体外受精

2023.09.28

調節卵巣刺激にレトロゾールを追加すると胚質は変わる?(Hum Reprod. 2023)

はじめに

レトロゾールはアロマターゼ阻害薬であり、血清エストラジオールを低下させるため、負のフィードバックを減少させ内因性ゴナドトロピンを増加させます。
調節卵巣刺激にレトロゾールを追加すると回収卵子数、胚質、出生率が変わるかどうか調査した報告です。 

ポイント

調節卵巣刺激にレトロゾールを追加しても、発育卵胞のリクルートメント、回収卵子数、胚質、出生率は変わりませんでした。 

引用文献

Nathalie Søderhamn Bülow, et al. Hum Reprod. 2023 Sep 12;dead182. doi: 10.1093/humrep/dead182. 

論文内容

rFSH 150IUを用いたGnRHアンタゴニスト法に5mgのレトロゾールまたはプラセボを投与する無作為二重盲検プラセボ対照試験(RCT)の二次成績となります。2016年8月から2018年11月にデンマークの大学病院4施設で実施され、凍結融解胚移植の妊娠転帰は2023年5月まで登録されました。
正常卵巣予備能(AMH 8~32nmol/l)が期待される女性1,509人を、レトロゾール併用群(n = 80)またはプラセボ群(n = 79)に無作為に割り付けました。回収卵子1,268個、386個の受精胚に発育し、形態学と形態動態学が評価されました。129個の受精胚が新鮮胚移植、158個の受精胚がその後の凍結融解胚移植として実施されました。累積臨床妊娠率、出生率、新鮮胚移植周期の子宮内膜厚、total FSH量に対するレトロゾールの影響を検討しました。 

結果: 

回収卵子における利用可能胚率は、レトロゾール併用群0.31 vs. プラセボ群0.36(平均差(MD)-0.05、95%CI(-0.12;0.03)、P = 0.65)と同程度でした。採卵時吸引対象の卵胞数は、レトロゾール併用群11.8個 vs. プラセボ10.3個(MD 1.5、95%CI(-0.5;3.1)、P = 0.50)、回収卵子数はレトロゾール併用群8.0個 vs. プラセボ群7.9個(MD 0.1、95%CI(-1.4;1.6)、P = 0.39)でした。トリガー日に13~16mmの発育卵胞から卵子が回収される確率は、プラセボ群でレトロゾール併用群より66%高く(95%CI(24%;108%)、P = 0.002)、トリガー日に17mm以上の卵胞から卵子が回収される確率は、レトロゾール併用群でプラセボ群より50%高い結果となりました(95%CI(2%;98%)、P = 0.04)。回収卵子あたり、または成熟卵あたり正常受精率は、IVFまたはICSIによる受精に関わらず、レトロゾール併用群とプラセボ群でそれぞれ0.48 vs. 0.57(MD -0.09、95%CI(-0.24;0.04)、P = 0.51)、0.62 vs. 0.64(MD -0.02、95%CI(-0.13;0.07)、P = 0.78)でした。しかし、顕微授精群のMII率はレトロゾール併用群0.75 vs. プラセボ群0.88(MD -0.14、95%CI(-0.22;-0.06)、P = 0.03)と有意に低くなりました。患者1人あたりの5日目胚盤胞は1.5 vs. 2.0、P = 0.52、5日目ガラス化胚盤胞は0.8 vs. 1.2(MD -0.4、95%CI(-1.0;0.2)、P = 0.52)、6日目ガラス化胚盤胞は0.6 vs. 0.6(MD 0、95%CI(-0.3;0.3)、P = 1.00)と同程度でした。利用胚の形態評価は、レトロゾール併用群とプラセボ群で「Good」、「Fair」、「Poor」の分布が同じであり、より良好なクラスの受精胚が発生するオッズ比0.8、95%CI(0.5;1.3)、P = 0.68でした。386個の受精胚のうち295個のタイムラプス評価(KIDscore™ D3)が高い割合はレトロゾール併用群でプラセボ群の1.2倍(CI(0.8;1.9)、P = 0.68)でした。移植あたりの臨床妊娠率は、レトロゾール併用群とプラセボ群でそれぞれ31% vs. 39%(リスク差8%、95%CI(-25%;11%)、P = 0.65)と同等であり、移植1回あたりの臨床妊娠率を移植日、トリガー時のエストラジオールおよびプロゲステロン値、黄体中期プロゲステロン値、回収卵子数で調整したaORは0.8(95%CI(0.4;1.6)、P = 0.72)でした。出生率は、レトロゾール併用群とプラセボ群でそれぞれ、移植あたり28% vs. 37%(MD -9%、95%CI(-26%;9%)、P = 0.60)と同等でした。さらに、最後の採卵から4.8年後、計386個中287個の受精胚が新鮮周期またはその後の凍結融解胚移植周期で移植され、累積臨床妊娠率が報告されましたが、これはレトロゾール併用群 vs. プラセボ群で38% vs. 34%(MD 95%CI(8%;16%)、P = 0.70)と同様でした。 

私見

同じ報告者らは以前にこの研究のホルモン動態を報告しています。
今回の報告を見る限りにおいて、特殊な理由がない限り、調節卵巣刺激に初回からレトロゾールを併用するメリットはなさそうですね。 

正常卵巣予備能女性の卵巣刺激にレトロゾールを併用すると?(Hum Reprod. 2021)
調節卵巣刺激(卵巣刺激)の注射製剤の選び方 (ESHRE guideline 2025年版アップデート)
ヨーロッパ生殖医学会の推奨する調節卵巣刺激?(ESHRE guideline 2025年版アップデート) 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# GnRHアンタゴニスト

# 卵巣刺激

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

採卵周期のゴナドトロピン種類とFET累積出生率(J Assist Reprod Genet. 2026)

2026.08.28

体重・BMI・体脂肪率はfollitropin alfa固定投与時の血清FSH動態・採卵成績との関連(日本受精着床学会雑誌 2025)

2026.08.27

ART周期におけるフォリトロピンデルタ・アルファ・hMGの有効性比較(Reprod Med Biol. 2026)

2026.08.24

高齢不妊女性のIVFにおけるGnRHアンタゴニスト法とPPOS法の比較(Front Endocrinol. 2026)

2026.08.04

PPOS vs. GnRHアンタゴニスト法 臨床アウトカムと単一細胞解析からの検証(Reprod Biomed Online. 2025)

2026.08.03

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

45歳以上の体外受精は生児を授かる治療としては「無益」・・・(Fertil Steril. 2022)

2022.06.24

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

腟潤滑ゼリーは妊娠率に影響する?

2022.01.24

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

妊娠できるカップルはほぼ6ヶ月以内に妊娠する。(論文紹介)

2021.11.11