治療予後・その他

2025.11.05

GLP-1受容体作動薬および他抗糖尿病薬の妊娠初期安全性(JAMA Intern Med. 2024)

はじめに

2型糖尿病は生殖年齢女性において増加傾向にある疾患で、妊娠中の抗糖尿病薬使用も増加しています。従来、妊娠を計画している、または妊娠中の2型糖尿病患者に対するガイドライン推奨治療はインスリンでしたが、これはノンインスリン系抗糖尿病薬の胎児発育への安全性データが限られていたためです。しかし、意図しない妊娠曝露により、第一三半期中の二次選択ノンインスリン系抗糖尿病薬への曝露も時間とともに増加しています。本研究では、北欧4カ国、米国、イスラエルの大規模人口ベース医療データベースを用いて、妊娠初期のGLP-1受容体作動薬をはじめとする二次選択ノンインスリン系抗糖尿病薬の催奇形性リスクを評価しました。国内での適応外使用をサポートするものではないことをご理解ください。

ポイント

GLP-1受容体作動薬や他ノンインスリン抗糖尿病薬の妊娠初期使用は、インスリンと比較して主要先天奇形のリスク増加は今回の報告では認められませんでした。

引用文献

Carolyn E Cesta, et al. JAMA Intern Med. 2024 Feb 1;184(2):144-152. doi: 10.1001/jamainternmed.2023.6663.

論文内容

妊娠初期におけるGLP-1受容体作動薬や他ノンインスリン系抗糖尿病薬の使用が主要先天奇形(MCM)リスク増加と関連するかを評価した観察的人口ベースコホート研究です。北欧4カ国(2009-2020年)、米国MarketScanデータベース(2012-2021年)、イスラエルMaccabi Health Servicesデータベース(2009-2020年)のデータを使用し、2型糖尿病を有する妊婦とその生児を出生後最大1年間追跡しました。妊娠初期曝露(periconceptional exposure)は、妊娠90日前から第一三半期終了までの期間における、スルホニル尿素薬、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬、GLP-1受容体作動薬、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬、またはインスリン(対照群)の1回以上の処方と定義されました。論文では「妊娠初期曝露(periconceptional exposure)」を妊娠90日前から第一三半期終了まで(妊娠90日前から妊娠12週まで)の期間における1回以上の処方薬服用と定義しています。

結果

3,514,865妊娠のうち、51,826名(1.5%)が妊娠前2型糖尿病を有し、そのうち15,148名(29.2%)が妊娠初期に抗糖尿病薬治療を受けていました(北欧9,693名、米国4,778名、イスラエル677名)。ノンインスリン系抗糖尿病薬の妊娠初期使用は時間とともに増加し、特に米国でのGLP-1受容体作動薬使用の増加が顕著でした。
MCM(主要先天奇形)の標準化有病率は、全乳児で3.7%(n=3,514,865)、2型糖尿病女性から生まれた乳児で5.3%(n=51,826)でした。薬剤別のMCM有病率は、インスリン7.8%(n=5,078)と比較して、スルホニル尿素薬9.7%(n=1,362)、DPP-4阻害薬6.1%(n=687)、GLP-1受容体作動薬8.3%(n=938)、SGLT2阻害薬7.0%(n=335)でした。心奇形の有病率は、一般妊娠コホートの1.31%と比較して2型糖尿病女性では2.25%と高く、各薬剤群では、インスリン4.2%、スルホニル尿素薬4.8%、DPP-4阻害薬3.3%、GLP-1受容体作動薬3.2%、SGLT2阻害薬3.9%でした。
インスリンと比較したMCMの調整後相対リスクは、スルホニル尿素薬1.18(95%CI、0.94-1.48)、DPP-4阻害薬0.83(95%CI、0.64-1.06)、GLP-1受容体作動薬0.95(95%CI、0.72-1.26)、SGLT2阻害薬0.98(95%CI、0.65-1.46)でした。心奇形においても、インスリンと比較した調整後相対リスクは、スルホニル尿素薬1.05(95%CI、0.75-1.48)、DPP-4阻害薬0.90(95%CI、0.58-1.39)、GLP-1受容体作動薬0.68(95%CI、0.42-1.12)、SGLT2阻害薬1.10(95%CI、0.63-1.92)といずれも有意な増加は認められませんでした。

私見

この大規模多国間研究は、GLP-1受容体作動薬(マンジャロなど)をはじめとする新しい抗糖尿病薬の妊娠初期安全性に関する初めての包括的検討として重要な意義を持ちます。従来の動物実験では、GLP-1受容体作動薬の高用量投与で胎児毒性が報告されていましたが(Gier B, et al. Diabetologia. 2018)、本研究では実臨床レベルでの催奇形性リスクは確認されませんでした。
症例数がまだ限定的で信頼区間が広い点が課題として挙げられますが、肥満・糖尿病は妊活におけるkey factorなので、今後も注視していく必要があると思っています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 糖尿病

# 妊娠糖尿病

# 影響する薬剤など

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

PGT-A後の産科・新生児転帰:システマティックレビュー&メタアナリシス(Hum Reprod. 2026)

2026.05.18

帝王切開における術後ケアの最適化:ERAS Society 2025年版ガイドライン(Part 3)(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.04.20

帝王切開における術中ケアの最適化:ERAS Society 2025年版ガイドライン(Part 2)(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.04.17

帝王切開における術前・周産期ケアの最適化:ERAS Society 2025年版ガイドライン(Part 1)(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.04.15

体外受精児や人工授精児と自然妊娠兄弟の出生時特性の比較(Fertil Steril. 2026)

2026.04.01

治療予後・その他の人気記事

非前置胎盤性癒着胎盤のリスク因子(Reprod Med Biol. 2024)

2024.07.29

35歳以上の高齢出産についての推奨事項(Am J Obstet Gynecol. 2022:その2)

2022.08.31

帝王切開既往と出産回数が子宮破裂リスクに与える影響(Am J Obstet Gynecol. 2025)

2026.01.06

2023.07.31

ノンメディカルな卵子凍結動画(日本産科婦人科学会)

2023.07.31

45歳以上女性の出産転帰(BMC Pregnancy Childbirth. 2025)

2025.05.20

2022.10.29

社会的卵子凍結は女性年齢とともに出産率は低下する(論文紹介)

2022.10.29

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

2024.03.14

2020.10.26

夫婦の体重(BMI)は妊娠しやすさ(不妊)に影響する?(Fertil Steril. 2020)

2020.10.26

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27