体外受精

2026.04.27

慢性子宮内膜炎における薬剤耐性の増加と治癒判定の重要性(J Assist Reprod Genet. 2022 / J Clin Med. 2025)

はじめに

慢性子宮内膜炎(CE)に対する抗菌薬治療は組織学的治癒と生殖予後の改善に有効とされていますが、近年、他の感染症領域と同様に薬剤耐性(AMR)の問題が顕在化しつつあります。今回、日本とイタリアからそれぞれ報告された、CEにおける多剤耐性菌の経年推移と治療戦略に関する2論文をご紹介いたします。いずれもCE治療後の治癒判定の重要性を裏付けるエビデンスです。

ポイント

慢性子宮内膜炎に対する第一選択抗菌薬への耐性は経年的に増加しており、治療後の組織学的治癒判定と培養に基づく個別化治療が不可欠です。

引用文献

  1. Kitaya K, et al. J Assist Reprod Genet. 2022;39:1839-1848. doi: 10.1007/s10815-022-02528-7.
  2. Cicinelli E, et al. J Clin Med. 2025;14:4873. doi: 10.3390/jcm14144873.

論文内容

論文1:Kitaya K, et al. 2022

国内RIF女性における多剤耐性慢性子宮内膜炎(MDR-CE)の年間有病率と経年推移を評価し、MDR-CEに対する三次治療レジメンを確立することを目的とした後方視的/前方視的コホート研究およびパイロット研究です。2010年4月から2021年9月の間にRIFの既往を有する不妊女性3473名が対象となりました。CD138免疫染色子宮内膜切片3449検体において子宮内膜間質プラズマ細胞密度指標(ESPDI)を算出しCEを評価しました。MDR-CE患者17名と抗菌薬感受性CE患者16名の腟分泌液および子宮内膜液中の細菌叢を比較しました。パイロット研究として、MDR-CE適格患者にモキシフロキサシン経口投与(400 mg/日、10日間、n=24)またはアジスロマイシン経口投与(500 mg/日、3日間、n=24)を実施しました。

結果

2010年4月から2020年3月までの10年間で、CEはRIF女性の31.4%(1082/3449)に検出されました。CE有病率は前半5年間(30.2%、237/785)と後半5年間(31.7%、845/2664)で同等であり、10年間を通じて安定していました(OR 1.07、95%CI 0.90–1.28、p trend>0.05)。CE患者1082名のうち1071名が第一選択薬ドキシサイクリン(200 mg/日、14日間)による治療を実施し、第二回生検で78.8%(844/1071)に組織学的治癒が確認されました。ドキシサイクリン耐性CE 227名のうち224名が第二選択薬シプロフロキサシン/メトロニダゾール併用療法を実施し、第三回生検で62.5%(140/224)に治癒が確認され、84名がMDR-CEと判定されました。全CE患者におけるMDR-CEの総有病率は7.8%(84/1082)であり、前半5年間の1.3%(3/237)から後半5年間の9.6%(81/845)へ著明に増加しました(OR 8.27、95%CI 2.58–26.43、p trend<0.001)。MDR-CE群は抗菌薬感受性CE群と比較して年齢が低く(36.1±5.1歳 vs 37.2±4.3歳、p=0.027)、過去の移植周期数(3.9±0.5 vs 4.1±0.7、p=0.011)および移植受精胚数(4.1±0.6 vs 4.4±1.2、p=0.024)も少ない傾向がみられました。初回生検時の平均ESPDIはMDR-CE群(19.3±11.3)およびドキシサイクリン耐性・シプロフロキサシン/メトロニダゾール感受性CE群(19.9±10.2)がドキシサイクリン感受性CE群(15.1±9.0)より有意に高値でした(p<0.0001)。MDR-CE群と抗菌薬感受性CE群の間で、腟分泌液および子宮内膜液の細菌叢にMDR-CEに特有の菌種やコミュニティは同定されず、Lactobacillus検出率(88.2% vs 93.8%、OR 0.50、p=0.59)およびLactobacillus優位型細菌叢の割合(77.8% vs 76.5%、OR 1.08、p=0.92)にも差はありませんでした。パイロット研究では、MDR-CEの組織学的治癒率はモキシフロキサシン群79.2%(19/24)、アジスロマイシン群75.0%(18/24)で同等でした(OR 1.27、95%CI 0.32–4.89、p=0.73)。治癒確認後の胚移植における出生率も初回移植周期(31.6% vs 33.3%、OR 0.92、p=0.91)および累積3移植周期あたりの継続妊娠/出生率(カップルあたり57.9% vs 61.1%、OR 0.88、p=0.84)で両群間に差を認めませんでした。

