
はじめに
採卵周期で卵巣刺激(ゴナドトロピン投与)を行って受精胚を作り、それを凍結保存し、後で融解して移植するのが凍結融解胚移植FETで、起点となる採卵周期をindex fresh cycleと定義します。index fresh cycleで使用したゴナドトロピンの種類が後続のFET予後に及ぼす影響を扱ったデータは限られています。本研究はrFSH単独 vs 混合プロトコル、およびLH供給源別(rLH か hCG)にFET累積出生率を比較したレトロスペクティブ解析です。
ポイント
ゴナドトロピンの種類自体はFET予後に影響しないが、混合プロトコル内ではrLH使用群がhCG群よりFET累積出生率が低い可能性があります。
引用文献
Balla L, et al. J Assist Reprod Genet. 2026. doi: 10.1007/s10815-026-03904-3.
論文内容
index fresh cycle(凍結胚を作ったおおもとの採卵・新鮮周期)で使用したGnの種類が、その後のFET予後に与える影響を検討することを目的としたレトロスペクティブ解析です。FETの累積成績はFET予後に大きく依存する一方、index周期のLH活性供給源が後続のFET予後に影響しうるとの仮説のもと、使用Gn別にFET累積出生率(cLBR)を比較しました。単一施設で2020~2023年に2名の医師が施行した972人・1,312周期のFETを対象とし、index fresh cycleで使用したGn別にrFSH単独(n=775)、hpHMG±rFSH(n=306)、rFSH/rLH(2:1比、n=232)に分類しました。卵管留水症や子宮腔異常の症例は除外しています。まずrFSH単独群 vs 混合プロトコル群(全周期)を比較し、次に混合プロトコル内でLH供給源(rLH vs hCG)を比較しました。解析にはGLM、線形混合効果モデル、多項回帰を用いています。
結果
FET-cLBRはrFSH単独群が混合プロトコル群より有意に高値でした(45.8% vs 27.6%、p<0.001)。しかし交絡因子を調整した多変量解析では、index fresh cycleで使用したGnの種類はFET-cLBRと関連しませんでした(OR, 0.86; 95% CI, 0.69–1.08; p=0.91)。同モデルでは年齢(OR, 0.94; 95% CI, 0.90–0.97; p<0.001)、周期数(OR, 0.90; 95% CI, 0.82–0.98; p=0.03)、凍結受精胚数(OR, 1.25; 95% CI, 1.12–1.39; p<0.001)、移植日(OR, 1.67; 95% CI, 1.26–2.25; p<0.001)、良好胚を1個以上移植したこと(OR, 2.47; 95% CI, 1.73–3.58; p<0.001)がFET-cLBRと関連しました。
混合プロトコル同士の比較では、rLH群がhCG群よりFET-cLBRが有意に低く(22.3% vs 31.3%、p=0.04)、年齢・AMH・採卵数・FSH総量・凍結胚数などを調整した回帰分析後も、rLHの使用はhCGに対して45%のFET-cLBR低下と関連しました(OR, 0.55; 95% CI, 0.34–0.87; p=0.01)。 結論として、Gnの種類自体は全体としてFET予後に影響しないものの、混合プロトコルにおけるLH活性の供給源(特にrLH)がFET成績に負の影響を与える可能性が示唆されました。
私見
前の周期のゴナドトロピンの種類が胚質に影響するかどうかは凍結融解胚移植でも議論が分かれます。
- 否定派(影響なし):Al-Inany H, van Gelder P. Int J Womens Health. 2010/Al-Inany HG, van Gelder P. Reprod Biomed Online. 2010。いずれもFET予後がGn種類で差を示さなかったシステマティックレビューです。
- 肯定派(混合/hpHMGが有利):MEGASET-HR試験(Robins JC, et al. F S Rep. 2020)。hyper-responderを対象にhpHMGがrFSHより初期流産が低くFET出生率が高い傾向を示しました。ただし全例にPGT-Aを実施しており、通常診療とは前提が異なります。
本研究で注目すべきはLH供給源の差です。論文が想定する機序は、内膜ではなく卵胞・卵子から胚質へとつながる一続きの経路です。すなわち、hCGは半減期が長くステロイド産生を増強し顆粒膜細胞にアポトーシス促進的に働く一方、rLHは増殖・抗アポトーシス的に作用し、さらに両者は受容体結合後の経路が異なり遺伝子発現プロファイルも変えうるとされます(Smitz J, Platteau P. Reprod Biol Endocrinol. 2020/Casarini L, et al. Mol Cell Endocrinol. 2016)。加えてhMG使用が低い異数性率と関連しうるとのレビュー(Bellver J, et al. Reprod Biomed Online. 2026)もあります。これらが凍結胚の生存性・胚質に影響し、結果としてFET予後に波及した可能性が論じられています。整理すると、「LH供給源の違い → 顆粒膜細胞環境・卵子の成熟環境の差(卵胞レベル)→ 受精胚の質・異数性・凍結耐性の差(胚質レベル)→ FET予後」という上流から下流への流れであり、卵胞レベルは胚質レベルの上流に位置づけられます。
ESHREの卵巣刺激ガイドラインでもそうですが、大きなマスでみると差はなさそう。ただ、症例によって向き不向きがある可能性は否定できないというのが現在まで言えることかと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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