体外受精

2026.03.02

EFS予防におけるGnRHaトリガー後ホルモン測定の有用性(J Assist Reprod Genet. 2025)

はじめに

Empty Follicle Syndrome(EFS)は、明らかな卵胞発育が認められるにもかかわらず卵子が回収できない稀な事象で、患者に大きな精神的・経済的負担をもたらします。EFSを予防するため、一部の施設ではGnRHアゴニストトリガー後12時間で血清ホルモン値を測定していますが、この検査の必要性については議論があります。GnRHアゴニストトリガー後の定期的なホルモン測定を中止することがEFS発生率および胚発生に影響するかを検証しました。

ポイント

GnRHアゴニストトリガー後の定期的ホルモン測定の中止はEFS発生率を増加させず、胚発生も同等であり、多くの症例で定期的検査は不要で選択的に検討することが妥当そうです。

引用文献

Kloosterman R, et al. J Assist Reprod Genet. 2025. doi: 10.1007/s10815-025-03776-z.

論文内容

カナダ単一施設における2020年5月から2024年5月までの3834の調節卵巣刺激周期を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。GnRHアゴニストトリガー後の定期的ホルモン測定を行っていた期間I(2020年5月~2022年5月、1964周期)と、測定を中止した期間II(2022年5月~2024年5月、1870周期)に分けて比較しました。主要評価項目はEFSの発生率で、正常な卵胞発育が確認されているにもかかわらず卵子が回収できなかった周期と定義しました。副次評価項目には回収卵子数、成熟卵子数、受精率、臨床使用可能受精胚数を含めました。
期間Iでは、439周期でトリガー12時間後にLHとP4を測定していました(複数測定を含む)。期間IIでは、39周期(7.5%)で医師の裁量により選択的に測定を実施しました。なお、hCGトリガーおよびdual triggerでは両期間とも定期的測定は実施していませんでした。
期間Iにおける介入基準は、トリガー12時間後のLH < 15 IU/LかつP4 < 5 nmol/L(1.6 ng/mL)の両方を満たす場合に、hCGによる再トリガーと採卵延期を行うというプロトコルでした。期間IIでは明確な介入基準は設定せず、医師の個別判断に委ねられました。

結果

EFSの全体発生率は期間I(ホルモン測定あり)で0.87%(17例)、期間II(測定なし)で1.07%(20例)と有意差はありませんでした(p=0.06)。GnRHアゴニストトリガー周期のみに限定すると、期間Iで0.74%(3/404周期)、期間IIで0.96%(5/522周期)と同様に有意差を認めませんでした(p=0.53)。
年齢、トリガー薬剤種類、刺激プロトコル、不妊診断で調整した多変量ロジスティック回帰分析では、期間IIにおけるEFS発生のOR 1.26(95%CI、0.63~2.53;p=0.52)と有意差はありませんでした。GnRHアゴニストトリガー周期のサブグループでも、完全調整後のOR 1.08(95%CI、0.20~5.81;p=0.93)と有意差を認めませんでした。
トリガー薬剤別のEFS発生分布は、期間Iでは主にhCG単独トリガー後(76.5%、13/17例)でしたが、期間IIではhCG単独(40.0%、8/20例)、dual trigger(35.0%、7/20例)、GnRHアゴニスト単独(25.0%、5/20例)とより均等に分布していました。これは期間IIでdual trigger使用が大幅に増加(8.3%→35.4%)したことを反映しています。
トリガー日のLH値は期間Iで3.2±2.7 IU/L、期間IIで3.2±2.3 IU/L(p=0.98)と同等でした。GnRHアゴニストトリガー後のLH値は、期間Iで59.5±29.7 IU/L、期間IIで52.1±36.6 IU/L(p=0.14)と両期間とも提案されている閾値を大きく上回っていました。同様にP4値も期間Iで10.3±4.9 ng/mL、期間IIで9.9±5.6 ng/mLと十分な上昇を示していました。
GnRHアゴニストトリガー周期のサブグループ解析では、期間Iで回収卵子数(20.14±7.4個 vs. 18.15±9.4個;p<0.01)および受精卵数(9.79±7.1個 vs. 7.05±6.9個;p<0.01)が有意に多かったものの、成熟卵子数(11.17±8.5個 vs. 10.35±8.3個;p=0.14)と臨床使用可能受精胚数(5.98±3.9個 vs. 5.90±4.3個;p=0.79)に差はありませんでした。
EFS症例のうち11周期(期間Iで4例、期間IIで7例)で採卵当日にreflex測定を実施し、個別判断に基づいてhCGによる再トリガーが行われました。再トリガー症例の内訳は、GnRHアゴニスト後にhCG再トリガーが8例(期間I: 3例、期間II: 5例)、dual trigger後にhCG再トリガーが2例、hCG後にhCG再トリガーが1例でした。再トリガー後36時間で採卵を行い、平均6.8±2.4個(期間I)および9.9±3.1個(期間II)の卵子が回収され(p=0.50)、臨床使用可能受精胚は両期間とも平均3.5個と同等でした(p=1.00)。

私見

GnRHアゴニストトリガー後の定期的なホルモン測定の必要性に懐疑的な報告: 

  • Li XF, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2022 
    GnRHアゴニストトリガー後のLH値が10 mIU/mL未満でも良好なIVF成績が得られる。 
  • Dunne C, et al. J Obstet Gynaecol Can. 2018 
    GnRHアゴニストトリガー後のLH測定が卵子成熟の予測に有用でない。 

GnRHアゴニストトリガー後の定期的なホルモン測定の有用性を示唆する報告: 

  • Shapiro BS, et al. Fertil Steril. 2011 
    GnRHアゴニストトリガー後の適切なLHサージ(15~30 IU/L以上)の重要性を指摘。 
  • Chen SL, et al. Hum Reprod. 2012 
    トリガー後のLH値が卵子回収数を予測する可能性を示唆(基準値記載なし)。 

現在のところ、GnRHアゴニストトリガー後12時間のホルモン測定は定期的測定の必要性は低く、EFS既往の患者のみに選択的測定を考慮すべきだと思います。また、当日EFSだった場合の再トリガーも選択肢かもしれません。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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