
はじめに
PPOS(progestin-primed ovarian stimulation)は2015年のKuangらの報告以降、経口プロゲスチンによりLHサージを抑制する簡便な卵巣刺激法として国際的に普及してきました。しかしGnRHアンタゴニスト法との比較では同等とする報告と劣性とする報告が混在し、結論は得られていません。さらに臨床アウトカム単独では卵子レベルの真の影響を捉えにくい課題があります。今回、IPTW(傾向スコア重み付け)を用いた大規模後方視的解析に加え、MII卵胞由来の壁顆粒膜細胞(mGC)に対する単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq)を組み合わせ、PPOSの生殖アウトカムへの影響を多角的に検証した日本からの報告をご紹介いたします。
ポイント
PPOSは早発LHサージを抑制する一方、GnRHアンタゴニスト法と比較して良好分割胚率と出生率が低下し、mGCではmtDNA遺伝子発現の軽度上昇が観察されました。
引用文献
Mika Handa, et al. Reprod Biomed Online. 2025;51(2):104833. doi: 10.1016/j.rbmo.2025.104833.
論文内容
PPOSがGnRHアンタゴニスト法と比較して生殖アウトカムに悪影響を及ぼすかを検討することを目的とした後方視的コホート研究です。2018年から2020年に初回IVF周期を受けた40歳未満かつ卵巣予備能が正常な907例(PPOS群299例、GnRHアンタゴニスト群608例)を対象とし、IPTWで交絡調整を行いました。
第1解析の主要評価項目は早発LHサージ率、第2解析は初回凍結融解胚移植周期の出生率です。
さらに2021年から2022年の16例(各群8例)から採卵時にMII卵胞のmGCを採取しscRNA-seq解析を実施しました。
PPOSにはクロルマジノン酢酸エステル(CMA)2 mg/日(血清LH≧5 mIU/mLで増量、最大6 mg/日)、GnRHアンタゴニスト法ではcetrorelix 0.25 mg/mLを隔日投与しました。
結果
第1 IPTW解析において、早発LHサージ率はPPOS群で有意に低く(3.1% vs. 20.1%、OR 0.13、95% CI 0.07–0.23、P<0.001、E-value 14.9)、採卵前排卵もPPOS群で有意に低値でした(0% vs. 0.5%、P<0.001)。採卵数、卵子成熟率、受精率に有意差はなく、良好分割胚率はPPOS群で有意に低下しました(37.2% vs. 49.1%、P<0.001)が、良好胚盤胞率に差はありませんでした(72.0% vs. 69.6%、P=0.09)。
第2 IPTW解析では、移植胚の良好胚率が同等であったにもかかわらず、出生率はPPOS群で有意に低下しました(31.5% vs. 42.3%、OR 0.63、95% CI 0.46–0.86、P=0.004、E-value 2.55)。生化学的妊娠率(OR 0.66、P=0.009)、継続妊娠率(OR 0.65、P=0.007)、着床率(43.4% vs. 51.9%、P=0.02)もPPOS群で低値でした。初期流産率、多胎妊娠率、周産期アウトカム(帝王切開、早産、低出生体重、先天奇形)に有意差はありませんでした。
scRNA-seq解析では、QC後にPPOS群1197細胞、GnRHアンタゴニスト群1027細胞のmGCが解析対象となり、クラスター分布は同等でしたが、補正p値で並べた上位20の差次的発現遺伝子のうち12がmtDNA由来でいずれもPPOS群で発現高値でした。RT-qPCRではMT-ND5(約1.25倍、P=0.003)、MT-CYB(約1.4倍、P<0.001)、MT-ND4(約1.3倍、P<0.001)、MT-ND2(約1.15倍、P=0.003)の上昇が確認されました。
私見
第一解析の早発LHサージについてですが、GnRHアンタゴニスト隔日投与プロトコルは一般的プロトコルと異なるため、比較的高い値をしめしたのかもしれません。
第二解析の初回凍結融解胚移植周期の出生率についてですが、生殖医療成績先行報告では同等とする立場(Chen ZQ, et al. Fertil Steril. 2024、Giles J, et al. Fertil Steril. 2021、Ata B, et al. Hum Reprod Update. 2021)と劣性とする立場(Beguería R, et al. Hum Reprod. 2019、Chen H, et al. Fertil Steril. 2022、Zhou R, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2023)が並立しており、本研究は後者の流れに位置づけられます。ここはIPTWを行っっているとはいえ、判断が難しいところですね。質が高い研究結果が待たれるところです。
scRNA-seq結果ですが、「上位20DEG」は補正p値順での選択であり、fold-change閾値は不明です。RT-qPCRバリデーションの実測倍率は1.15〜1.4倍と効果量が小さくなっています。12遺伝子が同方向に動いた事実はsystematic shiftを支持するものの、これを「卵子質低下の機序」と因果的に位置づけるには不十分と考えます。
本研究のGnRHアンタゴニスト隔日投与プロトコルは一般的プロトコルとこなるため、早発LHサージ率20.1%という比較的高い値をしめしたのかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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