一般不妊

2020.07.15

なぜ子宮卵管造影でのヨード投与に過敏になるの?

はじめに

今回は、「なぜ子宮卵管造影でのヨード投与に過敏になるの?」について記載させていただきます。答えは、ヨードを日常的にとる日本人では、子宮卵管造影でのヨードを投与することにより胎児の甲状腺機能に影響を及ぼす可能性が否定できないからです。 

ポイント

新生児のヨード過剰症による一過性先天性甲状腺機能低下症のリスクを回避するため、日本人の子宮卵管造影におけるヨード造影剤使用には慎重な検討が必要である。 

引用文献

J Clin Endocrinol Metab 2013 DOI: 10.1210/jc.2013-1066 
Ultrasound Obstet Gynecol 2017 DOI: 10.1002/uog.15902 
Horm Res Paediatr 2015 DOI: 10.1159/000439381 

まとめ

甲状腺ホルモンは胎児期、乳児早期の神経発達に必須のホルモンです。 
先天性甲状腺機能低下症は胎生期または周産期に生じた甲状腺の形態または機能異常による先天的な甲状腺ホルモン分泌不全であり、神経細胞の障害を引き起こし、重症な場合には精神運動発達の遅れを示します。早期発見、早期治療により予防できるものであるので、生まれたらすぐに検査を行います。 
不妊症領域でなぜ甲状腺機能に着目するかというと、永続的ではないですが一過性の甲状腺機能低下症を、お母さんの甲状腺疾患の治療や不妊検査の影響により起こすことがあるからです。一過性の先天性甲状腺機能低下症には①バセドー病の母親の服用した抗甲状腺剤の影響(出生後数日から2週後まで)、②母親からの阻害型抗体の移行(出生後3から6ヶ月まで)、③低出生体重児、④DUOX2、DUOXA2遺伝子異常、⑤ヨード過剰症(子宮卵管造影検査など)があります。 
①から④は避けられないものですが、⑤に関しては避けられうる可能性がありますので、以前から議論の的になっています。 
日本は世界有数のヨード消費地域であるわが国では、今まで多くのヨード過剰症が原因と考えられる一過性の先天性甲状腺機能低下症の報告が数多くあります。妊娠週数36週以前の胎児は、ヨードに暴露された状況でも甲状腺へのヨード摂取を抑制できず、また、腎臓からのヨード排泄率も低いため、胎児はヨード過剰の影響を受けやすいと考えられています。 
特に油性造影剤(油性造影剤はイオジン濃度480mg/ml、水溶性造影剤は240-300mg/ml)を用いた子宮卵管造影を受けた後に妊娠した女性全員が、一過性の先天性甲状腺機能低下症を発症することではなく、そのほかの遺伝因子や食生活などの後天的な要素が加わってなるのではないかとされています。現在まで国内では造影剤使用量が多い場合、新生児の甲状腺異常が指摘された報告、胎児期に甲状腺腫を認めた報告が散見されるので、その後の児への影響はなさそうとされていますが、注意をする必要があると考えています。 

私見

これらの知見を踏まえ、子宮卵管造影検査におけるヨード造影剤の使用については、日本人のヨード摂取状況を考慮した慎重な判断が求められます。特に妊娠を希望する女性に対しては、検査の必要性と潜在的リスクを十分に検討し、必要に応じて代替検査法の選択も考慮だと考えています。当院に関しては、子宮鏡下卵管通色素検査、超音波子宮卵管撮影検査(フェムビュー)ともにできる用意をしています。ただ、客観性の観点からは子宮卵管造影検査を第一選択と考えています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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