男性不妊

2022.05.19

SSRIと男性不妊( Int J Urol. 2020)

はじめに

抗うつ薬の男性での影響として、性欲減退、勃起障害、射精遅延、無射精などの性機能障害があることはよく知られていますが、精液所見にどのような影響を与えるかは不明な点が多くあります。
よく使用されているSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)の男性不妊との関連をご紹介させていただきます。

ポイント

SSRIは性機能障害に加え、精子DNA断片化の増加、精子濃度・運動率・正常形態率の低下と関連する可能性があります。ただし治療継続が最優先であり、変更は主治医との相談が必要かと思います。

引用文献

Lauren A Beeder, et al. Int J Urol. 2020. DOI: 10.1111/iju.14111.

論文内容

SSRIは、うつ病や不安障害の治療の第一選択薬とされています。
国内でよく耳にするのはパロキセチン塩酸塩水和物(パキシル®)、セルトラリン塩酸塩(ジェイゾロフト®)、フルボキサミンマレイン酸塩(デプロメール®、ルボックス®)、エスシタロプラムシュウ酸塩(レクサプロ®)でしょうか。
性欲減退、勃起障害、射精遅延、無射精などの性機能障害が25〜73%の男性で経験するとされています。またIn vitro、動物およびヒトでの研究のすべてで、SSRI使用が精液の質の低下を示しています。

ヒトでの研究

2007年、TanrikutとSchlegelは、うつ病の診断でSSRIを服用していた2人の患者における乏精子症、運動障害、形態異常の症例について報告しました。その後、SSRI内服中は精液所見が悪く中断後に改善した症例が複数例報告されました。

①パロキセチン塩酸塩水和物(パキシル®)
(Tanrikut C, et al. Fertil. Steril. 2010)
Tanrikutらが行った前向き研究では、35人の健康男性ボランティア(平均年齢34歳、範囲19~58歳)において、精液パラメータおよびDNA断片化に対するパロキセチン塩酸塩水和物(パキシル®)の効果を調べました。試験参加者には、パキシルを5週間投与し、治療前と1ヶ月のウォッシュアウト期間後を比較検討しました。
精子DNA断片化の有意な増加と関連し、介入前14%から介入後30%に増加しました。精子DNA断片化率が30%以上の男性は、介入前10%でしたが介入後には50%に増加しました(OR: 9、95%CI: 2.3-38)。他の精液所見では差は認めませんでした。

②セルトラリン塩酸塩(ジェイゾロフト®)
(Akasheh G, et al. Urology 2014)
早漏患者60名を対象とした報告です。セルトラリン塩酸塩(ジェイゾロフト®)または非薬理学的行動療法で治療された群を比較しました。ジェイゾロフト群には、25 mg/日を1週間、その後50 mg/日を3ヶ月間投与しました。精子濃度および正常形態率ともに低下、DNA断片化(精子クロマチン分散法)は増加しました(31% vs. 16%)。

③エスシタロプラムシュウ酸塩(レクサプロ®)
(Koyuncu H, et al. Int. J. Impot. Res. 2011)
早漏患者25名を対象とした報告です。レクサプロ®を3ヶ月間内服した後、精子濃度(2640万/mL vs 6890万/mL)、運動率(23.4% vs 58.2%)および正常形態率(23.4% vs 58.2%)の減少を認めました。

④SSRI全般での研究
(Safarinejad MR. J. Urol. 2008)
SSRI服用者74名と健常者44名の精液所見および精子DNA断片化(精子クロマチン分散法)を比較した横断研究です。SSRI服用者は、精子数、運動率、正常形態率が有意に低く、精子DNA断片化率も高くなりました。抗うつ薬の使用期間(6-12ヵ月 vs. 1-2年)が長い方が悪影響を及ぼしていました。

私見

なにより、うつ症状が安定していることが大事です。
薬の急な中止や減量はうつ症状の悪化を招く恐れもあるため、心療内科・精神科の医師と相談の上、慎重に決定が必要です。自己判断での薬の中断は決して行わないでください。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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