
はじめに
高年齢(advanced reproductive age:ARA、35歳以上)女性におけるGnRHアンタゴニスト法とPPOS法の比較データは限られています。今回、初回IVF/ICSI周期を受けた35歳以上の不妊女性を対象に両プロトコルの生殖予後を比較した傾向スコアマッチング(PSM)解析をご紹介いたします。
ポイント
35歳以上のARA女性の凍結融解胚移植では、PPOS法と比較してGnRHアンタゴニスト法のほうが胚成績、臨床妊娠率、継続妊娠率、出生率が良好でした。
引用文献
Qi Z, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2026 May 14;17:1781506. doi: 10.3389/fendo.2026.1781506.
論文内容
GnRHアンタゴニスト法とPPOS法における生殖予後を、ARA(35歳以上)不妊女性で比較することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。2020年1月から2024年2月までに中国生殖医療施設で初回体外受精を受けた35歳以上の女性1588例を対象に、PCOS・子宮内膜症・性器腫瘍・卵巣手術歴・子宮形態異常、男性側の無精子症・奇形精子症・染色体異常、反復流産歴(3回以上)、2周期からの受精胚を移植した症例を除外しました。年齢・妊娠歴・分娩歴・BMI・AMH・AFC・basal FSH・basal LHを用いて1:1のPSMを実施し、最終的にGnRHアンタゴニスト群277例、PPOS群277例を解析しました。GnRHアンタゴニスト法ではr-hFSH-a 150–300 IU/日を月経2–4日目から開始し、主席卵胞径12mm以上でcetrorelix 0.25mg/日を併用、PPOS法ではMPA 4mg×2回/日とHMG 150–300 IU/日を月経2–4日目から併用しました。トリガー薬剤の種類や具体的なトリガー基準については論文中に明記されていません。両群とも全例freeze-all戦略を採用し、内膜調整は全症例でホルモン調整周期を用いました。移植胚は分割期胚(Day3、プロゲステロン変換から4日目に移植)または胚盤胞(Day5、プロゲステロン変換から6日目に移植)で、両群におけるDay3/Day5の内訳は記載されていません。主要評価項目は出生率(LBR)としました。
結果
PSM後の背景因子(年齢40.21 vs. 40.25歳、AMH 0.90 vs. 0.81 ng/mL、AFC 7.64 vs. 7.10など)に差は認められませんでした。周期データではGnRHアンタゴニスト群で総ゴナドトロピン投与量が有意に少なく(2573.29 vs. 3541.59 IU、P<0.001)、刺激期間はわずかに長く(9.00 vs. 8.53日、P=0.004)、トリガー日のLH(3.83 vs. 3.18 mIU/mL、P=0.002)、E2(1260.60 vs. 1102.33 pg/mL、P=0.038)、P(0.83 vs. 0.69 ng/mL、P<0.001)はいずれもGnRHアンタゴニスト群で高値でした。
採卵・胚成績ではGnRHアンタゴニスト群で採卵数(4.51 vs. 3.66、P<0.001)、2PN数(3.13 vs. 2.64、P=0.003)、Day3受精胚数(1.41 vs. 1.07、P<0.001)、Day5受精胚(胚盤胞)数(1.11 vs. 0.92、P=0.010)がいずれも有意に高い結果でした。
移植周期はGnRHアンタゴニスト群159周期に対し移植胚数227個(平均1.43個/周期)、PPOS群262周期に対し移植胚数388個(平均1.48個/周期)でした。GnRHアンタゴニスト群はPPOS群と比較してCPR(32.08% vs. 22.14%、OR 1.661、95% CI 1.067–2.586、P=0.024)、OPR(29.56% vs. 19.47%、OR 1.736、95% CI 1.098–2.744、P=0.018)、LBR(27.04% vs. 18.70%、OR 1.611、95% CI 1.009–2.573、P=0.045)がいずれも有意に高値でした。着床率はGnRHアンタゴニスト群でやや高い傾向(22.91% vs. 17.27%、P=0.066)でしたが有意差はなく、流産率(15.69% vs. 15.52%、P=0.981)、異所性妊娠率(0% vs. 1.91%、P=0.162)にも有意差はなく、両群ともOHSS発症例はありませんでした。多変量ロジスティック回帰分析では年齢、妊娠歴、分娩歴、BMI、AMH、AFCを調整後も治療プロトコルがLBRの独立因子であり、GnRHアンタゴニスト法はPPOS法に対して有意に高いLBRと関連していました(OR 6.085、95% CI 2.489–14.880、P<0.001)。
私見
GnRHアンタゴニスト法とPPOS法で成績差が出る可能性としてあげられる機序は以下のとおりです。
第一に、PPOS法では外因性プロゲスチンによる視床下部下垂体軸の持続的抑制と卵胞後期の高プロゲステロン環境が、顆粒膜細胞機能と卵子最終成熟に負の影響を及ぼし胚質が低下する可能性があること(Lawrenz B, et al. Fertil Steril. 2018/Racca A, et al. Hum Reprod. 2018)。
第二に、Handa M, et al. Reprod Biomed Online. 2025ではPPOS群でミトコンドリアDNA遺伝子発現の上昇があり胚質または内膜受容能への影響が示唆されていること。
第三に、ARA女性では下垂体機能の回復力や基礎黄体機能自体が低下しており、PPOSによる持続的下垂体抑制の影響を受けやすい可能性(Lu M, et al. Cell Prolif. 2025/Pathare ADS, et al. Hum Reprod Update. 2023)。
先行研究との対比は以下のとおりです。
- GnRHアンタゴニスト優位を支持:
Pai AH, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2023(高齢患者でPPOSは正倍数性率が低下)
Chen H, et al. Fertil Steril. 2022(AFC≤5かつ高年齢ではGnRHアンタゴニスト法のほうがLBRが高い傾向)
Handa M, et al. Reprod Biomed Online. 2025(PPOSは良好分割期胚率とLBRが低く、ミトコンドリアDNA遺伝子発現の異常を示唆)。 - 両者同等とする報告:
Yang C, et al. J Ovarian Res. 2025、Tohma YA, et al. Arch Gynecol Obstet. 2025、Le TK, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2025、Zhou R, et al. Front Endocrinol. 2023、Li Z, et al. Front Endocrinol. 2022(若年・低AMH女性で累積LBR同等)
Li J, et al. Reprod Health. 2023(腹腔鏡下子宮内膜症囊胞核出後でCPR・累積LBRに有意差なし)。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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