はじめに
IVF/ICSIにおける卵巣刺激では、早発LHサージを防ぐための下垂体抑制が不可欠です。従来から用いられてきたGnRHアゴニストロング法は、長期間の下垂体脱感作によりLHサージを確実に抑制しますが、注射回数が多く治療期間が2周期に及ぶこともあります。一方、GnRHアンタゴニスト法は即時的なLH抑制が可能で、OHSSリスク低減という利点があります。しかしながら、従来の系統的レビューの多くは一般不妊患者・PCOS患者・低卵巣反応患者といった患者背景を十分に考慮しておらず、また刺激変数が一変数に限定されていない研究を含むという問題がありました。今回、患者タイプ別にGnRHアンタゴニスト法とロング法を比較した系統的レビュー・メタアナリシスをご紹介いたします。
ポイント
一般IVF集団ではロング法がアンタゴニスト法より継続妊娠率でやや優れますが、PCOS患者・低卵巣反応患者ではアンタゴニスト法はロング法と同等の妊娠成績を示し、いずれもOHSSリスクを有意に低減します。
引用文献
Lambalk CB, et al. Hum Reprod Update. 2017;23(5):560-579. doi: 10.1093/humupd/dmx017.
論文内容
IVFまたはICSIを行うカップルを対象に、患者集団および治療スケジュールを考慮したうえでGnRHアンタゴニスト法と標準的なGnRHアゴニストロング法を比較することを目的とした系統的レビューおよびメタアナリシスです。Cochrane月経障害および不妊レビューグループ専門登録試験データベース、PubMedおよびEmbaseを1996年から2016年6月まで検索しました。適格基準を満たしたのはIVF/ICSIを実施したカップルにおいてGnRHアンタゴニスト法と標準的なGnRHアゴニストロング法を比較した無作為化比較試験(RCT)のみとしました。主要アウトカムは継続妊娠率とし、副次アウトカムとして出生率、臨床妊娠率、回収卵子数、OHSSを評価しました。一般IVF集団、PCOS患者、低卵巣反応患者の3群に分け、アンタゴニストプロトコルの種類(fixed/flexible、OHP前処置あり/なし)によるサブグループ解析を事前に計画しました。
結果
計607件の文献をスクリーニングし、最終的に50件のRCTをメタアナリシスに採用しました(一般IVF集団:34件、PCOS患者:10件、低卵巣反応患者:6件)。ランダム化された総症例数は9950例でした。
一般IVF集団(26試験、7191カップル)において、アンタゴニスト群の継続妊娠率はアゴニスト群と比較して有意に低値でした(RR 0.89、95%CI 0.82–0.96、I²=0%)。アンタゴニスト群の継続妊娠率は23.8%であったのに対し、アゴニスト群では27.4%と、絶対差は3.6%でした。サブグループ解析では、経口ホルモン前処置(OHP)とflexibleアンタゴニスト法を組み合わせた場合に継続妊娠率が有意に低く(5試験、625カップル;RR 0.74、95%CI 0.59–0.91)、OHPなしのflexible法ではRR 0.84(95%CI 0.71–1.00)でした。一方、OHPなしのfixed法(9試験、3327カップル;RR 0.94、95%CI 0.83–1.05)およびOHPありのfixed法(3試験、1263カップル;RR 0.94、95%CI 0.79–1.12)では有意差を認めませんでした。臨床妊娠率もアンタゴニスト群で低く(34試験、8084カップル;RR 0.90、95%CI 0.84–0.96)、回収卵子数もアゴニスト群で有意に多い結果でした(31試験、7080カップル;加重平均差 −1.04、95%CI −1.56〜−0.52、I²=81%)。OHSS発生率はアンタゴニスト群で有意に低く(22試験、5598カップル;RR 0.63、95%CI 0.50–0.81)、アゴニスト群のOHSS発生率6.2%に対しアンタゴニスト群では3.7%で、絶対リスク差は2.5%でした。アンタゴニスト法は40名に1例のOHSSを予防する一方、28名に1例の継続妊娠を減少させる計算となりました。
