体外受精

2026.05.01

IVF患者における腟内細菌叢治療の効果検証:ランダム化比較試験(Nat Commun. 2025)

はじめに

IVF患者における腟内細菌叢異常(dysbiosis)の有病率は約19%とされ、細菌性腟症型dysbiosisが子宮内膜へ上行感染し、受精胚の着床や初期妊娠を阻害する可能性が示唆されてきました。システマティックレビューでは、腟内dysbiosis群で臨床妊娠率の低下(RR 0.82)や早期流産リスクの増加(RR 1.49)が報告されています。
今回、IVF患者の細菌性腟症型腟内dysbiosis(AVM)に対し、クリンダマイシンおよびプロバイオティクス製剤LACTIN-Vの胚移植前投与が生殖成績を改善するかを検証した、デンマーク発の多施設RCTをご紹介いたします。

ポイント

IVF患者の細菌性腟症型腟内細菌叢異常に対するクリンダマイシン単独またはプロバイオティクス製剤LACTIN-V併用の胚移植前治療は、細菌学的には有効であったものの、臨床妊娠率・出生率などの生殖成績を改善しませんでした。

引用文献

Haahr T, et al. Nat Commun. 2025;16:5166. doi: 10.1038/s41467-025-60205-6.

論文内容

定量的PCRによりFannyhessea vaginaeおよびGardnerella spp.の高値で定義される腟内細菌叢異常(AVM)を有するIVF患者に対し、クリンダマイシンおよびLactobacillus crispatus CTV-05(LACTIN-V)の胚移植前投与が臨床妊娠率を改善するかどうかを検討した、ランダム化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験です。デンマークの大学関連施設3施設および民間施設1施設で実施されました。
対象は18〜42歳、BMI 35未満のIVF患者で、AVM陽性と診断された方です。患者は卵巣刺激開始日または凍結融解胚移植周期の初期に無作為化され、少なくとも12日間の投薬期間が確保されました。3群(1:1:1)に割付され、第1群(CLLA群)はクリンダマイシン300mg×2/日を7日間経口投与後、LACTIN-Vを腟内投与しました。LACTIN-VはLactobacillus crispatus CTV-05を1回あたり2×10⁹ CFU(200mg)含有する生菌製剤で、あらかじめ充填された使い捨て腟内アプリケーターで投与されます。クリンダマイシン最終投与翌日から7日間連続で1日1回、その後は週2回、合計21本使用するか妊娠7〜9週の妊娠判定超音波検査日まで継続しました。第2群(CLPL群)はクリンダマイシンとプラセボLACTIN-Vを投与し、第3群(PLPL群)は両薬剤のプラセボを投与しました。プラセボクリンダマイシンはマンニトールカプセル、プラセボLACTIN-VはL. crispatus CTV-05を含まない同一基剤でした。mITT解析では、治療開始から63日以内に同一月経周期内で胚移植を受けた患者が対象とされました。主要評価項目は妊娠7〜9週の超音波による臨床妊娠率、副次評価項目は出生率、生化学的妊娠率、継続妊娠率、早期流産率、早産率、出生体重、有害事象としました。
合計1,533例のIVF患者がAVMスクリーニングを受け、338例が無作為化されました。除外の主な理由はAVM陰性(1,003例)でした。mITT解析ではCLLA群94例、CLPL群88例、PLPL群84例が対象となりました。3群間でベースライン特性に統計学的有意差は認められず、患者の88%は新鮮胚移植周期で無作為化され、86〜90%が胚盤胞移植を受けました。

結果

女性年齢と受精胚の質で調整後の臨床妊娠率は、CLLA(抗生剤+プロバイオティクス)群42%(95.1%CI 32–52%)、CLPL(抗生剤+プラセボ)群46%(95.1%CI 36–56%)、PLPL(プラセボ+プラセボ)群45%(95.1%CI 35–56%)でした。2つの治療群とPLPL(プラセボ+プラセボ)群の平均効果の比較ではaRR 0.98(95.1%CI 0.74–1.29)とほぼ同等でした。
調整後のhCG陽性率はCLLA(抗生剤+プロバイオティクス)群62%(95.1%CI 52–71%)、CLPL(抗生剤+プラセボ)群65%(95.1%CI 56–75%)、PLPL(プラセボ+プラセボ)群59%(95.1%CI 49–69%)でした。調整後の継続妊娠率はCLLA(抗生剤+プロバイオティクス)群41%(95.1%CI 31–51%)、CLPL(抗生剤+プラセボ)群45%(95.1%CI 35–55%)、PLPL(プラセボ+プラセボ)群44%(95.1%CI 34–55%)でした。調整後の出生率はCLLA(抗生剤+プロバイオティクス)群40%(95.1%CI 30–50%)、CLPL(抗生剤+プラセボ)群45%(95.1%CI 35–55%)、PLPL(プラセボ+プラセボ)群40%(95.1%CI 30–51%)であり、いずれも3群間で有意差を認めませんでした。34週未満の早産はなく、37週未満の早産はCLLA(抗生剤+プロバイオティクス)群4例(4%)、CLPL(抗生剤+プラセボ)群2例(2%)、PLPL(プラセボ+プラセボ)群4例(5%)でP=0.72でした。
有害事象については、クリンダマイシン投与2群でPLPL(プラセボ+プラセボ)群と比較して下痢(RR 2.92、95%CI 1.26–6.76)および腹痛(RR 2.19、95%CI 1.05–4.58)が有意に増加しました。LACTIN-V投与群ではプラセボLACTIN-V群と比較して腟掻痒感が有意に増加しました(RR 4.09、95%CI 1.26–13.29)。服薬コンプライアンスはほぼ100%でした。
Post hoc解析として、胚移植時のAVM治癒率はCLLA(抗生剤+プロバイオティクス)群100%(61/61例)、CLPL(抗生剤+プラセボ)群75%(43/57例)、PLPL(プラセボ+プラセボ)群36%(22/61例)と治療群で有意に高値でしたが、無作為化当日にAVM陽性であった患者に限定した感度分析でも3群間で生殖成績に有意差は認められませんでした。16S rRNA遺伝子シーケンシングに基づくCST分類別の解析でも、CST IV-A+B(BV型)、CST IV-C(AV型)、CST I/II/III/V(Lactobacillus優位型)のいずれにおいても有意な治療効果は認められませんでした。一方、治療割付にかかわらず、無作為化当日に自然にLactobacillus優位のCSTを有する患者はCST IV群と比較して有意に高い臨床妊娠率を示しました(RR 1.36、95%CI 1.00–1.85)。

私見

細菌性腟症の治療が生殖予後に関係ありませんでしたね。
早産予防におけるBV治療の議論と類似しています。細菌性腟症と早産の関連はメタアナリシスで示されましたが(Leitich H, et al. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2007)、最大規模の介入試験PREMEVA(Subtil D, et al. Lancet. 2018)では治療効果が認められず、ガイドライン(US Preventive Services Task Force. JAMA. 2020)でも細菌性腟症治療による早産予防は推奨されていません。
Cochraneレビュー(Ameratunga D, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2023)でも胚移植前抗菌薬投与の臨床妊娠率への効果はOR 1.01(95%CI 0.67–1.55)とほぼ同等でした。
本研究の限界として、腟内dysbiosisを子宮内膜dysbiosisの代理指標として用いている点があり、子宮内膜を直接ターゲットとしたスクリーニング・治療では異なる結果が得られる可能性は否定できません。現時点では、IVF患者全般に対する細菌性腟症型腟内dysbiosisのルーチンスクリーニングおよび治療は推奨されないと結論されています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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