論文2:Cicinelli E, et al. 2025

イタリアCE患者の子宮内膜培養から分離された病原体における薬剤耐性の経時的推移を調査することを目的とした横断研究です。2020年1月から2024年6月までにCEと診断された244名の女性が対象となりました。除外基準は、CEの既往診断・治療歴、子宮鏡検査および生検前1か月以内の抗菌薬使用、前3か月以内のプレ/プロバイオティクスまたは避妊薬使用、既知の免疫抑制状態、キノロン系またはマクロライド系薬剤への過敏症としました。CEは子宮鏡検査所見と子宮内膜の組織学的・免疫組織化学的検査および微生物培養を組み合わせて診断されました。EUCAST基準に準拠して抗菌薬感受性試験が行われました。

結果

CE診断時の年齢中央値は33歳(範囲26–44歳)でした。最も高頻度に分離された病原体はEnterococcus faecalis(26.2%、64例)、次いでEscherichia coli(19.3%、47例)、Ureaplasma urealyticum(16.4%、40例)でした。アンピシリン耐性は検査対象65例中64例(98.5%)に認められ、全期間を通じて高率でした。ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)陽性率は72例中25例(34.7%)で、2020年の0%から2023年の85.7%、2024年前半の100%へと有意に増加しました(p<0.001)。ペニシリン耐性は52例中16例(30.8%)に認められ、2020年の0%から2023年の69.2%、2024年の83.3%へ有意に上昇しました(p<0.001)。治療薬クラス別では、テトラサイクリン系耐性が75.8%(185/244)、キノロン系耐性が68.4%(167/244)、ニトロイミダゾール系耐性が39.3%(96/244)、リンコサミド系耐性が50.4%(123/244)と高率でした。一方、マクロライド系耐性は2.9%(7/244)と低率でした。年次別にみると、テトラサイクリン系耐性は2020年の64.3%から2023年の97.4%へ、キノロン系耐性は52.4%から97.4%へ、ニトロイミダゾール系耐性は21.4%から60.5%へと上昇傾向を示しました。ESBL陽性およびペニシリン耐性は年齢上昇と有意に関連していました(各p=0.019、p=0.002)。

私見

本2報は、CEに対する経験的抗菌薬治療の有効性が経年的に低下していることを、日本とイタリアの異なるアプローチから裏付けています。
注目すべきは両者の耐性判定法の違いです。Kitayaらは段階的抗菌薬投与後のCD138免疫染色によるESPDI再評価で治癒/非治癒を判定する「表現型ベース」の方法を用いています。共著者にVarinos社が入っており、MDR-CE群と感受性CE群の腟分泌液・子宮内膜液に対して16S rRNA遺伝子のNGS解析を実施しています。しかしこの解析は治療前ではなく、一連の抗菌薬治療が終了した後に「なぜ治らなかったのか」を探索する研究目的で行われたものです。結果としてMDR-CEに特有の菌種や細菌コミュニティは同定されませんでした。ここで重要なのは、16S rRNA解析は菌の属レベルの同定と存在比を示すものであり、個々の菌株がどの抗菌薬に耐性であるかの情報は得られないという点です。同じEnterococcus faecalisであっても耐性株か感受性株かの区別はこの検査ではつきません。
対照的に、CicinelliらはEUCAST基準に準拠した従来型培養・感受性試験で菌種ごとのS/I/R判定を直接行い、薬剤選択に直結する情報を得ています。ESBL陽性率が2020年の0%から2024年の100%へ急増した知見は、培養でなければ捉えられないデータです。
日本で培養が主流とならない背景には、子宮内膜がlow-biomass環境であり次世代シーケンサー検査が普及したこと、腟常在菌コンタミネーションの回避が技術的に難しいこと、嫌気性菌やMycoplasma等の培養困難菌の存在、CD138免疫染色による段階的治療プロトコルが臨床的に機能してきた実績があるからだと思います。
今後は、CE治療後の成績をあげるための治癒判定を子宮内細菌叢ベースでもどう考えるかなんだと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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