体外受精

2026.08.24

ART周期におけるフォリトロピンデルタ・アルファ・hMGの有効性比較(Reprod Med Biol. 2026)

はじめに

調節卵巣刺激(COS)はFSH製剤がその中心を担います。1950年代に閉経後女性尿由来のhMG(FSH:LH比 約1:0.33)が用いられ、その後LH混入の少ない尿由来FSH、さらに1990年代にはCHO細胞由来のリコンビナントFSH(follitropin alfa/beta)が登場しました。最近ではヒト細胞株(PER.C6)由来のfollitropin deltaが開発されました。国内生殖医療施設における実臨床での比較論文をご紹介いたします。

ポイント

3製剤間で採卵数の差は小さく統計学的に一貫せず、recombinant製剤は胚盤胞数が多く卵巣腫大≥5cmが少ない傾向ですが、臨床的優越性や安全性の優位は示されませんでした。

引用文献

Noritoshi Enatsu, et al. Reprod Med Biol. 2026;25(1):e70060. doi: 10.1002/rmb2.70060.

論文内容

follitropin delta、follitropin alpha、hMGで刺激したART周期の臨床成績を、傾向スコアマッチング(PSM)を用いて比較した単施設後ろ向きコホート研究です。2021~2024年の20,809周期を解析し、45歳以上・ART既往5回以上・卵子提供・卵子凍結・精巣内精子使用・主要データ欠損などを除外しました。単剤を5日以上使用した周期を対象とし、alpha 4,800・delta 2,557・hMG 3,640周期(計10,997周期)から、傾向スコア(年齢・体重・AMH・AFC・ART既往回数・刺激プロトコル[PPOS/アンタゴニスト/アゴニスト]・トリガー法[GnRHアゴニスト/hCG・dual]を共変量とするペアワイズ多変量ロジスティック回帰で推定)を用いて、1対1 nearest-neighbor matching(復元なし、caliper幅は傾向スコアロジットのSDの0.2)を実施しました。

マッチング前は群間に偏りがあり、最大標準化平均差(Max SMD)でみると年齢(36.5/35.7/37.3歳、0.37)、AFC(8.7/9.0/7.8、0.21)、ART既往回数(2.1/1.9/2.2、0.20)、PPOS法率(36.1%/51.9%/34.9%、0.45)、GnRHアゴニストトリガー(82.2%/85.9%/64.9%、0.50)など、特に刺激プロトコルとトリガー法でdelta群・hMG群の偏りが顕著でした。deltaを起点にまずalphaへ、次いでhMGへ順次マッチさせ、両比較で成立したdelta症例とその対応症例のみを残して各群2,549周期(計7,647周期)を構築した結果、全共変量でMax SMD<0.05(年齢0.04、AMH 0.03、AFC 0.04、PPOS 0.02、各トリガー0.01)と良好なバランスが得られ、C統計量は0.62~0.73、傾向スコア分布も十分重なりました。主要アウトカムは採卵数、副次アウトカムは卵巣腫大≥5cm、胚盤胞数、臨床妊娠率です。胚移植は凍結融解単一胚盤胞移植のみを対象とし、統計的有意はp<0.01または99%CIが1.0を含まない場合と定義、多重比較にはFDR(Benjamini–Hochberg)を適用、感度分析としてcluster-robust回帰とIPWを実施しました。

結果

主要アウトカムの採卵数は解析手法間で統計学的に一定せず、差は臨床的にわずかでした。PSM解析ではalpha(8.8±6.7)がdelta(8.0±5.5)およびhMG(8.3±5.9)より有意に多いものの効果量は極小(Cohen’s d=0.13、0.07)で、IPW解析(alpha vs. delta:IRR 1.05、99%CI 0.98–1.12、p=0.07)では有意差が確認されませんでした。
総ゴナドトロピン量はalpha(1870±1070 IU)がhMG(2310±1340 IU)より有意に少なく(p<0.01、d=0.36)、刺激後血清FSHもhMG(18.8±5.2 mIU/mL)がalpha(15.4±6.2、p<0.01、d=0.61)・delta(15.6±6.9、p<0.01、d=0.55)より高値でした。卵巣腫大≥5cmはalpha 37.4%・delta 35.3%・hMG 45.0%で、両recombinant群がhMGより低頻度でした(alpha vs. hMG:RR 0.83、99%CI 0.76–0.91/delta vs. hMG:RR 0.78、99%CI 0.72–0.86)。胚盤胞数は両recombinant群(alpha 3.3±3.2、delta 3.1±2.9)がhMG(2.7±2.6)より有意に多く(p<0.01、q<0.01)、良好胚盤胞数もalpha 1.2±1.6・delta 1.2±1.5がhMG 0.8±1.3より高値でした(p<0.01)。臨床妊娠率はalpha 45.9%・delta 43.1%・hMG 46.8%で3群間に有意差なく(alpha vs. delta:RR 1.07、99%CI 0.97–1.17など)、自然流産率・継続妊娠/出生率も同等でした。

私見

recombinant FSH(alpha/delta)はhMGより胚盤胞数が多く卵巣腫大≥5cmが少ない一方、採卵数と妊娠成績に明確な差はありませんでした。卵巣反応の差は過去の総説(Velthuis E, et al. Adv Ther. 2020;Komiya S, et al. Reprod Med Biol. 2024)と方向性が一致します。

胚質については報告が分かれます。recombinant優位とするChapon RCB, et al. JBRA Assist Reprod. 2021(アンタゴニスト下RCT)やWitz CA, et al. Fertil Steril. 2020(high responder ICSIのRCT)がある一方、差なしとするNg EHY, et al. Hum Reprod. 2001、Rashidi BH, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2005(いずれもRCT)もあり、低LH例ではLH活性追加が有益との指摘(Orvieto R. Reprod Biomed Online. 2019)もあります。

これらの結果をみても基本はrecombinant FSHを優先。低LH例やrecombinant FSH反応不良例のみHMGを検討というのがプランとしてよいのかもしれません。
recombinant FSH(alpha/delta)は好みでしょうか。患者様によって反応が違う人はいらっしゃいますが、事前には判断つかないのが現状です。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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