娩や胎児発育不全、切迫早産や早産、貧血リスクが高いことが指摘されています。では、体外受精の結果はどうでしょうか。 
凍結融解胚移植において「やせ」女性が妊娠および周産期予後に及ぼす影響を評価した報告をご紹介いたします。 

ポイント

痩せ女性(BMI<18.5)では、凍結融解胚移植において着床率、臨床妊娠率、継続妊娠率の低下が認められました。体格改善が困難な場合でも、リスクを把握して妊活に関わることが重要です。

引用文献

Shengluan Tang, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2021.DOI: 10.1186/s12884-020-03509-3 

論文紹介

2009年1月から2018年12月までに、中国単一生殖医療施設で実施された8,755回の凍結融解胚移植周期を対象としたレトロスペクティブ解析です。体重は初診時に測定し、移植時期との期間は6.05±5.21ヶ月と大きなずれはありませんでした。BMI<18.5、18.5-24.9、25≦を基準に定義した低体重、標準体重、過体重の女性において妊娠および周産期予後を評価しました。 

結果

低体重女性は標準体重女性と比較して着床率の低下(33.56% vs. 37.26%)、臨床妊娠率の低下(48.14% vs. 53.85%)、継続妊娠率の低下(43.04% vs. 50.47%)と関連していました。流産率は、過体重の女性と比較して、標準体重女性で著しく減少しました(10.73% vs. 13.37%)。周産期予後は全群でほぼ同等でしたが、過体重女性で少しネガティブな周産期結果となりました。VLBW(1500g未満)(標準体重:0.58% vs. 過体重:2.03%)、超SGA児(3パーセントタイル以下、標準体重:1.31% vs. 過体重:3.55%)、32週未満の早産率(標準体重:0.82% vs. 過体重:2.03%) 

私見

「やせ」女性では凍結融解胚移植の着床率の低下、臨床妊娠率の低下、継続妊娠率の低下と関連することがわかりました。体格は国々によって異なりますが、中国からの報告ですので日本でも同じような傾向にあるのではないかと思っています。 
低体重の女性における低い着床率は、主に脂肪組織で産生されるホルモンであるレプチンレベルの低さと指摘する意見もあります。レプチン受容体は着床時期の子宮内膜に存在することが知られており、潜在的に子宮血管新生と着床を調節していると考えられていますが、現在のところ臨床的な測定検査や治療法が確立しているわけではありません。 
ヒトの体格は体質的な要素も大きく、生活指導を行なっても改善できないことも少なくありません。リスクを把握して妊活に関わることが大事だと考えています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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