
はじめに
OCP/LEPは生殖年齢女性に広く使用されていますが、長期使用により卵巣予備能指標である抗ミュラー管ホルモン(AMH)や胞状卵胞数(AFC)が一過性に低下することが知られています。OCP/LEP中止後、卵巣抑制は通常3ヶ月程度で回復しますが、より長くかかることがあります。今回、12年間の長期EP剤使用後、6ヶ月の休薬期間を経ても卵巣予備能マーカーが著明に抑制されたままであったにもかかわらず、卵巣刺激中に予想外の過剰反応を示した症例をご紹介いたします。
こういう症例は一例でも事例を把握していた方が臨床の場では役立ちます。
ポイント
長期OCP/LEP使用後は6ヶ月の休薬期間を経ても卵巣予備能マーカーが著明に抑制される可能性があります。外因性ゴナドトロピン投与開始後に急速な卵巣抑制の解除と過剰反応が起こりうるリスクを認識しておく必要があります。
引用文献
Tsai S, et al. F S Rep. 2025;6:508-12. doi: 10.1016/j.xfre.2025.10.003.
論文内容
12年間の長期EP剤使用後、6ヶ月の休薬期間を経ても卵巣予備能マーカーが著明に抑制されたままであったにもかかわらず、卵巣刺激中に予想外の過剰反応を示した症例報告です。
33歳の未経妊女性が卵子凍結希望のため受診しました。患者は過去12年間、エトノゲストレル0.12mg/日とエチニルエストラジオール0.015mg/日を含有する腟リングを使用していました。
33歳の未経妊女性で、身長162.6cm、体重65.8kg、BMI 24.9kg/m²と正常体重でした。既往歴として橋本甲状腺炎があり、レボチロキシン50mcg内服中でした。月経周期は避妊薬使用前後ともに28-30日と規則的で、高アンドロゲン症などの臨床徴候は認めませんでした。遺伝学的検査では核型46,XX、FMR1遺伝子も正常範囲でした。
初診時のAFCとAMHはそれぞれ1と0.17ng/mLでした。EP腟リングの中止が推奨され、中止6ヶ月後の月経周期2/3日目の卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン、AMHはそれぞれ5.9IU/L、8.1IU/L、0.66ng/mLでした。
患者は最新の卵巣予備能検査から約4週間後に卵子凍結のための調節卵巣刺激を開始しました。前周期黄体期にエストロゲンプライミングを開始し、調節卵巣刺激開始時のAFCは9でした。調節卵巣刺激はrFSH 300IU/day+HMG 150IU/dayを用いたGnRHアンタゴニスト法で開始しました。
結果
調節卵巣刺激9日目にエストラジオール値が5,992.4pg/mLと予想外に強い反応が観察されました。その後2日間でゴナドトロピン投与量が減量され、ピーク時のエストラジオール値は7,817.3pg/mLに達しました。調節卵巣刺激中の総ゴナドトロピン投与量は4,125IUでした。調節卵巣刺激11日目にGnRHアゴニストトリガーを投与し、採卵された55個の卵子のうち50個の成熟卵子が凍結保存されました。長期EP剤使用中止11ヶ月後の再検査でAMHは22.4ng/mLでした。
私見
先行研究においても、長期OCP/LEP使用後、一定の休止期間を経ても卵巣予備能マーカーが低値がつづき、初回採卵を実施。その後、卵巣予備能マーカーが著明に回復したという報告があります。
Fox CW, et al. F S Rep. 2020;1:94-8.
Tsai S, Pereira N. BMJ Case Rep. 2025;18:e262693.
興味深いことに、長期ゴナドトロピン欠乏状態、例えばGnRHアゴニスト使用、妊娠、特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症などでは、AMH値の低下が認められますが、ゴナドトロピン曝露後にAFCとAMHマーカーが上昇することが報告されています(Tran et al., Fertil Steril, 2016; Tran et al., J Clin Endocrinol Metab, 2011)。
これらの知識があるのとないのとでは、同様の症例を見たときに治療計画の立て方が変わりますね。長期EP剤使用後一定の期間をへても卵巣予備能マーカーが低値の場合、まずは卵巣刺激をおこなってみて回復の有無を確認するというのが手法でしょうか。
今回の症例の稀有性は初回の卵巣刺激中に卵胞誘導が行った点です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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