
はじめに
単一正倍数性胚盤胞移植の普及により、胚の染色体異常という交絡因子が除かれ、子宮内膜など非胚性因子をより偏りなく検討できるようになりました。内膜調整法には自然周期(NC)、修正自然周期(mNC)、ホルモン調整周期(HRT)があり、それぞれ利点と欠点を持ちます。今回、単一正倍数性胚盤胞移植に限定し、mNCとHRTが臨床・新生児予後に与える影響を検討した大規模後方視的研究をご紹介いたします。
ポイント
正倍数性胚盤胞の凍結融解胚移植では、HRTはmNCに比べ流産率が高く出生率が低い傾向があり、可能な限り自然周期ベースの内膜調整が望ましい可能性があります。
引用文献
Pittana E, et al. J Assist Reprod Genet. 2026. doi: 10.1007/s10815-026-03910-5.
論文内容
単一施設で11年間に実施された単一正倍数性凍結融解胚盤胞移植を解析した後方視的コホート研究です。HRTによる内膜調整がmNCによる内膜調整と比較して臨床・新生児予後に影響するかを評価することを目的としました。対象は2012年1月から2023年12月にローマの民間施設でICSIを受けた患者で、内分泌性排卵障害例は除外されました。卵巣刺激はGnRHアンタゴニスト(93.2%)、GnRHアゴニスト(3.1%)、PPOS(3.7%)で行い、トリガーはアゴニスト67.9%、hCG 32.1%でした。
内膜調整はmNCまたはHRTで行われました。mNCでは卵胞期早期から経腟超音波で主席卵胞と内膜をモニターし、主席卵胞が平均径16〜18 mm、内膜が三層構造かつ厚さ≥7 mmに達した時点で尿中hCG 10,000 IU単回皮下注で排卵をトリガーしました。黄体補充はトリガー36〜40時間後に腟内マイクロナイズドプロゲステロン600 mg/日(分割投与)で開始し、胚移植は発育ステージに応じてhCG+7日またはP+5日に設定しました。HRTでは月経2〜3日目から経口エストラジオール吉草酸エステル6 mg/日(3分割)を開始し、超音波評価に応じて調整、内膜が三層構造かつ厚さ≥7 mmに達した時点で腟内マイクロナイズドプロゲステロン800 mg/日を開始(黄体期day 0と定義)、胚移植はP+5日目に設定しました。いずれの群もエストラジオール・プロゲステロンは継続妊娠例で少なくとも妊娠10週まで継続しました。生化学的流産は、胚移植11日後の血清β-hCGの一過性上昇(≥50 IU/L、少なくとも2回の測定で上昇傾向)を認めるが子宮内・異所性妊娠の超音波所見を伴わないものと定義されました。臨床的流産は妊娠22週未満での流産・死産、出生は妊娠22週を超えた生児の分娩と定義されました。患者内での反復胚移植を考慮した一般化推定方程式(GEE)を用い、関連交絡因子を調整した多変量ロジスティック回帰で両群を比較しました。
結果
2257人計3507回の胚移植が解析され、採卵時平均年齢37.5±3.2歳、移植時37.8±3.3歳、平均BMI 22.1±3.2 kg/m²でした。mNC 1378回、HRT 2129回で、年齢・BMIは両群同等でした。妊娠陽性率はmNC 56.6% vs. HRT 55.6%、生化学的流産率(10.3%対12.7%)も両群で差を認めませんでした。一方、臨床的流産率はHRTで有意に高く、移植時年齢・TE生検日・Gardnerスコアを調整した多変量解析でもHRTで高値でした(mNC 10.0% vs. HRT 16.2%;OR 1.72, 95% CI 1.27–2.33, p<0.001)。結果として出生率もmNCで有意に高くなりました(mNC 45.7% vs. HRT 40.7%;OR 0.83, 95% CI 0.72–0.96, p=0.012)。各患者の初回移植のみの解析でも同様で、流産率(OR 1.50, 95% CI 1.05–2.14, p=0.026)、出生率(OR 0.84, 95% CI 0.71–0.99, p=0.050)が確認されました。新生児予後は電話でヒアリングを行い(mNC 566分娩、HRT 786分娩)、LGAはHRTで多く、SGAはmNCで多く認められました(p<0.001)。出生体重はHRTで有意に高く(p<0.001)、母体BMI調整後も同様でした(HRT vs mNC:+72 g, 95% CI +1〜+147 g, p=0.050)。在胎週数は両群で同等でした。双胎分娩率はmNC 1.1%対HRT 1.1%で差はありませんでした。
私見
HRTによる内膜調整はmNCによる内膜調整に比べて流産率上昇・出生率低下を示しました。著者らはその機序として、HRTでは黄体(CL)が存在せず、リラキシンや血管内皮細胞増殖因子といった黄体由来の血管作動性因子を欠くため、母体心血管系の適応不全や胎盤血管リモデリングの障害が生じうる点、超生理的なエストロゲン曝露、外因性プロゲステロンへの完全依存と吸収・代謝の個人差を挙げています。
正倍数性胚に限定した先行研究との対比は以下の通りです。
肯定派(mNC優位):
- Li X, et al. Front Endocrinol. 2022.
後方視的、単一正倍数性、自然周期で出生率上昇) - Marques LM, et al. Fertil Steril. 2025.
費用対効果、真の自然周期がHRTに優る - Liu X, et al. PLoS Med. 2025.
排卵性女性のオープンラベルRCT「COMPETE」、mNCで良好 - Greco E, et al. J Assist Reprod Genet. 2016.
正倍数性のRCT、着床・臨床妊娠率は同等だがHRTで出生率低下・流産率増加 - Bellver J, et al. Placenta. 2025.
多施設RCT、人工調整周期で出生率有意低下、血管・胎盤の適応不全を示唆
否定派(差なし):
- Fu Y, et al. Reprod Biomed Online. 2022.
PGT後の2法比較、臨床予後に差なし - Melnick AP, et al. J Assist Reprod Genet. 2017.
後方視的、有意差認めず - White K, et al. J Assist Reprod Genet. 2025.
排卵周期と調整周期で妊娠予後同等
HRTによる内膜調整はプロゲステロン製剤は投与経路による違い、mNCプロコトールなどにより結果は変わりそうなので、今回のスタディはあくまでプロゲステロン腟剤単独でのHRT周期とmNCとの予後の違いを調べた論文として認識しておくべきだと考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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