はじめに
子宮卵管造影(HSG)は不妊症の診断において卵管開通性を確認する標準的な検査法です。従来、油性造影剤が使用されていましたが、1970年代に画質改善、安全性向上、コスト削減の理由から水溶性造影剤に置き換えられました。近年、オランダのH2Oil studyにより油性造影剤使用後の妊娠率向上が報告され、注目を集めています。今回、同研究グループが実施した5年間の長期追跡調査結果をご紹介いたします。
ポイント
HSGにおける油性造影剤使用は水溶性造影剤と比較し、5年間の継続妊娠率と出生率を有意に向上させ、妊娠までの期間を短縮し、自然妊娠の確率を高める効果が持続することが示されました。
引用文献
2017年の6ヶ月以内の妊娠率の報告:
N Engl J Med. 2017 DOI: 10.1056/NEJMoa1612337.
今回の5年間の累積妊娠率の報告:
Fertil Steril. 2020 DOI 10.1016/j.fertnstert.2020.03.022.
論文内容
不妊女性のHSGにおける油性造影剤と水溶性造影剤の妊娠と出生率に対する5年後の効果を検討した多施設共同無作為化比較試験の5年間追跡研究です。対象は排卵周期を有する18-39歳の不妊女性で、卵管病変のリスクが低い1,119名が含まれました。油性造影剤群(n=557)と水溶性造影剤群(n=562)に無作為に割り付けられました。
結果
5年後、油性造影剤群では555名中444名(80.0%)、水溶性造影剤群では559名中419名(75.0%)が継続妊娠を達成しました(RR 1.07;95%CI 1.00-1.14; P=0.04)。出生については、油性造影剤群で555名中415名(74.8%)、水溶性造影剤群で559名中376名(67.3%)が出生を得ました(RR 1.11;95%CI 1.03-1.20; P=0.006)。油性造影剤群では228例(41.1%)が自然妊娠したのに対し、水溶性造影剤群では194例(34.7%)でした(RR 1.18;95%CI 1.02-1.38; P=0.03)。継続妊娠までの期間中央値は油性造影剤群で10.0カ月、水溶性造影剤群で13.7カ月と有意差を認めました(HR 1.25;95%CI 1.09-1.43; P=0.001)。流産、異所性妊娠、第二子妊娠については両群間で有意差は認められませんでした。
私見
この研究は、HSGの治療効果が6カ月を超えて長期間持続することを初めて実証した画期的な報告です。従来、HSGは単なる診断検査と位置づけられていましたが、本研究により「卵管フラッシング治療」としての新たな価値が確立されました。
先行研究では短期間(6カ月以内)の妊娠率向上は確認されていましたが、長期効果については十分な根拠がありませんでした(Mohiyiddeen L, et al. Cochrane Database Syst Rev, 2015; Fang F, et al. Fertil Steril, 2018)。本研究はそのエビデンスギャップを埋める重要な知見を提供しています。
油性造影剤の作用機序として、免疫学的効果(内膜・腹膜への影響)、機械的効果(卵管内デブリ除去)、抗菌作用などが推測されています(Izumi G, et al. J Immunol, 2017; Sawatari Y, et al. Fertil Steril, 1993)。油性造影剤の粘度や化学的性質が水溶性造影剤と異なることが治療効果の差につながっている可能性があります。
妊娠までの期間短縮(平均3.7カ月)は、特に高年齢での妊娠を希望する女性にとって臨床的に重要な意味を持ちます。また、自然妊娠率の向上はIVFの必要性を減少させ、医療経済的メリットも期待されます。
ただし、本研究の対象は39歳未満で卵管病変リスクが低い女性に限定されており、全ての不妊患者に適用できるわけではありません。また、油性造影剤使用時の甲状腺機能への影響についても慎重な検討が必要です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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