PCOS患者(9試験、1294カップル)においては、アンタゴニスト群とアゴニスト群の間に継続妊娠率の有意差は認められませんでした(RR 0.97、95%CI 0.84–1.11、I²=0%)。OHPありのfixed法(3試験、434カップル;RR 0.94、95%CI 0.63–1.40)およびOHPありのflexible法(7試験、814カップル;RR 1.02、95%CI 0.79–1.36)でもいずれも有意差なしでした。臨床妊娠率にも差はなく(10試験、1086カップル;RR 1.01、95%CI 0.86–1.19)、回収卵子数にも差はありませんでした。一方、OHSS発生率はアンタゴニスト群で有意に低く(RR 0.53、95%CI 0.30–0.95)、PCOS患者においてはアンタゴニスト14例の治療で1例のOHSSを予防できる計算でした。
低卵巣反応患者(6試験、780カップル)においても、アンタゴニスト群とアゴニスト群の継続妊娠率に有意差は認められませんでした(RR 0.87、95%CI 0.65–1.17)。臨床妊娠率(6試験;RR 0.85、95%CI 0.66–1.10)や出生率(3試験、544例;RR 0.89、95%CI 0.56–1.41)においても有意差なしでした。この群ではOHSSデータを有する試験がありませんでした。
感度分析において、ランダム化方法を報告していない研究およびOHPを用いた研究を除外した一般集団での解析でも、継続妊娠率のRRは0.89(95%CI 0.80–0.99)と変わらず、アゴニスト群の優位性は維持されました。
私見
本メタアナリシスが明らかにしたように、一般IVF集団における継続妊娠率の観点からはGnRHアゴニストロング法がアンタゴニスト法に対して絶対差3.6%の優位性を持ちます。この差をどう評価するかについては臨床的な議論があります。
本研究が継続妊娠率の差をもたらす機序として考察しているのは、主に2点です。第一に、LHサージの抑制不足です。Fixed法ではFSH刺激6日目からアンタゴニストを開始しますが、LHサージの80%以上がアンタゴニスト開始前に発生するとされており(Kolibianakis et al., 2011)、ロング法の<1%に比べfixed法で8%以上のLHサージが確認されています。Flexible法ではさらに開始が遅れる傾向があり、同様の問題があります。第二に、アンタゴニスト法では早期卵胞期における内因性FSH分泌の抑制が不十分なため、卵胞発育が非同期になりやすく、回収卵子数が減少する可能性があります。
Cochrane reviewとなる Al-Inany HG, et al. の2016年版では、全体としてアンタゴニスト法は有効性を損なわずOHSSを有意に予防するという結論を示しており、本研究との解釈の差は患者背景の層別化の有無に起因すると考えられます。本論文の強みは、一般集団・PCOS・低卵巣反応患者の3群に分けて解析した点にあり、PCOS患者および低卵巣反応患者ではアンタゴニスト法がロング法に劣らないことを示しています。
Fixed法とFlexible法の比較という観点では、OHPと組み合わせたflexible法でのみ継続妊娠率が有意に低く(RR 0.74)、OHPを使用しないfixed法(RR 0.94)やOHPありのfixed法(RR 0.94)では有意差がないことは、臨床的に重要な示唆です。ERA検査後や前周期にホルモン調整周期で陰性となった場合のように「OHPを使用した直後のアンタゴニスト法」に相当する状況では、この点を念頭に置いておく必要があります。
患者選好の観点からは、van den Wijngaard L, et al.(Gynecol Obstet Invest. 2014)による離散選択分析において、患者はOHSSリスク低減を得るためであれば妊娠率0.87倍への低下を許容するとされており、患者視点ではアンタゴニスト法の簡便性・安全性が重視されることも示されています。
なお、本研究では出生率ではなく継続妊娠率を主要評価項目としています。その理由として著者らは、継続妊娠率が出生率の極めて良好な代替指標であること(Braakhekke M, et al. Fertil Steril. 2014)、および当時の多くの研究が出生率データを有していなかったことを挙げています。一方で現在の全胚凍結メインの診療環境においては、本研究の成績(新鮮胚移植メイン時代)をそのまま現代に外挿することには限界があります。
全胚凍結戦略の普及やPPOS含めた卵巣刺激のパーソナライズ化が進んでいますが、患者背景に応じて調節卵巣刺激を柔軟に使い分けることが患者個別化医療において良いと感じています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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