はじめに
プロゲステロン(P)はGnRHパルス頻度を低下させ、E2による正のフィードバックを遮断してLHサージを抑制することが知られています。この作用を卵胞期早期にまで拡張したのがPPOS(progestin-primed ovarian stimulation)で、これまでにメドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)や経口天然型プロゲステロン製剤であるウトロゲスタンが、GnRHアナログに代わる早発LHサージ抑制法として検証されてきました。ガラス化保存の成績向上により「freeze-all」戦略が定着し、内膜受容能への影響を考慮せずにP製剤を刺激期に使用できるようになったことも追い風です。ジドロゲステロン(デュファストン)は内因性Pに構造・薬理作用が近い合成プロゲスチンで、内因性P測定を妨げず、アンドロゲン作用も乏しい薬剤ですが、卵巣刺激中の使用を検討した報告はありませんでした。今回、正常排卵women を対象にデュファストンとウトロゲスタンを比較した前向き試験をご紹介いたします。
ポイント
卵巣刺激中のデュファストン投与は、ウトロゲスタンと同等に早発LHサージを抑制し、胚の性状および凍結融解胚移植後の妊娠予後も同等でした。
引用文献
Xiuxian Zhu, et al. Fertil Steril. 2017 Sep;108(3):505-12. doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.06.017.
論文内容
ARTを受ける正常排卵女性において、デュファストン+hMG法による調節卵巣刺激(COH)と凍結融解胚移植を組み合わせた場合の内分泌学的特性および臨床成績を、ウトロゲスタン+hMG法と比較評価することを目的とした前向き比較試験です(本文中では前向き無作為化比較試験、非劣性試験と記載されています)。三次医療機関である上海交通大学医学院附属第九人民病院にて実施され、対象はIVF/ICSIを受ける不妊患者250名です。
方法として、デュファストン(20 mg/日)またはウトロゲスタン(100 mg/日)を月経3日目からトリガー日まで経口投与し、hMG(150〜225 IU)を適宜併用しました。主席卵胞が成熟に達した時点で、0.1 mgのGnRHアゴニストをトリガーとして使用しました。いずれのプロトコールでも有効胚はすべて凍結保存し、後周期に移植する方針としました。主要評価項目は採卵数、副次評価項目は早発LHサージの発生率、有効胚数、および凍結融解胚移植周期における臨床妊娠成績です。
結果
COH期間中を通じて一貫したLH抑制が得られ、早発LHサージを来した参加者は両群ともに認められませんでした。採卵数(8.22±5.46 vs. 8.8±5.62)は両群で同等でした。成熟卵子数(7.2±4.72 vs. 6.98±4.68)、受精した卵子数(6.16±4.34 vs. 6.32±4.23)、有効胚数(2.96±2.22 vs. 3.4±2.54)についても群間に有意差は認められませんでした。さらに、臨床妊娠率(53.04% vs. 51.7%)、初期流産率(8.2% vs. 11.84%)、着床率(38.68% vs. 35.71%)、女性あたり累積妊娠率(66.67% vs. 69.47%)も同様でした。結論として、COH中のデュファストン投与は、LHサージの抑制、胚の性状、妊娠予後のいずれにおいてもウトロゲスタンと同等でした(臨床試験登録番号:ChiCTR-IOR-15007265)。
なお本文中の追加データとして、月経9〜11日目の平均LH値はデュファストン群で有意に低く(3.11±1.76 vs. 4.31±2.38 IU/L; P<.05)、トリガー日(2.57±1.61 vs. 3.06±2.1 IU/L)およびトリガー翌日(52.77±21.54 vs. 57.12±23.8 IU/L)は同等でした。E2値は月経9〜11日目、トリガー日、トリガー翌日のいずれもウトロゲスタン群で有意に高値でした。トリガー日のP値はデュファストン群で0.57±0.41 ng/mLと低値に保たれ、トリガー翌日もウトロゲスタン群より有意に低値でした(3.19±1.7 vs. 6.74±3.93 ng/mL; P<.05)。成熟卵子率はデュファストン群で有意に高く(87.55% vs. 79.27%; P<.001)、一方で分割率は有意に低値でした(87.53% vs. 92.28%; P=.002)。中等症・重症OHSSの発生は両群ともゼロでした。
私見
デュファストンは合成プロゲスチン、ウトロゲスタンは天然型プロゲステロンですが、日本で一般的な腟坐薬ではなく経口製剤である点にご留意ください。著者らは「20 mg/日のデュファストンは200 mg/日のウトロゲスタンに相当する」という薬理学的等価性(Schindler AE, et al. Maturitas. 2003)を根拠に用量設定しており、本試験の対照が100 mg/日であったことを踏まえると、この差は用量設定に由来する可能性があります。
先行研究の位置づけは以下の通りです。
- 肯定的立場:Kuang Y, et al. Fertil Steril. 2015(MPA)、Zhu X, et al. Medicine (Baltimore). 2015/2016(ウトロゲスタン、PCOS例を含む)、Wang Y, et al. Medicine (Baltimore). 2016(MPAのdouble-blind RCT)、Zhu X, et al. Fertil Steril. 2017(ウトロゲスタン100 mg vs. 200 mgの用量検討)。いずれもプロゲスチンによる早発LHサージ抑制と、freeze-all併用下でのGnRHアゴニストショート法と遜色ない成績を報告しています。デュファストンについては黄体補充での使用実績(Ganesh A, et al. Fertil Steril. 2011、Saharkhiz N, et al. Gynecol Endocrinol. 2016)が安全性の傍証となります。
- 慎重な立場:プロゲスチンが卵子・胚の発育能に及ぼす影響については基礎研究の結論が割れています。Zavareh S, et al. Int J Fertil Steril. 2009はP濃度上昇に伴う成熟率低下を、Silva CC, et al. J Reprod Fertil. 2000は卵丘細胞のinhibin α subunit発現亢進を介した胚発育能への負の影響を報告する一方、Aparicio IM, et al. Biol Reprod. 2011はPが卵子発育能に正の役割を担う可能性を示しています(Salehnia M, et al. Int J Fertil Steril. 2013も濃度・種依存性を指摘)。本試験で成熟卵子率と分割率が逆方向に有意差を示した所見は、この不一致と符合するようにも見えますが、いずれも副次的な比率指標であり、最終的な有効胚数に差がない以上、臨床的意義は限定的と考えます。また深いLH抑制が成績に不利に働く可能性(Lahoud R, et al. Hum Reprod. 2006)は、本試験の症例数では検証できていません。
もう一点、本論文の実務上の要点は投与開始時期です。著者らは考察の中で、複数卵胞が10 mmを超えた時点からウトロゲスタン投与を開始した予備検討(未掲載データ)では早発LHサージを抑制できず、月経3日目開始に変更して有効性が得られたと述べています。PPOSで「排卵してしまった」症例のまとまった報告は乏しいため、この記載は貴重です。E2上昇後の投与開始ではLHサージ発生シグナルの伝達を遮断できないという動物実験の知見(Richter TA, et al. Biol Reprod. 2002、Harris TG, et al. Endocrinology. 1999、Pohl CR, et al. Endocrinology. 1982)とも整合的で、迷った場合はプロゲスチンを早期から開始する方が安全と考えられます。
下記コラムでも同様の内容を取り扱っています。
PPOSはデュファストン®で大丈夫?(Hum Reprod. 2018)
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。